のらり 大好評連載中   
 
■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第619回:ロビーカーの記憶 - 寝台特急北斗星 2 食堂車 -

更新日2017/03/02


6号車のミニロビー。ソファも椅子も埋まった。記念乗車が叶って喜ぶ人々。私も同じ心境だ。会話を盗み聞きする。定期運行の北斗星は3月のダイヤ改正で終わり。上野札幌間のカシオペアは残る。4月から、北斗星は臨時便として個室中心の編成になり、カシオペアと交互に走る。カシオペアはいつまで続くだろう。バス代行の岩泉線は、やっぱり廃止か……。


ロビーカーの片隅に残る電話室。公衆電話は撤去されていた

東日本大震災から2年半。北斗星は東北方面に向かっている。話題のタネは北斗星、そして復旧が進まない三陸の鉄道だ。暗い話題だけではない。BRTの感想。被災した山田線の海岸区間はJR東日本から三陸鉄道に譲渡されるらしい。釜石線のSL銀河の蒸気機関車が、東北本線で試運転……。そうかと思うと、おばちゃんたちが普段と同じような世間話をしていたりする。鉄道ファンも、そうでない人も、列車の旅は好きだ。ここには夜行列車の特別な旅情があり、楽しみ方はさまざまだ。

私の悪いクセで、小耳に挟んだネタで他人の会話に混ざってみる。少年と母親。どこから来たかと訊ねると、なんと仙台だという。わざわざ新幹線で東京に行き、日中は観光をして上野から北斗星に乗った。北斗星の仙台着は23時28分だ。しかし、そこで降りるつもりはなく、札幌まで乗り通し、飛行機で仙台に帰るという。北斗星は東北の人々にも誇らしい列車らしい。


パブタイムの食堂車も満席

Sさんと私も旅の話で盛り上がる。しかし声は少し小さめに気をつけている。Sさんと北斗星の逸話は新書の一冊にまとまる量ではない。収まらなかった話、書けなかった話がある。読んで気になったところを質問すると、「実は……」と話が返ってくる。何十年か経って、すべて笑い話にできる頃に、またSさんが書いてくださると期待する。

シャワーカードの行列が終わり、土産物販売の行列になったらしい。結局は行列だ。通り過ぎる人々も多い。ディナータイムを予約して、食堂車へ行き来する様子。私とSさんはディナーのフランス料理コースを予約しなかった。Sさんは好きな料理を選べるパブタイムが好きだという。私は魚介が苦手で、ディナーコースの半分の料理は食べられない。パブタイムに賛成だ。


ハブタイムのメニューから、コースメニュー

ただしパブタイムは先着順だ。混雑していた場合を想定して、上野駅で食料を買っておいた。これはSさんの助言だ。さいわいにも二人用テーブルに着席できた。Sさんはメニューを開き「あ、ここが変わったかも」と言う。たいていの人は一度きりの乗車だけど、常連客のSさんは違いがわかる。スタッフとも顔なじみ。北斗星の楽しみは食堂車だ。


アラカルトメニューのパスタとピザ

Sさんはパスタ。カニのトマトクリーム。私は煮込みハンバーグセットを頼む。Sさんの話は続く。車窓、テーブルクロス、ランプシェード。それぞれに思い出がある。どれを切り出しても話題に事欠かない。書きにくい話も多い。相づちを打ち、笑いつつ、私はちょっと心配になっている。今回の旅をコラムで書こうと企んでいるからだ。しかし料理はうまい。この空間は楽しい。胃袋が満たされると、もう仕事はどうでも良くなった。


スナックメニュー

食堂車は予想より混雑しておらず、私たちは1時間半ほど過ごした。デザートのリンゴシャーベットを味わう頃、Sさんが「そろそろ白河城が見える頃です」と言った。なにしろ457回目だ。風景とタイミングは頭の中に入っている。暗やみの中、ライトアップされた城が通り過ぎる。それを合図に私たちは席を立った。


かにクリームソースのパスタ

もうすぐ仙台駅に到着だ。まだまだ個室に引きこもってはもったいない。ロビーに移って話の続きである。さすがにこの時間は空席がある。眠る人もいれば、夜の車窓を楽しみたい人もいる。ロビーの照明は明るく、窓ガラスに室内が反射する。車窓を眺めるなら個室で消灯したほうがいい。

私にとって北斗星は二度目だ。前回は2000年、たしか5月頃だ。PC雑誌に向けて地図ソフトを紹介する記事を書いた。地図ソフトの機能を説明するために、広尾線の廃線跡を眺めていたら、現地に行きたくなった。近所の駅で聞いてみたら北斗星に空席があって、そのまま北へ旅立った。


ハンバーグステーキコース

この時、北斗星は函館本線の小樽経由だった。有珠山噴火の影響で室蘭本線が不通だったからだ。上野発は夕方で、しばらくは車窓が明るかった。ロビーカーで時刻表をめくり、翌日からの旅程を考えていた。
「それは北斗星1号ですね。ロビーカーはこれと同じ半室でした」とSさんが言う。

そうだったかな。ロビーカーは1両まるごとロビーで、もっと広かった気がする。しかし、後で調べてみると、当時の北斗星は2往復あり、1号と2号はJR北海道の半室ロビーカー編成、3号と4号はJR東日本の全室ロビーカー編成だった。そして有珠山噴火の頃、3号と4号の函館~札幌間は運休していた。


北海道産ソーセージ盛り合わせ

私の乗車記録地図は函館本線小樽経由が塗りつぶされており、室蘭本線は未乗だった。室蘭本線の初乗車は2009年のトワイライトエクスプレスである。記録地図が正しいなら北斗星1号に乗っており、その時、ロビーは半室ということになる。

全室ロビーカーの記憶が正しいならば、時期を間違っている。記録も間違えたことになる。通常の室蘭本線経由となり、函館本線小樽経由ルートに乗っていない。残念ながら、あの頃はハードディスクを何度か壊しており、写真などの記録が残っていない。乗車路線が塗りつぶされた地図しか残っていなかった。


デザートで締めくくる

私にとって、北斗星のロビーカーが半室か全室かというより、函館本線の小樽ルートに乗ったか否かが重要だ。記録が正しいと信じているけれど、なんだか気持ち悪いから、いつか函館本線を乗り直そう。小樽市総合博物館は鉄道の展示も多く、行きたいと思っている。石原裕次郎記念館もある。

Sさんも小樽経由に乗ったという。そのほか、室蘭本線経由で札幌から小樽へ延長運転された時も、夢空間という特別車両が連結されたときも乗ったそうだ。北斗星という列車の歴史は興味深い。1988年に誕生し2015年に定期運行を終えるまで27年間。経由地が変わったり、車両を組み替えたり、さまざまな出来事があった。

東日本大震災で運休し、復活したとき。Sさんは復旧初日の北斗星に乗った。乗務員も乗客も喜びと悲しみが交錯する。食堂車の完全復活には時間がかかったという。大雪などで遅延すると、食堂車では臨時にカレーライスを出してくれたことがあるという。「遅延カレー」と呼んでいたそうだ。北斗星の特別な時間を、Sさんはすべて見届けている。彼が語る食堂車の逸話、ひとつ一つに心が温まる。北斗星の魅力の大部分は食堂車にあった。

-…つづく


杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
著者にメールを送る

1967年生まれ。東京出身。京浜急行沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動する。「新汽車旅日記」をきっかけに鉄道方面にも進出した。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員

<<杉山淳一の著書>>

■連載完了コラム
感性工学的テキスト商品学
~書き言葉のマーケティング
 
[全24回] 
デジタル時事放談
~コンピュータ社会の理想と現実
 
[全15回]

■鉄道ニュース(レポーター)
マイナビニュース
ライフ>> 「鉄道」
発行:マイナビ

 

■著書
『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法: 時刻表からは読めない多種多彩な運行ドラマ!』


列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法
杉山淳一 著


『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。』 ~日本全国列車旅、達人のとっておき33選~』

ぼくは乗り鉄、おでかけ日和
杉山淳一 著


『みんなのA列車で行こうPC 公式ガイドブック (LOGiN BOOKS)』

みんなのA列車で行こうPC 公式ガイドブック
杉山淳一 著


バックナンバー

第1回~第50回まで
第51回~第100回まで
第101回~第150回まで
第151回~第200回まで
第201回~第250回まで
第251回~第300回まで
第301回~第350回まで
第351回~第400回まで
第401回~第450回まで
第451回~第500回まで
第501回~第550回まで
第551回~ 第600回まで

第601回:来世ですれ違う
- 伊予鉄道郡中線 -

第602回:生活路線の終点へ
- 伊予鉄道横河原線 -

第603回:ダイヤモンド・クロッシング
- 伊予鉄道 高浜線 -

第604回:物語がいっぱい
- 高浜駅・梅津寺駅 -

第605回:坊っちゃん列車のマドンナ
- 伊予鉄道 坊っちゃん列車 -

第606回:環状線を作る単線
- 伊予鉄道 城北線 -

第607回:マドンナたちのロープウェイ
- 伊予鉄道 本町線 -

第608回:ひとりで観覧車
- 伊予鉄道 花園線 -

第609回:四国山地を迂回して
- しおかぜ30号・南風25号 -

第610回:夜明けの街の路面電車
- とさでん交通 伊野線 -

第611回:街道に沿い、終点に至らず
- とさでん交通 後免線 -

第612回:旅行鞄の運命
- 土讃線 後免駅~高知駅 -

第613回:高知港の片隅へ
- とさでん交通 桟橋線 -

第614回:目的は龍馬ではなく龍馬像
- とさでん交通バス桂浜線 -

第615回:もうひとりの龍馬
- MY遊バス・南風16号 -

第616回:うどんとそうめんの境界
- 徳島線 阿波池田駅~阿波半田駅 -

第617回:四国完乗
- 徳島線 阿波半田駅~徳島駅 -

第618回:これが最後の北斗星
- 寝台特急北斗星 1 出発 -


■更新予定日:毎週木曜日



  TOP-トップページ》 《コラム一覧 》 《のらりインタビュー》 《コラム・バックナンバー
……………………………………現在連載コラム……………………………………
新・汽車旅日記 】 【店主の分け前 】 【フロンティア時代のアンチヒーローたち ~西部女傑列伝5
 【亜米利加よもやま通信 】 【ひとつひとつの確かさ 】 【よりみち
………………………………掲載完了イチオシコラム………………………………
[拳銃家業 ] [貿易風の吹く島から ] [ くらり、スペイン ] [グレートプレーンズのそよ風 ]  
  [フロンティア時代のアンチヒーローたち ]

     

このサイトに関するご意見・ご感想・お問い合わせはこちらまで。
Copyrights 2017 Norari