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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第664回:比叡山横断 - 延暦寺~叡山ロープウェイ -

更新日2018/07/05

古来より、日本では自然のあらゆるものに神が宿ると信じられている。海にも山にも神がいる。比叡山も例外ではなく、山岳信仰の対象だった。奈良・京都から見て東側、つまり日が昇る方角である。比叡山の東側には日吉大社がある。

おもしろいことに、山には名寺も多い。その地域で最も高く険しい山は、仏教徒が修行の地に選んできたからだろう。その拠点が寺だ。近江国、いまの滋賀県に生まれた最澄は、19歳の時に比叡山で修行した。3年後に一乗止観院という草庵を建立し、薬師如来を本尊とする。これが延暦寺の始まりであった。

01
延暦寺は坂の下

最澄は豪族の家に生まれたと言うけれど、なぜ仏教の道に入ったのだろう。学び舎に行くつもりで寺に行ったらハマってしまった、ということか。最澄が最初に門を叩いた寺が近江国分寺で、現在の石山あたりにあったという。つまり京阪石山坂本線は最澄の道をなぞったと言えそうだ。

最澄が開創した比叡山は、その後、最大で3,000もの寺社が存在したという。一乗止観院は比叡山寺と呼ばれており、延暦寺の名は最澄の死後に名付けられたそうだ。それはともかく、最澄は遣唐使船で中国に渡り、仏教天台宗を学んで帰国する。その教えは浄土宗、禅宗など多くの僧侶に影響を与えた。天台宗は日本における仏教の母体となったという。仏教の大学みたいなものだ。

そんな歴史を聞きかじれば、延暦寺は比叡山の頂上にドンとそびえ立つと思っていたけれど、ケーブルカーを降りて山道を登っていくと、延暦寺は坂の下にある。もともとの草庵の場所は東塔があるところ。さっき見上げた建物だ。一方、延暦寺は大勢の修行僧を引き受けるため、森を切り開いたのだろう。坂道を降りたら、帰りにまた登らなくちゃいけないな。と思いつつ、そうか、自力で登った人はここまで上り、ここから下りるだけだと思い直した。浅はかだった。神聖なる場所に手軽に訪れると、愚かさをさらけ出す。気をつけよう。

拝観料は700円。これは延暦寺を含む東塔地域、すこし離れた西塔地域、さらに離れた横川地域の要所も拝観できる。国宝殿の入館料は500円。すべて回ってこそ比叡山観光だと思うけれど、信心深くないから延暦寺だけ一巡りした。多くの僧侶がここにつどい、学び、そして権力と戦ってきた。そして穏やかな秋の午後、ここは平和な佇まいであった。

02
バスから琵琶湖を見納め

さて、京都側に向かうとしよう。ロープウェイは比叡山頂の南西にあり、シャトルバスが往復している。バスセンターもお客さんが多い。比叡山頂行きの乗り場は二つのベンチが埋まっている。その客の一人に、並んでいますかと聞いたら頷いたので、その横に並んだ。

ところがバスが来てもベンチの人々は動かない。どうしたのだろうと思っていたら、バスの扉が閉まった。あれ? 乗らないの? ああ、この人たちはベンチで休憩していただけか。アジア系の外国の人々だ。なあんだ。そうか。いや待て、オレはどうなる? 時刻表を見に行くと、次のバスは30分後の14時44分。しまった。とんでもないロスタイムだ。あと1時間ほどで京都市内のホテルに行かなくてはいけないのに!

03
ロープウェイの比叡山頂駅から。初秋の雰囲気

歩くか。いや、徒歩でも30分かかる。タクシーはいない。スマホをいじりながら待つ。なんとも無駄な時間である。そういえば、ベンチに座った人をバス待ちの人と勘違いした経験は二度目だ。三陸の「道の駅山田」で、バス待ちの人だと遠目に見ていたら、ただのひなたぼっこだった。バスは少し離れた駐車場から発車した後だった。仏の心を信じても、バス停の前にいる人を信じてはいけない。

04
背の高い森を通り抜ける

叡山ロープウェイは京福電鉄グループだ。坂本ケーブルは京阪電鉄グループだった。山頂を境に西と東で縄張りが違う。されど敵対するほどでもない。仏教の宗派と同じく共存共栄。それに、鉄道の旅が目当てではなくても、同じ道を引き返すより、回遊した方が楽しい。ケーブルカー、ローブウェイ、電車、バス。比叡山横断は楽しいルートだ。

05
搬器は小型。30人乗り

バスの比叡山頂駅からロープウェイの比叡山頂駅は400メートルほど離れている。その間にガーデンミュージアムという庭園がある。残念ながらそこを見物する時間はない。私は迂回してロープウェイの比叡山頂駅へ向かった。なぜ迂回させられるのか。焦っていて、景色を覚える間もなかった。

06
山小屋風のロープ比叡駅

ロープウェイは30人乗りの小型搬器で、所要時間はわずか3分。高低差は約160メートルだ。下側を眺める位置に立った。琵琶湖側は雨模様だったけれど、こちらは少し青空が見える。遠くの山々は霧につつまれているけれど、きっと晴れるだろう。駅を出発すると、いったん視点が上がったような気がする。かなり高いところだけれども、背の高い針葉樹林に囲まれた。そしてゆっくりと大地が近づき、京都の街が広がっている。あそこまで行くには、さらにケーブルカーと叡山電車を乗り継いでいく。

寄り道の旅はまだまだ終わらない。ただ、タイムリミットが近づいている。

07
ケーブル比叡駅へ続く階段からの眺め

-…つづく


杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。京浜急行沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動する。「新汽車旅日記」をきっかけに鉄道方面にも進出した。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員

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