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第453回:流行り歌に寄せて No.253 「ちょっと番外編〜トランジスタラジオ購入」~昭和46年(1971年)

更新日2023/03/09


この『流行り歌に寄せて』、約3年半前の2019年8月15日更新分『ちょっと番外編〜テープレコーダー購入』に続いて2回目の、音響機器購入番外編を書かせていただきたいと思う。

中学1年生の時に父親からテープレコーダーをプレゼントしてもらったが、高校に入学した年の昭和46年(1971年)には、今度はトランジスタラジオを購入してもらった。機種名は、ソニー・ソリッド・ステート Sports 11 [ICF111](写真参照)。今回調べたところ、当時の定価は17,800円で、テープレコーダー同様、父はかなり奮発してくれたのである。

色はモスグリーン、ジープのような色合いで、そのコピーが 『オトコの冒険心をかきたてるアドベンチャー・ラジオ』で全天候型と銘打たれていた。自分はそれほど冒険心を持った青少年ではなかったが、ひと目見て「カッコいい!」と思ってしまい、父親に依頼したのだった。

チューニングで、電波をキャッチすると赤く光る発光ダイオードに「おお!」とときめき、把手と兼用になっていた7段のロッド・アンテナを、何回も伸ばしたり縮めたりして悦に入っていた。

なんといっても、それまでのラジオは、私の生まれる前から家にあった、ビクター製の真空管ラジオで、チューニングでの電波のキャッチをマジック・アイによって指示するタイプのものだった。今考えると、なかなか渋い仕様なのだが、当時はとにかく古臭く、重く持ち運びの不便なイメージしか持てなかったのである。

当時、私が購入してもらったソニー製のラジオとともに、若者に人気のあったのが、ナショナル・ワールドボーイ・シリーズだった。バニーズの歌うCMの主題歌もヒットし、ラジオは好調に売れていた。

余談になるが、高校1年生の時の現代国語の時間に、1冊の副読本が配布された。ところが、数日も経たないうちに、学科の先生から「この副読本は回収します。みんな集めてください」と宣告される。その理由は、この本の裏表紙に、ワールドボーイの広告が印刷されていたのだ。

「教育の場に、商業主義が入る混むのは適切ではない」、教職員組合の先生方が多かった当時、きっとそのように考えられたのだろう。我々は「別にカッコいいからいいんじゃない?」などと思ったりしたが、今考えてみれば、若者の欲しがるラジオの広告を、常に手にする副教材に掲載するのは、やはり問題があると思う。


閑話休題。買ってもらった新しいラジオで、今まで受験勉強のために遠慮がちに聴いていた深夜放送を、今度は思い切り聴くことができた。

私の住んでいた愛知県には、CBCラジオ(中部日本放送)と東海ラジオという民放局がある。今でも私はCBCドラゴンズナイターと東海ラジオガッツナイターは、radikoで愛聴している。

当時、CBCラジオでは『 CBCビップ・ヤング』、東海ラジオでは『ミッドナイト東海』という、それぞれの深夜放送を流していた。

『CBCビップ・ヤング』は、以前の『CBCヤングリクエスト』『オールナイトCBC』、その二つの番組が一つになった『CBCビップス&ビップス〜ミッドナイトレインボー〜』の後を受けて、ちょうど私が高校生になった日の昭和46年(1971年)4月1日から始まったが、あまり人気がなく、翌昭和47年の10月7日に終了した。

そして、その翌々日からCBCラジオは、ニッポン放送の『オールナイトニッポン』を流し始めた。つまり、残念なことに、深夜放送の自局制作を止めてしまったのである。

一方の『ミッドナイト東海』の当時の、アマチン・リコタン・レオの3人のパーソナリティは、愛知県をはじめ、岐阜、三重の東海地方の若者たちには絶大な人気があった。

アマチンこと俳優の天野鎮雄(月・木曜日担当)、リコタンこと東海ラジオ・アナウンサーの岡本典子(よりこ;火・金曜日担当)、そしてレオこと俳優の森本玲夫(後にレオ;水・土曜日担当)は、生まれ年は違うが、全員が2月13日生まれという奇遇な関係の3人であった。

私も御多分に洩れず、『ミッドナイト東海』の方を聴いていた。これは中学3年生の真空管ラジオの頃からである。

ところが、感度の良い新しいラジオになってからは、東京からの放送も割合にクリアに受信できるようになった。先ほども書いたが『オールナイトニッポン』は途中からCBCラジオで聴くことができたが、私は出力の小さい文化放送にチューニングを合わせ、『セイ!ヤング』を聴くようになったのである。

なぜなのか今でも分からないが、TBSラジオの『パックインミュージック』は、その存在すらよく知らなかった。

当時(昭和46、7年頃)のパーソナリティ、『オールナイトニッポン』は、糸居五郎(月)、斉藤安弘(火)、高嶋秀武(木)、亀渕昭信(土)。水金はよく覚えておらず、今回調べ方が足らず、分からなかった。

『セイ!ヤング』は、土居まさる(月)、はしだのりひこ(火)、みのもんた(水)、かまやつひろし(木)、落合恵子(金)、加藤諦三(土)、こんなメンバーだった。

(自分で書き続けていて少し違和感があるのだが、当時からラジオの「パーソナリティ」という名称はすでに使われていたのだろうか、単にディスクジョッキーとかDJと言っていた気がするのだが、どなたか詳しい人に聞いてみたいと思う。)

私は、やはり東京志向だったのだろう。今考えると、まったく愚かな話だが、東京の放送の方がおしゃれでかっこいい気がしていたのである。『セイ!ヤング』の人気パーソナリティ、レモンちゃんこと金曜日の落合恵子は、特に熱心に聴いた。それまで金曜日は『ミッドナイト東海』の岡本典子を聴いていたのだが、「リコタン、ごめんね」とばかりに、レモンちゃんの方に心を移してしまったのである。

だから、今でも、実際はよく聴いていたのだが、『ミッドナイト東海のファンでした』と公言するのは憚れる気がする。

ところで、深夜放送の各番組には、それぞれテーマ曲があって、『ミッドナイト東海』はビリー・ヴォーン楽団の『The Way Of Love』(恋のてくだ)、『オールナイトニッポン」は、あの有名なハーブ・アルバートとティファナ・ブラスの『Bittersweet Samba』。どちらもインストルメントで、他の深夜放送番組も洋楽で歌のないものが多いが、『セイ!ヤング』は珍しく、日本語の歌唱が入ったオリジナルのテーマ曲だった。


「夜明けが来る前に 『セイ!ヤングのテーマ』」 なかにし礼:作詞 鈴木邦彦:作曲 スクールメイツ:歌


夜明けが来る前に 愛し合おう

夜明けが来る前に 語り合おう

朝日とともに 船出だ 旅立ちだ

光の中で 手をふる君と僕のために

夜明けが来る前に 夜明けが来る前に

 

別れの悲しみを 忘れないで

別れの悲しみを 希望にかえて

夜明けの道で 再び会えるから

光の中で 抱き合う君と僕のために

別れの悲しみを 別れの悲しみを

 

ひとつの灯火で 心をつなぎ

ひとつの灯火を 求めて行こう

果てない夜も いつかは明けるから

涙のあとを 拭き合う君と僕のために

ひとつの灯火を ひとつの灯火を

 

いろいろなバージョンがあるようで、歌詞も4番まであるが、今回は3コーラスしか分からなかった。オリジナルの編曲は、おそらく鈴木邦彦だと思うが、調べた限りでは明記されておらず、バージョンにより異なるようなので、書かなかった。

私は初めてこの曲を聴いた時、何か少し暗い曲調だと思った。他の深夜放送の番組では明るく軽快なテンポのものが多かったので、異色だと感じたことを覚えている。

この作品が、ザ・ゴールデン・カップスの『いとしのイザベル』、ジャッキー吉川とブルー・コメッツの『雨の朝の少女』など、一連のグループ・サウンズや、奥村チヨの『恋の奴隷』『恋泥棒』、黛ジュンの『恋のハレルヤ』『天使の誘惑』などを手掛けた、なかにし礼、鈴木邦彦のコンビによるものであることを、今回初めて知った。


ICF111
ソニー・ソリッド・ステート Sports 11 [ICF111]

本当によく聴き続けていたが、このラジオをいつ廃棄してしまったのか、まったく覚えていない。もしかしたら、物持ちの良すぎるくらいの私の両親のことだから、物置のどこかに眠らせているかもわからない。

今回、ネットで調べてみたところ、このラジオの中古品がAmazonなどで販売されているのが分かり、たいへん驚いている。しかも、かなり状態は良さそうである。再購入しようという気にはさすがにならないが、一度手に取って、スイッチやダイヤルなどに触れてみたい思いはある。

 


第454回:流行り歌に寄せて No.254 「雨のバラード」~昭和46年(1971年)4月1日リリース


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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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