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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第361回:セルフィー登場でパパラッチ失業?

更新日2014/05/08



以前にも書きましたが、携帯電話に内蔵されているカメラで腕を一杯に伸ばし、自分自身の写真を撮ることをセルフィー(Selfie)と言い、もう新しい言葉として定着しました。

旅行先で背景に名所旧跡を入れて自分の顔を撮るだけなら、人畜無害ですから、マー、なんと淋しい行為だと多少軽蔑するだけで見逃すことができます。

このセルフィーで、有名人が有名人に囲まれた超セルフィーな写真のナンバーワンは、映画のアカデミー賞の受賞式の舞台裏で撮ったものでしょう。ブラッド・ピッツ、ジュリア・ロバーツなどなど、超有名な映画スターが全くポーズを取ったり構えずに"生"で、コメディアンで司会者のエレン・ディジェネレスが腕を一杯に伸ばした携帯電話カメラの画面に収まっているです。

そして次に有名になってしまったのは、野球、メージャーリーグの昨年の優勝チーム、ボストン・レッドソックスの主砲で最優秀選手に選ばれたデイヴィッド・オルティス(David Ortiz)が、オバマ大領領のレセプションで撮ったものでしょうか。

これは、レッドソックスからオバマ大統領へのプレゼントとして、44番のゼッケン(オバマは第44代目の大統領ですから)が入ったレッドソックスのユニホームを大統領が広げて持ち、チームのメンバー全員、大統領もオルティスも皆ニコニコの満面の笑みで、とても楽しい良い写真をセルフィーしたのです。

もし、ホワイトハウスの広報担当がカメラマンに依頼して全員を並べて記念撮影に及んだのであれば、とてもこんなに面白い写真は撮れなかったでしょうね。セルフィーならではの名作と言ってよいでしょう。とてもパパラッチの及ぶところではありません。

ところが、このレッドソックスのスーパースター、デイヴィッド・オルティスが大統領とセルフィーを撮った携帯デジカメの会社、サムスン電子(Samsung)と広告の契約をしており、使ったカメラ“Samsung Galaxy Note 3”がバカ売れし、これは暗にSamsungがオルティスに大統領とセルフィーを撮るように依頼し、別途にかなりのお金を支払ったのではないか…と言われ出したのです。

今のところ、ホワイトハウスはオルティスのセルフィー行為を問題にしていないようですが、今後、セルフィーはお断りの方針を打ち出すことにしました。セルフィーから逃れられているのは、今のところ、日本の天皇、イギリスの女王、ローマ法王くらいのものでしょうか。


卒業式のセルフィーは、一生に一度の記念という大きな言い訳があるにしろ、名前を呼ばれ学長から卒業証書を手渡される時に、学長さんと一緒に写真に納まろうというセルフィーのありかたが問題になっています。

今年は1年間の研究休暇(Sabbatical)でコロラドの大学にはおりませんから、卒業式に出席しなくてよいので内心ホッとしています。当日、卒業生一人ひとりの名前を呼び上げますから、それだけでもとても長い時間がかかります。私が勤めているような地方の小さな大学でも1,000人以上の卒業生がいますから、一人10秒でも2時間半くらいかかってしまいます。

ところが、壇上で学長さんとセルフィー写真を撮り始めると、一人30秒はかかり、とんでもなく長い卒業式になってしまうのです。単純計算でいくと、1分間にニ人、従って1時間に120人、1,000人をこなすにはそれだけで8時間以上かかってしまう計算になります。それに第一、卒業式は学研的な節目で、もっと真剣にマジメに行うべきだという先生が沢山います。

南フロリダにあるニつの大学、Bryant大学と南フロリダ州立大学では、ついに堪忍袋の緒が切れたのでしょうか、壇上ではセルフィーは禁止すると打ち出しました。Bryant大学の学長さん、ローランド・マックレイ先生はついに、「学生はその品位を考えてもらいたい」と述べています。

遠くから卒業式に駆け付けてくれた親や親族や友達が、わが子の晴れの姿を望遠レンズで撮るのを禁止するわけではないのです。卒業式の後で、ドンチャン騒ぎのパーティーはご自由にやってくれ、セルフィーでも子供じみたVサインでもして、写真を勝手に撮ってくれ、ただ壇上では止めてくれ…と言うだけなのに、セルフィー禁止を大事(オオゴト)のように騒ぎたてる学生さんやマスコミの神経がよく分りません。

セルフィーはその名の通り、他の人のことを考え、思いやる心を忘れたセルフィッシュ(自分勝手)な寂しい行為だということが分っていないのでしょうね。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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