■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から


Grace Joy
(グレース・ジョイ)



中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。




第1回~第50回まで

第51回:スポーツ・イベントの宣伝効果
第52回:国家の品格 その1
第53回:国家の品格 その2
第54回:国家の品格 その3
第55回:国家の品格 その4
第56回:人はいかに死ぬのか
第57回:人はいかに死ぬのか~その2
第58回:ガンをつける
第59回:死んでいく言語
第60回:アメリカの貧富の差
第61回:アメリカの母の日
第62回:アメリカの卒業式


■更新予定日:毎週木曜日

第63回:ミャンマーと日本は同類項?

更新日2008/06/05


ミャンマーの南部、イワラジ川の河口デルタを襲ったサイクロンとそれに伴う高潮の恐ろしさは、私のように山の谷間に住んでいる人間にはなかなか想像するのが難しい災害です。天災の恐ろしさだけなら、ニューオルリンズを襲ったハリケーンや今真っ盛りの竜巻など、アメリカも話題に事欠きません。

今回のミャンマーの大災害は、外国からの援助を一切受け付けないというミャンマー政府の封建的な鎖国主義が外国を驚かせ、そんな政府の態度が被害を一層大きなものにしています。その後、隣国、主にタイからの支援は受け入れ、欧米からも物資の援助は受け入れる方針に変わってきていますが、いまだに人的援助は一部の受け入れを除いて拒否し続けています。

こんなニュースは誰でも知っているでしょう。そして、こんな国の危機においてさえ軍事政権というのは、なんと国民を無視した政策を取るものだ…という感慨を一様に抱いたことと思います。

ところが、日本政府も、全く同じとは言いませんが、同様の態度を1995年の神戸大震災の時にとっているのです。神戸大震災直後に真っ先に欧米の国々、そしてアジアの隣国が、物資だけでなく医療をはじめ、緊急時の救済プロを送り込むことを提供しています。特にドイツには世界に誇るTHW(災害技術援助機構)という、あらゆる災害を想定して猛烈なトレーニングを受けた災害対策プロ集団があり、ドイツ政府は即、そのTHWを即送り込むと申し出ています。アメリカも在日米軍だけでなく医療隊を救援活動に参加させる用意があると表明しています。

日本の政府は、それらの人的援助をすべて拒否しているのです。受け入れていれば救うことのできた命があったかもしれません。日本の自衛隊、消防隊は災害の時に自己犠牲的な優れた働きをすることは知れ渡っていますが、海外からの援助隊を受け入れることで、学ぶべきこと(海外の援助隊が教えられることも多いでしょうけど)も多かったはずです。

そんなチャンスを政府は無下に日本には特殊事情があるから…と断っているのです。一体どんな特殊事情があるというのでしょう。すべての災害に特殊事情があるのは当たり前のことです。災害対策のプロ集団はいかなる"特殊事情"にも対応できる訓練を積んでいるのです。

恐らく政府の役人の脳裏には、海外からの人的援助を受け入れるのは日本のメンツにかかわる、私たちはすべて自分で物事を処理できる、外国から人的援助を受け入れるなら、その受け皿、宿舎、国内移動の乗り物、食事、通訳、コモゴモの世話をしなければならない、そんなことは今緊急に準備できない…と考えたのでしょう。

日本政府のお役人、政治家の外国に対する心情はまだ鎖国時代の遺物なのです。ミャンマーの軍人さんとなんら変わるところがありません。

日本人でこのこと、神戸大震災のとき日本政府が海外からの人的援助をすべて断っていたことを知る人さえほとんどいないのも、私には大きな驚きです(報道管制のせいではないでしょうけど)。

確かに、他の人から助けを素直に受け入れるのは勇気のいることです。取り分けプライドが高い人は差し伸べられた援助の手を拒むことが往々にあり、自滅する傾向があるものです。一国の首領がそんなプライドで緊急時を乗り切ろうとするなら、国民は彼の妙なプライドのために命を落とすことになりかねません。

※追記:5月23日、ミャンマー軍事政権は支援要員を全面的に受け入れると国連総長に約束しましたが、6月1日現在、国際赤十字のメンバー、アメリカ人にはミャンマー入国ビサの発行を拒否しています。また、救援物資を満載して待機していたフランスとアメリカの軍艦の入港を拒否し、両国の救助船は引き返してしまいました。

 

 

第64回:ミャンマーと民主主義の輸入