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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第665回:空の青さとコロナ効果

更新日2020/07/09


今日、オレゴン州に住む弟のトムから電話があり、新型コロナウイルスに関係したヨモヤマ話をしていたところ、彼は3月から3ヵ月ぶりに、彼の車にガソリンを入れたと言っていたのに驚いてしまいました。すでに引退しているとはいえ、現役の時より忙しく動き回ってると、奥さんのメリーが嘆いていたくらいです。なのにコロナ禍で自宅に閉じ篭り、どうしても必要な時以外は外に出ない、他人に会うなと規則を彼らしくクソマジメに守っていたのでしょう。もっとも、彼はコンピューターのプロ、オタク中のオタクですから、インターネットを駆使してスカイプ映像電話やZoomパーティーなどで家族や友達と連絡を取り合っていたのでしょう。

コロナのおかげとは言いにくいのですが、この3ヵ月間、信じられないくらい空気が澄み、抜けるような青空の日が続いています。飛行機雲さえ滅多に見られず、雲一つない抜けるような空が朝早くから、一日中、そして満天の星空になる夜まで続き、それが繰り返されます。

昨日、家の南に広がるピニオン・メッサにハイキングに行きました。メッサ(Meza)と言うのはスペイン語でテーブル、机のことで、どこが頂上なのか判然としないテッペンが平らな山のことです。そこでは360度大空が広がっていました。空が一段と大きくなったようなのです。

今まで私たちは知らず知らずに、身近な車と飛行機だけでも、随分空、空気を汚してきたのです。高村光太郎の『智恵子抄』の中に、“智恵子は東京に空がないといふ ほんとの空が見たいといふ”と書いたのは100年近く前の昔のことですが、その時でさえ、私たちは空を汚していたのでしょう。コロラドの空を智恵子さんに見せたら、こんな空があったのかと腰を抜かすでしょう。

日本で昔、アメリカ人、コロラド人が誰も知らない『コロラドの月』という歌が流行ったことがあるそうですが、コロラド、しかも私たちが住んでいる2,000メートルほどの高原台地から見る月は格別です。日本的情緒のあるオボロ月ではなく、クッキリとした月で、満月になると、まぶしいくらい(チョット大袈裟かな…)の青白い光を放ち、木立が深い影を落とします。月夜の散歩を楽しむことが出来ます。

こんな凄い月をダンナさんの友人で俳句をよくする人に見せたら、きっと素晴らしい句を幾つも書くのではないかと呟いたところ、詩心のないダンナさん、「こんな、すべてがクッキリ鮮やかな風景、風物はあまり俳句的情景ではないのでないかな。むしろ月が出た出た、月が出た~、三池炭鉱の裏に出た……酒の肴にしかならないと思うけどな…」とノタマウのです。

この異常と呼んでもいいほどの澄んだ空気は、ここの標高と湿度の低さがもたらすものです。大昔、地中海の島に住んでいた時にも、こんな空は見たことがありません。もっとも、地中海やカリブの空が青いと言っても、常に海からの水蒸気が舞い上がっていますから、とても異常乾燥が何ヵ月も続くここのように空気が澄み切るというわけにはいきません。

こんなに素晴らしく澄んだ空がベージュに濁ることがあります。
西部のカリフォルニア、オレゴン、そして南部のアリゾナ、ニューメキシコの山火事の煙やダストボールと呼ばれている砂塵が流れてきて、空を覆うことがあります。これが何日も続くと、気分まで落ち込んでしまいます。うつ病はかなりはっきり天候に関係あるといいます。どんよりと曇った日の多い地方、国にうつ病患者が多く、スカッと晴れ上がった空の下ではうつ病になりにくいというのです。

私も、去年カリフォルニアの大きな山火事でコロラドのきれいな空が薄曇のようなベージュ、灰色になり、それが何週間も続いた時には参ってしまいました。空の青さは私たちの(私だけかな)精神、心理に大きな影響力を持っている…と思うのです。

そんな空だから、汚さないように大切にしなければなりません…と分かり切っていることなのですが、私達自身、日本の排気ガス規制を通らないような車3台(いずれも大中古ですが)運転しているのです。これぞ矛盾もいいとこです。

アメリカの排気ガス規制は州ごと、さらに何千とある郡に任されていて、コロラド州でも、デンヴァー、ボルダーのあるロッキーの東側の郡では自家用車、営業車ともに毎年排気ガスチェックを受けなければなりませんが、私たちが住むロッキーの西側の郡にはそんな規制はありません。

従って、真っ黒い煙をモウモウと巻き上げながらハイウエーを走っている大型のディーゼル車がたくさんあります。それに牧場で日常的に使われている大型のピックアップトラックや耕運機、トラクターに規制は及びませんから、空気は汚し放題ということになります。 

車の排気ガスなどは大きな工場コンビナートが吐き出している煙に比べると、微々たるものなのでしょう。アメリカが大気汚染を規制する京都議定書にもパリ議定書にもサインせず、心置きなく世界の空を汚しているのはとても恥ずかしいことです。

ですが、私たちは自分の身近でできることからやらなければならない運命にあるのでしょうね。とまで大きく構えなくても、どうしても必要なとき意外は車を使わず、大きな車をやめて小型のハイブリットまたは電気自動車に切り替えることから始めなければならないのでしょう。 

コロナ効果で青く澄み切った青空を観て、キリッと引き締まった美味しい空気を吸い、この美しい空を守らなくてはならないと、つくづく痛感しました。


-…つづく

 

 

第666回:映画『パラサイト』と寄生虫の話

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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