■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から


Grace Joy
(グレース・ジョイ)



中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。




第1回~第50回まで
第51回~第100回まで

第101回:外国で暮らすこと
第102回:シーザーの偉大さ
第103回:マリファナとドーピングの違い
第104回:やってくれますね~ 中川さん
第105回:毎度お騒がせしております。チリカミ交換です。
第106回:アメリカのお葬式
第107回:不況知らずの肥大産業
第108回:ユニホームとドレスコード
第109回:大統領の人気投票ランキング
第110回:ストリップ
第111回:ストリップ その2
第112回:アメリカの裁判員制度
第113回:愛とLOVEとの違い
第114回:ブラックベアー
第115回:父なき子と母子家庭
第116回:世界に影響を及ぼした100人
第117回:当てにならない"誓いの言葉"
第118回:東西公共事業事情
第119回:"純"離れの文学賞


■更新予定日:毎週木曜日

第120回:国歌斉唱と愛国心

更新日2009/07/30


自慢話は一般に聞き苦しいものです。息子、娘自慢に家柄自慢、自分が所属する会社や団体の自慢、何より鼻持ちならないのが、自分自身の自慢話ではないでしょうか。

そんな自慢話のなかで、他をけなさない限り、面白く聞くことができるのは、お国自慢ではないかしら。それも、一国の自慢ではなく、地方に根ざした小さな土地の自慢話は、その土地に育ち、生きてきた人の長い歴史的背景もあり、嫌味なく耳に入ってきます。自分の生まれ育った土地が一番だと言いきれる人に出会うと、なにかほのぼのとした気分になります。

逆に、押し付けられたお国自慢、愛国心ほどうんざりさせられるものはありません。

アメリカ合衆国を訪れたことがある人なら、すぐに気が付くことですが、アメリカは実によく国旗を飾る国です。旗日でも祭日でもないのに、家の前に旗を揚げている家が沢山あります。

とりわけその家から兵士として息子や娘をイラク、アフガニスタンへ送り出した場合、国への忠誠を表すためでしょうか、よく国旗が掲げられます。日本で国旗を目にする機会よりもアメリカで国旗を見る機会は、はるかに多いでしょう。

日本のプロ野球やJリーグのサッカーで国旗掲揚、国歌斉唱はあまりやりませんし、大相撲でさえ千秋楽にしか君が代は歌われないのに比べ、アメリカのスポーツのイベントでは国旗掲揚、国歌斉唱はつきものです。

ヤンキースタジアム(古い方の)で国歌斉唱の間にトイレに行こうとした男性、ブラッドフォードさんは、警察官に強制退去させられました。大リーグの試合ではイニングが変わるごとに色々なお祭り騒ぎを企画し、試合を盛り上げようとします。通常、どこの球団でも7回の裏、ホームチームが攻撃に移る前に『ゴッド・ブレス・アメリカ』をスタジアム総起立で唄います。

ブラッドフォードさん、運が悪いことに総員起立で『ゴッド・ブレス・アメリカ』を歌い始めたときに尿意を催し、トイレに行こうとしたところ、スタジアムのホールを警備していたニューヨーク市警の警官に咎められたのです。

お巡りさんの制止を聴かずにトイレに駆け込んだブラッドフォードさん、逮捕こそされませんでしたが、強制的に球場から排除されてしまいました。

ワールドトレードセンターの事件以来、大勢の人が集まる場所での警備に神経質になっていたこともあるでしょうし、何万人もの群集が国歌斉唱をしている時に小用に立つのは不敬だと取られたのかもしれません。

腹の虫の治まらないブラッドフォードさん、球団とニューヨーク市警を相手に訴訟を起こしました。何でも弁護士の費用だけでも1万2,000ドルかかったといいますから、ブラッドフォードさん余程腹を立てたのでしょう。

ニューヨーク自由人権協会もブラッドフォードさんの後押しをしてくれ、球団とニューヨーク市警の示した2万2,000ドルの示談金で手を打ったということです。

アメリカへスポーツイベント観戦に出かける方、くれぐれも国歌斉唱の時にトイレに立つようなことは避けてください。まだ多くのアメリカ人には幼稚な国家意識、奇妙な愛国心を振りかざす人が沢山おりますので…。

なお、ヤンキースタジアムでは国歌斉唱の最中でも、トイレに行けるようにルールを改めたそうです。オシッコくらい、行きたい時に行ける自由が、自由の国アメリカにあって当然だと思うのですが。

 

 

第121回:世界で一番物価の高い町は…