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■インディアンの唄が聴こえる
 

第6回:サンドクリーク前夜 その2

更新日2023/02/16

 

シャーマニズムがインディアン社会を支配していたと言い切って良いと思うが、アメリカ合衆国政府側はゴーストダンスを禁止した。それがウンデッド・ニーの虐殺(Wounded Knee Massacre)を生む遠因になった。インディアン古来の宗教、それに伴う集会、踊りなどが法的に許可されたたのは、なんと1978年になってからのことだ。  

私たちが、主にハリウッド映画を通じてだが、知っている著名なインディアンは酋長ではなく、メディスンマン、祈祷師だ。シッチング・ブル、ジェロニモ、クレイジーホースなど、いずれも酋長ではなく、戦士であると同時に呪術師であり、部族は呪術師の言葉に従った。酋長より権限が大きかったようにさえ見える。彼らは霊界と強い繋がりを持ち、かつその言動に自身の命を賭ていた。

一つの部族の酋長、呪術師、シャーマン、メディスンマンがどれだけの指導権、統率力を持っていたかは、その人物、また部族によって著しく異なる。いずれにせよ、隣り合わせの他の部族に対しては、全くと言って良いくらい影響力がなかった。
 
アメリカ合衆国が曲がりなりにも一つの国としてまとまり、大統領を頂点として仰ぐのに対し、インディアン側は一部族の酋長、例えばブラック・ケトル(黒いヤカン)がシャイアン族だけを代表しているのだが、そのシャイアンの中でも多くの分派があり、ブラック・ケトルの支配が及ばない分派も相当あった。

その中には、和平交渉など、白人に媚びる態度だとばかり、若者はドッグ・ソルジャーと呼ばれる過激なテロ集団となり、幌馬車隊、白人パイオニアの牧場、農園を襲い、殺戮、窃盗を繰り返す集団に加わった。

合衆国政府のインディアン局ですら、インディアン部族の全貌を掴んでいなかったと思う。ワシントンに呼び集めた酋長たちと和平交渉し、援助物資、主に食料と毛布を与えれば、インディアンの襲撃を抑えることができると取っていた節がある。

翻って、インディアンの部族を代表する酋長、メディスンマン、呪術師などが、どれだけ白人社会、合衆国を理解していたか、おそらく、白人たちは強力な武器を無限に持ち、それを作り出す能力があり、また底知れぬほどの兵力、人員を送り出す供給源を持っている程度の知識しかなかったのではないか。

相手にしている白人が作り上げている国家の概念を、インディアンたちは掴んでいなかったと思う。和平派インディアンの代表たちは、白人どもの持つ兵力の恐ろしさを知っていただけではなかったか…。 

合衆国政府側はインディアンの代表者(それは細分化された部族の長のことだが)を首都ワシントンに呼びつけ、大統領と面会させ、アメリカ合衆国を認識させようとはしているが、果たして部族の代表者たちがどれだけ正確にアメリカ合衆国のイメージを作ったか、持ったかは判らない。

No.6-01
3人のインディアン部族の酋長たち
1851年にワシントンを訪れた時のもので、左からホワイト・アンテロープ、
マン・オン・ア・クラウド、そして平和の象徴であるパイプを手にしているのはローマン・ノーズ

ほとんど同じ時代、1860年に、咸臨丸でアメリカを訪れた勝海舟、福沢諭吉が優れた洞察力で多分に理想化されてはいるが明確なアメリカ像を日本に持ち帰り、その後の日本の西欧化に大きな影響を及ぼしたような訳にはいかなかった。

その違いを民度の成熟度の違いだけから言うのは易しい。当時の日本人の、と言うか維新を興した下級武士たちの社会意識、国家観、世界観は西欧社会を知ることで、攘夷から一挙に開国、西欧至上主義に変わっていく。その変わり身の速さは唖然とさせられるほどで、変わり身の速さこそ、我が大和民族の信条だと言わんばかりの鮮やかさだ。
 
現在、インディアンが部族ごとに彼らの伝統、文化を残そうとし、それを今の彼らの生活の中に活かそうとしているのだが、インディアンが完全に武装放棄し、アメリカ合衆国に順化してから200年にもなるのに、インディアン居留地を独立国家にしようとする運動は、極々一部に限られている。

ナバホ・ネーションは例外的に“国”と称してはいるが、軍事、外交、経済は全面的にアメリカにオンブにダッコ状態で、終いには、合衆国の社会保障(インディアンの血が8分の1以上入っていると給金を貰うことができる)で生きているのだ。そんなインディアン国家は名ばかりの存在で、とても国とは言えない。

インディアン居留地には税制の特別処置があり、他の面でも合衆国政府の規制を受けない。一つの例が“カジノ”の運営で、今でこそ、地方自治体が率先して公営ギャンブル場を、それこそ雨後の筍のごとく開いているが、取っ付きはインディアン居留地区だった。これは居留地区に住むインディアンたちを当初、大いに潤した。また、狩猟タグを持たずに(アメリカ人ハンターはお金を払って、エルク、シカなどの許可証を取得する)狩猟、釣りができるという役得もある。
 
私たちはよくインディアン居留地の中にあるモーテル(インディアンが経営する)に泊まる。はっきり言って、全般的にインディアンが経営しているホテル、モーテルは、アメリカの大きなチェーンのモノに比べ、高くて汚い。ロケーションはいいのだが。同じ料金で全米チェーンモーテルなら、より広く清潔な部屋、まともな朝食を出すところに泊まれる。

インディアンにはサービスという精神がないのか、宿泊客の白人(私は白人でないが)に何をやっても構わない、今まで受けた悲惨な扱いのオカエシだとまでは思っていないだろうが、私のような貧乏旅行者にとって歩留まりが悪い。インディアンがこれまで受けてきた悲惨な扱いには同情するが、居留地のホテル、モーテルを避けるようになってきた。

お前たち、いつまでも200年、300年前のことに拘らず、合衆国政府の援助に頼るのをやめ、メキシコ人、中国人、韓国人、日本人の移民のようにアメリカの一市民として生きたらどうなのだ…と言いたくなるのだ。

 

 

第7回:サンドクリーク前夜 その3

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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バックナンバー
第1回:消えゆくインディアン文化
第2回:意外に古いインディアンのアメリカ大陸移住
第3回:インディアンの社会 その1
第4回:インディアンの社会 その2
第5回:サンドクリーク前夜 その1

■更新予定日:毎週木曜日