■TukTuk Race~東南アジア気まま旅


藤河 信喜
(ふじかわ・のぶよし)



現住所:シカゴ(USA)
職業:分子生物学者/Ph.D、映像作家、旅人。
で、誰あんた?:医学部で働いたり、山岳民族と暮らしたりと、大志なく、ただ赴くままに生きている人。
Blog→「ユキノヒノシマウマ」





第1回:Chungking express (前編)
第2回:Chungking express (後編)
第3回:California Dreaming(前編)
第4回:California Dreaming(後編)
第5回:Cycling(1)
第6回:Cycling(2)

 



■更新予定日:毎週木曜日

第7回:Cycling(3)

更新日2006/02/02


橋を渡った向かい側には、手前側にあるのと同様な展望台があり、そこには観光客が同じくごった返しているのだが、そこを過ぎて道が下りに入ると一気に人影はまばらになり、自分たち以外にはただ道路を行き交う車に出会うだけになってくる。それでもしばらく快適な下り坂を潮風を浴びながら楽しむと、やがて対岸側最初の町サウサリトに到着する。 


ここはイタリア系の人達が多く住む洒落た観光地になっており、週末になると毎週のようにサンフランシスコからの多くの人手で賑わう。たしかに小さな一軒家に無造作に並べられた地元アーティストの絵や、オリーブオイルとガーリックの混じったイタリア料理の食欲を刺激する香りを漂わす小粋なレストラン、そしてその脇にオープンテラス用のテーブルとチェアを並べた明るいカフェと、都会の喧騒から逃れて週末の短い時間を過ごすには格好のネタが揃った町並みである。

陽光を浴びながらテラスで楽しそうにランチを取っている人々の姿を見ていると、自分たちも急速に空腹感が湧き上がってきたため、ここで腹ごしらえをすることにした。湾の向かいにはサンフランシスコの高層ビル影、目の前には穏やかな波音と湾内特有の濃い潮の香り、そして何よりも通りを行き交う人々の屈託のない笑顔と、イタリア系の町らしいデザインとカラーリングの街灯という海岸脇の絶好の場所にベンチをとり、出発前に市場で購入していた小海老のサンドイッチを頬張った。レストランやカフェでランチをとっている人々もそれぞれに幸せそうだったが、このベンチでのサンドイッチもそれに負けず最高のランチのような気がした。

昼食をとって軽く町をぶらついた後で、足がまだペダルをこぎたがっているうちにサイクリングを再開した。町の外れまでやってくると、それまでとはガラッと雰囲気が変わって、アメリカの大都市近郊の高所得者向けサバーブスらしい光景が広がりはじめた。もう観光客やサイクリングを楽しむ人は見かけられなくなる代わりに、綺麗に整備されたハイウェイ沿いには、整然と並ぶ街路樹や大邸宅がそちらこちらに点在している。 

アメリカの低中所得層の家並みは、まるでカタログを吟味した後で「248ページのNo.HJY4353モデルをお願いね」とでもいうような、工場からそのまま運び出した既製品のような味気のないデザインが、これまたどこも同じように手入れされた芝生の庭にセットされて建ち並んでいるというのが常なのだが、こういったサバーブスの豪邸は、中世ヨーロッパの城を真似たものから、合衆国独立当時のコロニアル風ハウスにツタを這わせたようなもの、近代的な総ガラス張りの壁面ででき上がった家なのかスペース・コロニーなのかと見紛うようなものまで、実に多種多様で見ているだけでも楽しい。 

…つづく

 

第8回:Cycling(4)