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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第521回:トンネルと高架と - ぐるり貨物線大宮号4 -

更新日2014/07/17


茅ヶ崎で進行方向が逆転して、私の席は進行方向左側になった。ここから大船まではやってきた道を逆戻り。大船の大観音様を見上げる。行ってすぐに戻ってきた私たちにも表情を変えず、にこやかに見つめられる。大渡りが右手に離れていき、ここからは東海道本線、横須賀線と並んだ。工場があり、広大な土地があり、大規模なマンションがある。工場が移転して、更地になり、マンションが建つという順番だ。京浜工業地帯だけではない。内陸部でも物作りの拠点が減っている。


逆向きで茅ヶ崎を出発

戸塚駅を通過。こちらは貨物線だからホームかない。これも珍しい経験だ。こちらの線路は寝台特急サンライズが遅延したときに通るという。私が乗ったサンライズは幸か不幸か定時運転だった。続いて東戸塚駅を通過。ホームは横須賀線しかない。東海道線と横須賀線は鶴見から大船まで並んでいるけれど、この付近だけは離れる。東海道線が切り通し、横須賀線がトンネルの中だ。その構造のせいで、横須賀線だけの駅ができた。

貨物線は横須賀線と並び、ほぼ同時にトンネルに入る。トンネルの中でお互いの方向は変わり、横須賀線は東海道線と並ぶため北東へ。こちらはもっと内陸部へ向かうため北北東へ向かう。ここから先はトンネルが多くなる。こちらは品鶴線を横須賀線に譲るために作った新しい貨物線である。地上は住宅が建ち並んでいるため、台地の下に長大な地下トンネルを作った。貨物の物量を見越して、大規模な投資を実施したわけだ。

地中だから地上波予測できない。GPS信号がキャッチできない。だから地図をたどってみよう。線路はまず、横横道路と横浜新道のインターチェンジの下を通る。車で通りがかると、一瞬迷う部分である。あの景色の下に線路があったのか、と思う。そのままトンネルを走り続けて、一瞬、車窓が明るくなり走行音が変わる。地上に出て相模鉄道の上星川駅を跨ぐ。しかし線路は壁に覆われている。外は見えない。騒音対策だ。またトンネルに戻る。台地と台地の間をチューブ鉄道で通り抜けた形である。


羽沢貨物駅でしばらく停車。相模線の駅は地下にできる予定

列車がスピードを落とし、トンネルを出た。ガタガタとポイントを通過して、やがて停車する。羽沢貨物駅だ。右の車窓に線路群が見える。列車は操車場の左側の線路にいる。左側の景色は工事現場だ。右側の方が興味深いけれど、この工事現場も見届けたいところ。旅客線の工事である。相模鉄道の線路が西台駅から延びてきて、ここで貨物線と合流する。羽沢駅は貨物駅構内ではなく、合流地点の西台寄りの地下にできる。

トンネル出口は羽沢貨物駅の構内で東京寄りに作られる予定だ。2015年に開業予定だったけれど、羽沢貨物駅と貨物線の対応工事が間に合わず、3年程度遅れるという。貨物線の本線をさわる工事だし、荷扱いの多い駅だから段取りが難しそうだ。それにしても、新しい旅客線の誕生は楽しみだ。ちなみに地下でさらに分岐して、東急東横線方面へ直通する線路も造られている。この地域の人々は、貨物駅しかないところに駅ができるから嬉しいだろう。同感だ。せめて西台と羽沢の間だけでも先行開業してくれないだろうか。

首を伸ばして右側の景色を眺める。プラットホームが見える。なんだ、こちらも旅客列車を停められそうじゃないか。しかしよく見ると貨物の荷役用のホームだった。有蓋貨車時代の名残らしい。いまはコンテナ貨車を横付けして、貨車に乗せたまま荷物を扱うようだ。その向こう側にコンテナが積み上げられている。

10時17分に発車。神奈川県立城郷高校の敷地の下でトンネルに入る。ずっとトンネルだ。北東へ進み、横浜市営地下鉄の岸根公園駅付近で真東に進路を変えて、東急東横線の妙蓮寺駅の南を通り抜ける。このあたりに住む人は、地下に線路があると知っているだろうか。そのまま東に進んで、またチューブ線路になった。この目隠し高架線路は横浜線を跨いでいる。そのままトンネル。やっと外に出て、切り通しを上っていくと、左側を東海道本線の銀色の電車が走っていた。右側は京急の生麦駅。鶴見に戻ってきたわけだ。


地上に顔を出すと鶴見だった

鶴見駅構内で停車してタイミングを見極めて、また列車が動き出す。東海道線を越えて別れ、横須賀線と併走して新鶴見操車場へ。2時間ほど前に通った道を逆にたどる。ただし今回は武蔵小杉駅は通らない。新鶴見操車場の終わりで地下に潜る。今度は武蔵小杉駅の地下を通り、ほぼ西へ向きを変えて、南武線の武蔵小杉駅の真下を通過。地上の南武線は北西方向へ向きを変えるけれど、地下トンネルはそのまま西へ向かう。


東海道線と分かれて新鶴見操車場へ

この線路は武蔵野線だ。武蔵野線は都心に集中する貨物列車を迂回させるためにドーナツ状に作られた。そのうち西船橋と府中本町の間は旅客化されている。府中本町と新鶴見までは貨物専用のままである。ただし、臨時列車のホリデー快速鎌倉号がこの線路を経由して、南越谷と鎌倉を結んでいる。この区間もまたトンネルだらけだ。

11時06分。梶ヶ谷貨物ターミナルでちょっとだけ地上に顔を出す。このあたりは尻手黒川道路が沿っていて、私は車やバイクでよく通った。この貨物駅は高台にあって、貨物列車を見る機会はなかった。貨物駅へ向かう勾配道路をトレーラーが行き来していた。しかしそれに見とれていると、スピード違反取り締まりの警官に呼び止められる。50ccバイクがよく餌食になるところでもある。そして私が中型バイクの免許を取ろうと決心した場所であった。


長いトンネルを抜けて京王線を越える

このあともずっとトンネルであった。駅のない地下鉄。車窓がないから列車の速度もよくわからない。揺れ具合から、かなり速いと思った。もっとも、貨物列車の運転間隔はあいていて、複線区間のトンネルである。遅く走る理由がない。速度を調整するとしたら、旅客併用区間に入ってからだろう。

トンネル内を10分ほど走って、一瞬だけ地上に出た。高架区間である。ここはチューブ状ではなく、景色が見えた。眼下の複線は京王相模原線である。このあたりの風景は高台住宅地ではなく、雑木林が残された武蔵野であった。またトンネルに入る。まるでカメラのシャッターのようである。一瞬の風景を網膜に焼き付けた。


多摩川を渡って桜の景色

次の明るい区間は鉄橋だった。多摩川だ。車窓右手南武線の線路が並ぶ。その向こうに西武多摩川線の是政駅が見えたかもしれない。なんとなく、今回は座席運が悪かったと思う。気になる風景はすべて反対側の窓にあった。むしろ通路側にしてくれたら、デッキから両側の景色が見えた。もっとも、定期列車の指定席を買うように座席を選べる列車ではなかった。仕方ないことだ。

市街地を通り、ビール工場と競馬場の間をすり抜ける。武蔵野線は南武線の複線の間に割り込んだ。府中本町駅に到着である。ここから先は武蔵野線だ。トンネルを抜けると電車の留置線があり、新秋津駅で30分の停車。大休憩だ。対向式ホームの間に3本の線路があり、その真ん中である。左隣の線路に東京行きの快速電車が停まり、先に出ていく。


新秋津駅。東急の電車のあとにレッドアローが通った

この先は浦和の貨物線も含めて、快速むさしの号で乗っている。珍しい風景はこれが最後だろうと思ったら、前方の高架線路を東急の電車が横切った。あれは確か西武池袋線だ。そうか、2週間ほど前から西武と東急の相互乗り入れが始まっていた。東横線の渋谷駅が地下になり、東京メトロ副都心線とつながっている。それを新秋津で実感するとは思わなかった。


朝霞台で東武東上線を見下ろす

高架区間は武蔵野丘陵の良い景色で、荒川を渡って西浦和からまた貨物専用線路に入り、またトンネルに入れば東北本線に合流する。あとは大宮駅へ運ばれるだけだ。このツアーは鉄道博物館の入場券と1,000円のショップクーポンがついている。以前見逃したジオラマを見て帰ろう。


大宮駅に到着


野田線ホームにスカイツリートレインがいた


昼食はてっぱくでハチクマライス。予想したより豪華だ

-…つづく


杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。
<<杉山淳一の著書>>

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発行:マイナビ

■著書
『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。』
~日本全国列車旅、
達人のとっておき33選~


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