■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

金井 和宏
(かない・かずひろ)

1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice

 


第1回:I'm a “Barman”~
第50回:遠くへ行きたい
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第51回:お国言葉について ~
第100回:フラワー・オブ・スコットランドを聴いたことがありますか
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第101回:小田実さんを偲ぶ
第102回:ラグビー・ワールド・カップ、ジャパンは勝てるのか
第103回:ラグビー・ワールド・カップ、優勝の行方
第104回:ラグビー・ジャパン、4年後への挑戦を、今から
第105回:大波乱、ラグビー・ワールド・カップ
第106回:トライこそ、ラグビーの華
第107回:ウイスキーが、お好きでしょ
第108回:国際柔道連盟から脱退しよう
第109回:ビバ、ハマクラ先生!
第110回:苦手な言葉

■更新予定日:隔週木曜日

第111回:楕円球の季節

更新日2008/01/17


今、ラグビーが旬を迎えている。すでに高校、大学の覇者は決まったが、社会人であるトップリーグは、決勝トーナメントにどのチームが残るか、終盤の激しい戦いが繰り広げられている。

昨年のワールドカップの内容に、今ひとつしっくりした物を感じなかったラグビーフリークたちが、国内のシーンに目を向け、良いゲーム、面白いゲームが見られることを渇望している。さて、その期待はどれほど満たされたか。今年度、すでに終わっている高校、大学の試合を振り返り、トップリーグの覇者、日本選手権の行方を展望してみよう。

第87回全国高等学校ラグビーフットボール大会の決勝戦は、1月7日に大阪の近鉄花園ラグビー場第1グラウンドで行なわれた。そして、福岡県代表の東福岡高等学校が、京都府代表の伏見工業高等学校に12-7で勝利し、初優勝を飾った。

東福岡は、5年前、6年前は大阪の啓光学園、昨年は同じく大阪の東海大仰星に決勝戦で敗れ、今回は4度目の挑戦で初の栄冠を勝ち取った。九州勢としては33年ぶり、そして、第78回大会から続く京阪地区代表の高校ラグビー10連覇を阻止することになった(過去9年間は、啓光学園が5回、東海大仰星、伏見工業がともに2回ずつ優勝している)。

今年の東福岡は本当に強かった。どこからでもボールをポンポンと繋いできて、あっという間にゴールラインを駆け抜けている。ひとり一人の身体能力が、実に高い感じを受ける。

福岡は、日本一のラグビースクールどころで、小学生、もっと早いのは保育園、幼稚園からラグビーを始めている子が多い。小さい頃から培われたラグビーセンスを持った生徒の中の精鋭たちが、東福岡に入ってくるのだ。

それを、谷崎監督が、「その才能の可能性を邪魔しない」で、ラグビーを、「やらせる、強いるのではなく、楽しませる」ことを柱にチームを作ってきた。それは、ゲーム前の彼らを見ているとよく分かる。みんな「早くゲームを始めたくては決めたくてたまらない」という表情で試合に臨むのである。

準決勝、そして決勝の前半まではアタックの強さばかりが目立ったが、決勝後半、終盤の15分間に及ぶ、伏見工業の怒濤の攻撃を凌ぎきったディフェンスの姿に、彼らの本質的な強さを見ることができた。必死の形相で、限りなく何度もタックルに向かうのだが、ラグビーをこの上なく楽しんでいるのが、こちらにも伝わってきた。

私が行きつけの果物屋のおじさんはラグビー好きだが、この決勝をテレビ観戦していてノーサイドの笛が吹かれたとき、思わず大きく拍手していたとお話しされていた。あのディフェンスは歴史に残るに違いない。

今回は、長崎北陽台がベスト4に残り、広島の尾道がベスト8まで行くなど、ノーシード校が、シード校で優勝候補のチームを破ったり、それらが強豪校に負けるときも点差が少なかったりと、少しずつだがチーム間の格差の縮まりを感じた大会でもあった。

第44回全国大学ラグビーフットボール選手権大会の決勝戦は、1月12日に、東京の国立霞ヶ丘競技場で行なわれた。大学選手権決勝では、第5回大会から実に39年ぶりの早慶戦になった。

強い雨が降っていたために、お互いが手堅いゲーム運びとなり、フォワード(以下、FW)周辺でしのぎを削る場面が圧倒的に多く、バックス(以下、BK)展開のシーンはほとんど見られなかった。

試合は、FW力に勝る早稲田が、26-6で勝利したが、最後までボールを大きく動かす早稲田ラグビーは封印されたままだった。それにしても、ゴール前のラインアウトからモールをゴリゴリ押し続ける早稲田のスタイルについては、いろいろな意見があると思うが、私個人的にはあまり見たいものでない。志の高さを感じないのだ。

もう一つ、あえて提唱したいのが、この日のような雨の日はラグビーの試合を中止にできないかという考えである。これもいろいろな意見があるだろう。雨なら雨で、それなりのゲームをするのも実力だというのもわからないではない。また日程の問題もある。

ただし、近年ボールのハンドリング・ゲームであることに主点を置こうとしているラグビーが、それができない環境下でゲームをさせることに疑問を感じざるを得ない。ラグビーの面白さが大きく損なわれるのは、防ぐべきだろう。一つだけ、贅沢な物言いのようだが、ドームでの開催だけは勘弁願いたい。あれは、別の意味でラグビーとは言い難いのだ。

話が逸れてしまったが、最後はトップリーグ。現在、第10節を終わった時点で三洋電機が10連勝と、ただひとり快進撃を続けている。非常に勢いのある魅力的なチームで、トライに結びつける判断がとにかく早い。元オール・ブラックスのトニー・ブラウンなどの外国選手と国内の選手のバランス。連携も絶妙だ。

圧巻は第6節の対トヨタ自動車戦。前の試合の怪我により大切なゲーム・メイカー、T・ブラウンを欠き、しかも前半30分近くまで0-22と大きく負けていた試合を、ジリジリと追い上げ、最後の最後トライ&ゴールを決め26-25のお釣りなしの逆転サヨナラ勝ちし。本当に強いことを表現した。

ただ、今年からトップリーグの上位チームの戦いを各地方で行なおうとする動きがあって、それはとても良いことだと支持はするが、三洋電機は殊に地方巡業が多く(群馬が地元と言うこともあるが)、第12節までは秩父宮でゲームを行なってくれないのは、残念な気がする。

リーグ戦で全勝するには、この後のヤマハ発動機、NECとの試合が鍵になるが、何とかトップリーグ史上初の全勝記録を作ってもらいたい。そして上位4チームによる優勝決定のためのプレーオフ・トーナメント(マイクロソフトカップ)でも連勝して、相撲ではないが15戦全勝優勝に輝いてもらいたいと期待している。とにかく、良いチームなのだ。

さて、プレーオフ出場3チームに入れる可能性のあるのが、東芝、サントリー、トヨタ自動車、ヤマハ発動機、NEC、神戸製鋼の6チームで、文字通りしのぎを削っている。今後の試合相手を見てみると、最終13節まで縺れたままで続き、その行方がわかりにくい。

あてにならない私の予測だが、タフな上位チームとの試合が多く残るが、何とか抜け出すであろう東芝、サントリー、トヨタ自動車の3チームが有力で、それに下位チームだけとの試合を残す神戸製鋼が勝ち点を重ねて追い上げていくという展開になると思う。毎節、興味の尽きない対戦が続くのである。

 

 

第112回:フリークとまでは言えないジャズ・ファンとして(1)