のらり 大好評連載中   
 
■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

第367回:流行り歌に寄せて No.172 「新宿そだち」~昭和42年(1967年)

更新日2019/02/14


今回は少しグループサウンズから離れて、典型的とも言える昭和歌謡のデュエット曲をご紹介したい。

以前、このコラムにも何度か書いたが、私が独り暮らしを始めるために、上京して最初に降り立ったのが新宿駅である。愛知県の春日井市にある神領駅から中央西線で名古屋駅、そこから新幹線のひかりに乗って東京駅、そして国電の中央線に乗り換えて新宿駅。昭和49年の9月のことだった。

まさに、絵に描いたようなお上りさんだった私は、国電から西武新宿線に乗り換えるのに高田馬場駅で乗り換えできることを知らず、同じ新宿だからすぐに連絡できるだろうと国電の新宿駅に降り立ち、西武新宿駅に向かった。

重い荷物を抱えて歌舞伎町を歩き、「こんな街に呑まれてしまったら、僕なんかひとたまりもないな」と怯えながらつぶやいたものだった。ただし、本当にいい加減な私は、その後何年もしないうちに、その歌舞伎町に自らのめり込んでいくことになった。

さて、この曲は新宿を舞台にしたデュエット曲だが、同じカテゴリーの曲は、実はあまり見当たらないのである。一方、並び称される銀座には『銀座の恋の物語』を始め『二人の銀座』『銀座ブルース』など名曲が多くある。歌謡曲の世界では、男女が寄り添う街としては、はるかに銀座の方に人気があるのだろう。

そんな中で、一人気を吐く形となったこの曲は、グループサウンズの大ブームの時代に、シングル盤160万枚という大きなセールスを記録したのである。


「新宿そだち」 別所透:作詞  遠藤実:作曲  只野通泰:編曲  大木英夫・津山洋子:歌 

女なんてサ 女なんてサ

嫌いと 思ってみても

ひとりで飲む酒 まずい酒

指名しようか いつもの娘

俺もおまえも 新宿そだち


男なんてサ 男なんてサ

嫌いと 言ってはみても

貴方の名刺を 胸に抱く

一目惚れさす にくい人

恋に弱いの 新宿そだち


女なんてサ 女なんてサ

嫌いさ ツンツンしてさ

ネオンの数より いるんだぜ

だけど気になる あのそぶり

今日もあいたい 新宿そだち


男なんてサ 男なんてサ

嫌いよ はっきりしてよ

好きなら好きだと ききたいの

駄目よ浮気じゃ 出直して

本気に燃えます 新宿そだち


歌詞の1番、3番が男声、2番、4番が女声、そしてそれぞれ最後の「新宿そだち」の部分だけがハモられる、オーソドックスなスタイルになっている。面白いのは「女(男)なんてサ 女(男)なんてサ」の直後の詞が、すべて「嫌い」という言葉で始まっていることだ。昔から語られる男女間の機微を、上手に表現していると思う。

その作詞家の別所透については、大木・津山の次のデュエット曲『雨の新宿』を手掛けたことはわかったが、その他の作品については調べられなかった。

大木英夫は、昭和18年宮城県石巻市生まれ、遠藤実門下生で千昌夫、三船和子と同期である。津山洋子とのデュエットで、上記2曲を出したが、その年のうちにコンビをスピード解消してしまった。

その後、二宮善子と組み、昭和46年『あなたまかせの夜だから』でスマッシュ・ヒットを飛ばしている。いかにもオールドファッションドのプレイボーイの風貌で、夜の世界ではかなりもてたことだろう。平成22年3月、すい臓癌でこの世を去っている。

津山洋子は、昭和21年2月福島県石川町生まれ。芸名は作家の石坂洋次郎が名付けたという。確かに青春小説の大家の作品に出てきそうな名前であり、名付け親になりたいと思わせるような、女優になってもおかしくない美貌の持ち主である。

大木とのコンビ解消の年に高樹一郎とコンビを結成、その後彼と結婚をした。夫婦デュエットとして、半世紀にわたり、現在でも歌手活動を続けている。二人の間にできた一人息子がマネージャーとして二人を支えているようだ。

リサイタルの会場は新宿が多く、平成19年に出された高樹とのデュエット曲も『さくら通りの花見唄』というタイトルで、新宿区役所通りの裏にある通りを歌ったものである。

今は身内の人の手に渡ってしまったが、かつて歌手生活のかたわら経営していたスナックも歌舞伎町にあったという。つくづく新宿に縁のある人なのだろう。

-…つづく

 

 

第368回:流行り歌に寄せて No.173 「虹色の湖」~昭和42年(1967年)


このコラムの感想を書く


金井 和宏
(かない・かずひろ)
著者にメールを送る

1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice


バックナンバー

第1回:I'm a “Barman”~
第50回:遠くへ行きたい
までのバックナンバー

第51回:お国言葉について ~
第100回:フラワー・オブ・スコットランドを聴いたことがありますか
までのバックナンバー

第101回:小田実さんを偲ぶ~
第150回:私の蘇格蘭紀行(11)
までのバックナンバー


第151回:私の蘇格蘭紀行(12)
第200回:流行り歌に寄せてNo.12
までのバックナンバー


第201回:流行り歌に寄せてNo.13
第250回:流行り歌に寄せて No.60
までのバックナンバー


第251回:流行り歌に寄せて No.61
第300回:流行り歌に寄せて No.105
までのバックナンバー


第301回:流行り歌に寄せて No.106
第350回:流行り歌に寄せて No.155
までのバックナンバー


第351回:流行り歌に寄せて No.156
「僕らの町は川っぷち」~昭和42年(1967年)

第352回:流行り歌に寄せて No.157
「この広い野原いっぱい」~昭和42年(1967年)

第353回:流行り歌に寄せて No.158
「小指の想い出」~昭和42年(1967年)

第354回:流行り歌に寄せて No.159
特別篇 「森田童子の訃報に接して その1」

第355回:流行り歌に寄せて No.160
特別篇 「森田童子の訃報に接して その2」

第356回:流行り歌に寄せて No.161
「僕のマリー」~昭和42年(1967年)

第357回:流行り歌に寄せて No.162
「夜霧よ今夜も有難う」~昭和42年(1967年)

第358回:流行り歌に寄せて No.163
「花はおそかった」~昭和42年(1967年)

第359回:流行り歌に寄せて No.164
「世界の国からこんにちは」~昭和42年(1967年)
第360回:流行り歌に寄せて No.165
「ブルー・シャトウ」~昭和42年(1967年)

第361回:流行り歌に寄せて No.166
「あなたのすべてを」~昭和42年(1967年)
第362回:流行り歌に寄せて No.167
「花と小父さん」~昭和42年(1967年)

第363回:流行り歌に寄せて No.168
「真赤な太陽」~昭和42年(1967年)

第364回:流行り歌に寄せて No.169
「好きさ好きさ好きさ」~昭和42年(1967年)

第365回:流行り歌に寄せて No.170
「君に会いたい」~昭和42年(1967年)
第366回:流行り歌に寄せて No.171
「バラ色の雲」~昭和42年(1967年)


■更新予定日:隔週木曜日



  TOP-トップページ》 《コラム一覧 》 《のらりインタビュー》 《コラム・バックナンバー
……………………………………現在連載コラム……………………………………
新・汽車旅日記 】 【店主の分け前 】 【イビサ物語
 【亜米利加よもやま通信 】 【ギュスターヴ・ドレとの対話 】 【よりみち
………………………………掲載完了イチオシコラム………………………………
[拳銃家業 ] [貿易風の吹く島から ] [ くらり、スペイン ] [グレートプレーンズのそよ風 ]  
  [フロンティア時代のアンチヒーローたち ]

    

このサイトに関するご意見・ご感想・お問い合わせはこちらまで。
Copyrights 2019 Norari