■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

金井 和宏
(かない・かずひろ)

1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice

 


第1回:I'm a “Barman”.
第2回: Save the Last Pass for Me.
第3回:Chim chim cherry.
第4回:Smoke Doesn't Get in My Eyes.
第5回:"T" For Two.
~私の「ジュリーとショーケン」考 (1)


■更新予定日:隔週木曜日

第6回:"T" For Two. ~私の「ジュリーとショーケン」考 (2)

更新日2003/07/31


1975年(昭和50年)は、二人にとって転機の年だった、と私は思う。それはちょうど、二人の中のしたたかな不良の影が、男の色気に徐々にその姿を変えていき、「ザ・タイガースの」「ザ・テンプターズの」という括弧つきで語られることのない、お互い独立した存在になった時期、ジュリー27歳、ショーケン25歳の時のことだ。

その年は、それから7年前の1968年に起きた「3億円事件」の時効の年だった。TBSのテレビドラマ『悪魔のようなあいつ』は、ジュリーにその犯人の役を演じさせた。6月から9月の間、時効までの残日数をカウントダウンしながら物語が進む。原案が阿久悠と上村一夫、脚本・長谷川和彦、制作・久世光彦、音楽・大野克夫、演奏・井上堯之バンドという、今では考えられないほどの豪華なスタッフによるドラマだ。

高級クラブの歌手、ジュリー演じる「可門良」は、7年前に東京府中市で三億円を強奪し、それを隠したままじっと時効の日を待っている。彼は実は脳腫瘍で後半年から1年の命、藤竜也演じる元刑事で、クラブのオーナーとは同性愛の雰囲気を漂わせ、また彼の指示で男娼として身体も売るという刹那的な毎日を送っている。そこに、3億円犯人を執拗に追う若山富三郎の刑事が絡んでくるという設定。他に脇を荒木一郎、安田(大楠)道代などの個性的な役者が固めていた。

ドラマの終わりに、ジュリーが弾き語りで歌うのが『時の過ぎゆくままに』。阿久悠作詞、大野克夫作曲の、今までの彼の路線とはまったく違った暗く、哀しいバラード。物語の持つ色彩に、あまりにもよく溶け込んでいて、ドラマと歌の輪郭がはっきり見えなくなるほどだった。この曲は8月にレコードになって、その後長い期間売れ続けた。

「あなたはすっかり疲れてしまい 生きてることさえ いやだと泣いた」。彼が虚空を見つめながら歌うその表情には、背筋を強く刺激する美しさがあった。冒頭に男の色気と書いたが、彼の場合には男の側面と女の側面が同居していて、そこを振り子のように行ったり来たりしている危うさを感じる。「危ない、あぶない、そっちの世界に引き込まれそうだ」当時、私は妙に身構えてしまった記憶がある。それほど、そのときのジュリーは妖しい香りを漂わせていた。

一方、この年、ショーケンは髪を切った。おそらく、中学3年にジャズ喫茶で歌い始めた頃から10年間は伸ばしていた長髪を、バッサリ切ってしまった。スポーツ刈りというか、職人頭のような髪型にした。そして8月、奇しくもジュリーが『時の過ぎゆくままに』を出した同じ月に、ソロとしての初めてのレコードを吹き込んだ。順番が逆かも知れない。初のレコーディングのために髪を切ったということなのかもしれない。

記念すべき曲の名は『おまえに惚れた』。阿久悠作詞、井上堯之作曲の演歌だった。演歌といっても、井上堯之がつくり、彼のバンドが演奏しているこの曲には、多分にブルーズの臭いがあった。そして、阿久悠の書く詩は、先ほどのジュリーの歌も同様、物語のように展開し、それだけで一つの短編小説だった。曲の始めの「二十何年生きてきて いろんな女を見てきたけれども そのう おまえのような…」という科白がカッコよく、よく真似をしたものだった。

当時行きつけの高田馬場駅前のレコード店に、ソニー・ロリンズのLPを買いに行ったときに、店頭に飾られた『おまえに惚れた』の等身大ほどの大きなポスターを見つけた。真っ白いジャケットを身に着けたショーケンが、眩しそうな表情で遠くを見ていた。

それから2ヵ月後の10月、日本テレビのドラマ『前略おふくろ様』が始まる。山形から上京、いろいろと職を変えながら、今は料亭で三番板前として修行を積んでいる青年、サブこと「片島三郎」をさっぱりと頭を刈り込んだショーケンが演じた。

脚本が倉本聰、そして、ここでも音楽担当で井上堯之が名を連ねている。共演が、ショーケンが惚れ込む板前頭に梅宮辰夫、「おふくろ」田中絹代、親戚の海ちゃんに桃井かおりほか、北林谷栄、坂口良子、そして、当時ピラニア軍団を結成したばかりの室田日出男と川谷拓三などの渋めの役者たち。

脚本の倉本聰が、後に『北の国から』で純に語らせる有名なモノローグのパターンも、このドラマでショーケンが語ったのに端を発するらしい。「前略 おふくろ様 今日オレは…」などと呟いていたあの一人語りだ。作中でも「アヤッ 海ちゃん それは違うと思うな そりゃないっすよ」といった、倉本聰が作り出すショーケン節が随所に出てくる。

彼は、今までとはずいぶん個性の違う役柄を、気持ちよさそうに演じていた。そして、ここでショーケンが漂わせる色気は、刈り上げ頭のうなじから出てくる、芯のある硬質な男の色気だ。

その後、ジュリーは歌謡界のスターとして、実に長い期間、どんなときでもベストテン番組には常連で顔を出し、そのコスチュームや、舞台美術でも話題を作り、多くの曲で一等賞を取り続けた。また、映画に出ても『魔界転生』や『太陽を盗んだ男』などで、妖しい色気で多くのファンを魅了した。

また、ショーケンも、映画『八つ墓村』『影武者』を始め多くの作品で、すばらしい役者ぶりを見せ、歌の方でも『Nadja』をはじめ多くのアルバムを出したり、意欲的にコンサートを続けたりしている(個人的には、私は『大阪で生まれた女』『ラストダンスは私に』『愚か者』など、他の歌手の曲をカヴァーしているものがとても気に入っているが)。

かつて、GSの二大人気グループの、リード・ヴォーカルとして少女たちの心を奪い、その後も一時期同じグループに所属し、ツイン・ヴォーカルで同じ曲を歌っていた二人が、いつのまにか、歌も、役柄も対照的と言っていい、まったく違う個性を持つ存在として今もある。

けれども、これは私の中での話だが、今でもジュリーとショーケンの二人がいることで、はじめてお互いが光っているような気がしている。二人がそれぞれ相手の光源になっていて、どちらかが欠けると、もう片方も光を失ってしまう。幾多の崩れ落ちていった星の中から生き残った二つの星は、今ではそうして夜空を飾っているのではないかと思うのだ。

 

 

第7回:Blessed are the peacemakers.-終戦記念日に寄せて-

 
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