■もう一つの世界との対話 〜谷口江里也と海藤春樹のイメージトリップ
第一話 スカートの向こうの海との対話  3/4
更新日2005/08/04

その頃の私には足がなく、そのかわり、腰から下が魚のようになっていた
つまり私は人魚だったのだが、不思議なのは、私がそこで
私の下半身を包む半透明の美しいウロコを一枚、なぜか剥がして手に持ち
不思議なものでも見るように、それを光にかざして見ていたこと
何故そんなことをしていたのだろう……?
ふと気づくと、私のスカートの海の中の魚が、私の方をじっと見ていた
そして、それを見たとたんに思い出したのだが、それは
人魚だったその時の私のそばで、海の中から私を見ていた一匹の魚の
心配そうなまなざしと同じまなざしだった
あなたはもしかしたら、あの時の、あの魚?
 
ばれちゃったんならしょうがない、そうだよ、あの時の魚だよ
でもうれしいね、僕のことを覚えてくれていたなんて
君のことを、僕らは本当に、ずっと心配していたんだから


ごめんね、と思わず私は魚に謝っていた、だって、確かに私は
海の生き物たちの、喜びのシンボルである人魚という立場を捨て
私を慕ってくれるたくさんの魚たちを説き伏せ、どうしてもと言いながら
あのとき、海から陸へと、生きる場所を移したのだから……
もちろん私は海を愛していた、そこで生きる全てのものを愛していた
けれど、ほかの魚たちとはちがって、海の中でも海の外でも息が出来る私は
ときどき眺める海の外の世界のことが、気になってしょうがなかった
そこでもきっと、海の中と同じように、優しさに囲まれて生きて行ける
もしかしたら、もっと愛されて、とまでは思わなかったけれど
それでも少なくとも、海にいるときと同じ程度には、愛し愛され
そしてそんな自分を愛しながら生きて行けると、何故かそう思った
だから私は、みんなの心配を振り切るように、というより
何故みんながそんなに心配するのかが分からないまま
なにがなんでもそうするのだと、まるで当然のことのように心に決めて
早く人間になるために、急いでウロコを剥がした

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『もう一つの世界との対話』
定価 2,415円(税込み)
著者 :谷口江里也/TEXT 
カイトウハルキ/クレイドール
発行:(株)エスプレ
項数:247頁


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