タンポポのブランカ
ブランカはわたげになって、もうすぐ風にのってとびたとうとしている小さなタンポポのタネです。ブランカには、まっしろでうつくしい、フワフワしたわたげがついています。ブランカにはおなじようなきょうだいたちがたくさんいます。きょうだいたちはみんなで、まるくてやわらかなボールのように、ひとかたまりになっています。
タンポポは、はるに花をさかせます。しろいいろの花もありますけれど、ほとんどはきいろです。5まいのほそくてながいはなびらが、のばしたゆびをすぼめるようにくっつきあって、いっぽんのくだのようになっています。そんな花がなんじゅっこも、ぐるりとまあるく、くっつきあってさいていますから、ちょっと見ると、そんなたくさんの花のあつまりが、ひとつの花のように見えます。でもそれはよく見れば、たくさんの花があつまったものなのです。
少しぎざぎざしたかたちをしたタンポポの葉は、じめんのしたにしっかりはえている、ねっこをとりまくようにしてたくさんあります。花がさくじきになると、葉っぱのあいだから、たくさんの花のつぼみをうえにのっけたくきが、どんどんどんどんのびてきます。そしてじめんからすこしはなれたたかさまでくると、そこでタンポポの花がひらきます。
ですからタンポポの花たちは、まあるい花が、じめんのうえにうかんでいるようにしてさきます。しばらくすると、それぞれの花の5まいのはなびらがおち、なかから小さなわたげがかおをだします。わたげのしたには、いつのまにかタネができています。しろいわたげはすぐにどんどんのびて、ながくのびたくきのうえに、しろいわたげのボールのようになってついています。ブランカもそのなかのひとつです。
そうしてしろくてフワフワしたわたげをあたまのうえにのっけたタネのブランカたちは、じっとして、じぶんたちをとおくまではこんでくれる風がふいてくるのをまちます。ブランカたちは風にのってとおくまで飛んでいけるようになっています。わたげはそのためにあるのです。
くさばなたちは、いろんなほうほうでなかまをふやします。タネをつくってそれをまわりにおとすくさばなもあります。チューリップのように、じめんのなかのきゅうこんを大きくしてふえるくさばなもあります。そんななかでタンポポは、だれもおもいつかなかったようなほうほうをかんがえだしました。風にのって鳥のように、とおくのほうまで飛んでいくという、すばらしいほうほうです。すごいですね。うごけないくさばなの子どもが空をとぶことなんて、だれがおもいつくでしょう。
そうすることでタンポポは、はえていたばしょのちかくばかりではなくて、どこかとおくのしらないばしょまで子どもたちをたびだたせることができます。うまく風にのって、まだタンポポがいないばしょにまではこばれて、そこでじめんにおちて、めをだして、おとなのタンポポになる子もいます。もちろん、そよ風にのってお父さんお母さんタンポポのちかくにまいおりて、そこで大きくなる子もいます。
ですからながいくきのうえの、まあるいわたげのボールのなかでブランカたちは、きもちよくのれる風がふいてくるのを、ワクワクしながらまちます。そよ風くらいではブランカたちは飛びたちません。それではちょっとしか飛べなくて、すぐにじめんにおちてしまうからです。ですからブランカたちは、ちょうどいい風がふいてくるのをじっと待ちます。
早く飛びたちたくて、風が少しふいてきたときに、その風にのっていそいでとびたつきょうだいがますし、うんととおくまで行きたくて、とても強い風がふいてくるのを、しっかりくきにしがみつきながらまっているきょうだいもいます。ブランカは、風がふくたびに風にのって、しろいわたげをおおきくひらいて、きもちよさそうに空にむかって飛びたっていくきょうだいたちをまぶしそうに見つめました。
ブランカは光にあふれた日に、あたたかな風がふいてきたら、そのときこそ、飛びたとうとおもって、どんどん飛びたっていくきょうだいたちをみおくりながら、そんな風がふいてくるのを、ワクワクしながらまちました。
そしておひさまがまうえにきて、あたたかな光がブランカにふりそそいだそのとき、とてもきもちちのいいあたたかな風がふいてきました。この風だ、わたしがのる風はこの風だ、とブランカはおもいました。そしておもいきって飛びだしました。ブランカのからだは、たちまち風にのってまいあがりました。すごいスピードです。
それまでじっとしていたので、ブランカは目がまわりそうになって、なんだかクラクラしました。でもせっかく空を飛ぶたびにでたのですから、ちゃんとしっかりまわりを見なくてはと、ブランカはじぶんにいいきかせました。いままでいたのはらが、あっというまにとおざかります。いっしょに飛びたったブランカのきょうだいたちのすがたも見えます。みんな風にのってきもちよさそうに、あちらこちらに飛んでいきます。
じめんのうえでさいていたときには見えなかったものがたくさん見えます。川の水がおひさまの光をかえして、遠くの方までながれているのが見えました。青い空がブランカをはげましてくれているようにおもいました。いろんな色をした家のやねもみえました。あたたかな風がブランカをどんどんうえにはこんでくれます。ますますワクワクします。
たくさんの木のある山も見えました。たかくあがると、もっととおくまでみえます。むこうのほうの山と山にはさまれたばしょに、とてもきれいな、ところどころいろんな色の花がさいている、とてもきもちのよさそうなばしょがあるのがみえます。あのばしょにおりたい、とブランカはおもいました。そうしてあのばしょで花をさかせたい。そうおもったときブランカは、白いわたげをおおきくいっぱいにひろげて、風にむかっておもわずうたをうたっていました。
風さんかぜさんあのばしょに
どうかわたしをはこんでね。
わたしのわたげはきれいでしょ。
白くてかるくてステキでしょ。
わたしがえらんだ風さんだもの
とってもあたたかな風さんだもの
ほらほらむこうのほうに
きれいなのはらがみえるでしょ。
風さんかぜさんあのばしょに
どうかわたしをはこんでね。
のはらのうえまでいったなら
そこでわたしをおろしてね。
のはらのうえまで飛んだなら
そこでわたしもふんわりと
きれいなのはらにまいおりる。
そこがわたしのばしょだから。
風さんかぜさんありがとう。
風さんかぜさんさようなら。
-…つづく
第11回:ダンゴムシのコロコロ