のらり 大好評連載中   
 

■明日の大人たちのためのお話

更新日2021/02/11

 

 

ダンゴムシのコロコロ


 

コロコロは生まれたばかりのダンゴムシの子どもです。ダンゴムシのお母さんは、子どもがたまごからかえって、じぶんの足で子どもたちが歩けるようになるまで、子どもたちをおなかのなかでまもります。ですからお母さんのおなかからでてきたときには、とても小さくて、しんちょうはいちミリくらいしかありませんけれど、でも、ちゃんと、お父さんやお母さんとおなじ、ダンゴムシのかたちをしています。

足だってちゃんとありますから、お母さんのおなかからでてきたばかりのコロコロやきょうだいたちは、ちゃんとじぶんのあしで、あちらこちらにうごきまわることができます。にんげんは、にほんのあしで歩きますけれど、生まれたばかりのダンゴムシには足がじゅうにほんもあります。

そんなにたくさんあったら、どのあしをまえにだせばいいか、こんがらがってわからなくなってしまうのではないか、とおもうかもしれません。でもだいじょうぶです。

カブトムシはろっぽんあしですけれども、しっかりちからづよく歩くことができます。クモははちほんも足がありますけれども、じょうずにすをつくることができます。カニはじゅっぽんの足をつかってよこに歩くことができます。ヘビはなんと足がないのに、それでもすばやくうごきまわることができます。みんなそれぞれ、じぶんにしかできない歩きかたをします。ふしぎです。

ですからコロコロも、じゅうにほんの足をうまくつかって、うごきまわることができます。しかも、なにかきけんなことがおきたときには、お父さんやお母さんとおなじように、からだをまるめて、まあるいボールのようになってじぶんをまもることだってできます。

そのときには足は、まるいからだのなかにいれますから、そとから見ると、小さなボールのようにしか見えません。ふしぎです。どうしてそんなことをするようになったのかは、どうして足がじゅうにほんもあるのか、ということとおなじように、よくわかっていません。

 

もしかしたらダンゴムシは、そういう虫になりたくてそうなったのかもしれません。そんなことができたら、かっこいいなと、ダンゴムシのせんぞのだれかがおもったからかもしれませんけれども、ほんとうのところはまだわかっていません。

ニンゲンにもわからないことがたくさんあります。ですからしぜんのなかには、ふしぎな、まだよくわかっていないことがたくさんあります。でも、だからおもしろいのです。

ところでダンゴムシは、虫とよばれていますけれども、ほんとうは虫ではなくて、からだがかたいカラでできているカニやエビのなかまです。なのにりくにすんでいるというのもふしぎですね。ほんとうにふしぎなことばかりです。

でも、まるくなったときのダンゴムシをよくみると、イセエビのどうたいのように、せなかがいくつもの、すこしまるくなったかたいこうらのようなものでできていて、それでせなかをまるめられるようになっているのがわかります。もしこうえんとかでダンゴムシをみつけたら、つかんでてのひらにのせてみてください。すぐにまんまるになって、てのひらのうえでコロコロころがります。

そうしてすこしあそんだら、ちゃんとまた、じめんのうえにおいてあげてくださいね。そうすると、しばらくすると、からだをのばして歩きはじめます。

 

ところで、お母さんはいちどにだいたいひゃっぴきくらいの子どもをうみますから、コロコロにはきょうだいがひゃっぴきくらいいます。たくさんのきょうだいですね。ひゃっぴきのきょうだいがケンカなんかしたら、たいへんなことになってしまうとおもうでしょう。でもコロコロたちはケンカなんかしません。きょうだいげんかというのは、だいたい、おかしをとりあったり、そっちのおにぎりが大きいじゃないか、というようなことからはじまったりしますけれども、ダンゴムシはまわりにたくさんたべるものがありますから、ケンカをするひつようがありません。ダンゴムシのごはんはおもに、おちばだからです。

きのえだからはっぱがおちると、ひらひら風にとばされながらじめんにおちます。木にはたくさんのはっぱがありますから、じめんにはっぱがどんどんたまります。そのままだと、じめんがはっぱでいっぱいになってしまうとおもうでしょう。

おおきな木が冬に、はっぱをみんなおとして、えだだけになっているのをみたことがあるでしょう? おちたはっぱが、きのしたにたくさんたまっているはずですね。木がたくさんある山の木のはっぱがどんどんおちたら、山がはっぱでいっぱいになってしまうとおもうでしょう。

でもだいじょうぶです。おちたはっぱは、まずたいようの光や風で、せんたくものがかわくようにかわいて、カサカサになってわれて小さくなったり、あめがふればあめをすってやわらかくなったりします。コロコロたちにとっては、そんなおちばがごちそうです。

 

ダンゴムシたちはたくさんいますから、みんなでせっせとおちばを食べます。みなさんとおなじように、食べればウンチがでます。でもダンゴムシはちいさいので、ウンチもとても小さくて、しかも、もとがはっぱですから、ちっともきたなくなんかありません。そしてこんどは、いろんな目にみえない、びせいぶつ、といういきものがそのウンチをえいようのある土にかえてくれますます。

ダンゴムシたちは、せっせせっせとおちばを食べて、せっせせっせとウンチをして、それをびせいぶつたちがせっせせっせと土にしてくれます。土がなければ木もくさも、やさいもおこめもそだちません、花もさきません。ですからコロコロたちは、はっぱのごちそうをたべながら、とてもとてもたいせつなおしごとをしてくれているのです。

 

ちきゅうにはたくさんのくさきがはえています。くさきたちは、土のなかにねをはやして、土から水やえいようをとって大きくなります。ウシやヒツジたちはそのくさを食べて大きくなります。ですから土がなければ、くさきたちもどうぶつたちもわたしたちにんげんもいきていけません。

土があるのはあたりまえのようにおもうかもしれませんけれども、でもちきゅうには、おおむかしは土はありませんでした。ちきゅうとおなじようなころにできた月には、石や砂しかありません。ちきゅうもなんじゅうおくねんもまえはそうでした。でもちきゅうには水があって、くうきもあって、いろんないのちが生まれて、そしてすこしずつ、いわばかりだったじめんのうえに土ができていきました。

土はたくさんあるようにみえますけれども、土のじめんをほっていくと、すぐにいわになります。土は、ちきゅうという大きなまるい、いわのかたまりのようなほしのひょうめんにほんのすこしあるだけなのです。でもその土があるおかげで、ちきゅうはみどりあふれる、いろんないきものたちがくらす、美しくてステキなほしになりました。

そうなったのは、いろんないきものやびせいぶつやコロコロのなかまたちが、せっせせっせとはたらいてくれたからなのです。おおきなおおきなまあるいちきゅうのうえの、ちいさなちいさなはたらきもののまあるいダンゴムシたち。

ほらほら、いまもせっせせっせとこのはを土にかえてくれているコロコロたちのうたがきこえてきます。

 

 ぼくらはコロコロダンゴムシ

 ちっちゃいけれど

 おちばのしたでみえないけれど
 
 せっせせっせとおちばを食べて

 せっせせっせと土にする


 ぼくらはコロコロダンゴムシ

 つくる土はすこしだけれど

 めにみえないくらいすこしだけれど
 
 せっせせっせとみんなでつくれば

 いつかはたくさんの土になる


 ぼくらはコロコロダンゴムシ

 ゆっくりあるくダンゴムシ

 ぼくらはコロコロダンゴムシ

 まあるくなればコロコロと

 ころがることだってできるんだ


 ぼくらはコロコロダンゴムシ

 ぼくらはコロコロダンゴムシ


-…つづく

 

 

back第12回:水の子アクア

このコラムの感想を書く

 


谷口 江里也
(たにぐち・えりや)
著者にメールを送る

本や歌や建築、さらには自治体や企業のシンボリックプロジェクトなどの、広い意味での空間創造を仕事とする表現哲学詩人、ヴィジョンアーキテクト。
主な著作に『鏡の向こうのつづれ織り』『鳥たちの夜』『空間構想事始』『天才たちのスペイン』、主な建築作品に『東京銀座資生堂ビル』『ラゾーナ川崎プラザ』『レストランikra』などがある。
なお音楽作品として、シンガーソングライター音羽信の作品として、アルバム『わすれがたみ』『OTOWA SHIN 2』などがある。

アローAmazon 谷口江里也 著作リスト

アロー未知谷 刊行物の検索 谷口江里也
アローElia's Web Site [E.C.S]


■連載完了コラム

鏡花水月 ~ 私の心をつくっていることなど
(→改題『メモリア少年時代』)
[全9回+緊急特番3回] *出版済み

ギュスターヴ・ドレとの対話 ~谷口 江里也 [全17回]

『ひとつひとつの確かさ』~表現哲学詩人 谷口江里也の映像詩(→改題『いまここで  Here and Now』) [全48回] *出版済み

現代語訳『枕草子』 ~清少納言の『枕草子』を表現哲学詩人谷口江里也が現代語に翻訳 [全17回]

現代語訳『方丈記』~鴨長明の『方丈記』を表現哲学詩人谷口江里也が現代語訳に翻訳 [全18回]

現代語訳『風姿花伝』~世阿弥の『風姿花伝』を表現哲学詩人谷口江里也が現代語に翻訳 [全63回]


岩の記憶、風の夢~my United Stars of Atlantis [全57回]
*出版済み

もう一つの世界との対話~谷口江里也と海藤春樹のイメージトリップ [全24回]
*出版済み

鏡の向こうのつづれ織り~谷口江里也のとっておきのクリエイティヴ時空 [全24回]
*出版済み

随想『奥の細道』という試み ~谷口江里也が芭蕉を表現哲学詩人の心で読み解くクリエイティヴ・トリップ [全48回]
*出版済み

バックナンバー

第1回:木の葉の小太郎
第2回:チョウチョのフワリ
第3回:モグラのモクモク
第4回:ツバメのツバクロ
第5回:コスモスのピンキー
第6回:ギンヤンマのシュンシュン
第7回:キリンのジイラ
第8回:アメンボのスイスイ
第9回:ウミガメのユラリ
第10回:タンポポのブランカ


■更新予定日:隔週木曜日