野添千納
(のぞい・ちの)

パソコン通信黎明期よりパソコンをコミュニケーションの手段として使い続けるコンピューター&コミュニケーション・ジャーナリスト。33歳。

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第7回:eSenseなき選挙運動

予想通り小泉人気を反映する結果になった東京都議選だが、選挙が近づくなか、筆者が通説に感じていたのは、あの住宅街のなかでも遠慮無しにやってくる選挙カー。あんなものが、21世紀になってもまだ存在することへの驚きだった。

選挙カーは移動しながら騒音をまき散らす。移動しながらだから、公約を掲げられるわけでもなければなんでもない。ただ「オヤスミのところ、申し訳ありません。○○党の○○、○○党の○○をよろしくお願いいたします」と繰り返し去っていくのである。なかには世帯数が多そうな住宅の前でしばらく車を止める悪質なものもある。まるで暴走族だ。 申し訳ないと思っている気持ちが本当にあるなら、ぜひ次回の選挙から使わないで欲しい。たまの日曜日くらい静かに過ごしたいと思っている人も多いはず、ようやく子供が寝付いたばかりの家庭だってあるはずだ。

実際、投票所におもむいた人にアンケートを取ったとしよう。「私は選挙カーが繰り返し名前を言うのを聞いて投票しました」なんて答える人が果たしているのだろうか。私には彼らが選挙資金をひたすら無駄遣いして、おまけに人様に迷惑をかけながら、自分勝手なお願いを押しつけているだけにしか思えない。これこそ現在の日本の国民が不信感を募らせてきた日本の政治体質の縮図ではなかろうか。集めたお金を有効に使えない無能な連中に一体誰が投票してやるだろう。

なにもすべての選挙カーがイケナイというつもりはない。繁華街での街頭演説などはある程度必要だと思う。だいたい、どういう考えを持った人間かわからないのではそもそも投票のしようがない。しかし、街頭演説にしたって、歩く人全員に大声を張り上げて無理矢理聞かせるのではただの迷惑でしかない。

両者のイケナイところはプッシュ型、つまり押しつけ型であることだ。嫌がる有権者に、無理矢理自分の考えを、力(声の大きさ)で投票させようなどという、そんな戦略が本当に通用すると思っているのだろうか。 さらに困ったことに、いざ投票所に行ってみると、ただ候補者の名前と政党が書いてある以外はロクな情報が用意されていない。でも、本当は投票所に行ってからまだ悩んでいる人だって多いはずだ。

さて、「情報は欲しいとき、欲しい場所に用意する」という優れたeビジネスの鉄則がある。選挙カー同様のプッシュ型であるバナー広告は、クリックする人が少なくその収益性を不安視するアナリストも増えてきた。なかにはバナー広告だけをきれいに無視するWebブラウザーもある。それではどうすればいいのか? ユーザーが欲しいときにそのタイミングで情報を提供するプル型こそが解決策だろう。

たとえばインターネット検索エンジンとして人気が高い「google」は、検索キーワードによって、それに関連した広告が表示されるしくみを取っている。たとえば「Bicycle」をキーワードに検索をすると、自転車屋の広告が表示されるという具合だ。これによって「google」の広告がクリックされる率は、他のサービスに比べて3倍近く高いという統計データもある。

選挙の場合も、うるさい選挙カーに費やすお金やただのゴミの山にしかならないチラシを人の家の郵便ポストに押し込むのではなく、その分のお金で投票所にパソコンをおいて候補者の考えなどが書かれたホームページを閲覧できるようにしたり、ビデオで演説を聞けるようにしたりというのが本当のスジなのではないかと筆者は思う。

次回の選挙に「今のこの馬鹿げた選挙運動の因習をやめさせる」という候補者が登場したら、ぜひ投票したいと思っている。

 

→ 第8回:昨日の弁は昨日の弁


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