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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第507回:日本の敬語はミッション・インポッシブルの難しさ

更新日2017/04/06



日本語でとりわけ面白いのは、擬音語、擬態語が豊富なことです。おまけに自分で自由に創作できますから、必ずしも定型通りの擬音語を使わないで、創造的に表現しても間違いとは言えません。かえって、決まり切った擬音語、擬態語を使うと、何か使い古された退屈な感じになってしまうことがあります。

たとえば、雨はシトシトかジャージャー降るだけでなく、滝のような雨ならゴウゴウでもガンガンでもいいでしょう。三島由紀夫さんは、擬音語、擬態語を文章から品格を失わせるとして嫌っていたようですが、私たちの日常生活ではそう品格に拘ってばかりいられません。

もう一つ日本語を特徴付けているのは、敬語だと思います。これは、外国人にとっては、ミッション・インポッシブル、鬼門で正しく使うのは不可能に近いのです。

敬語には、もちろん、相手を尊敬する(本当に尊敬できる人に対してだけ使うのなら問題は簡単なのですが…)、自分をへりくだる謙譲、それに丁寧語を相手を見極めて使い分けるとなると、それはもう神業的なことです。

日本の年功序列、年上であるかどうか、エライさんかどうか、どの程度親しいか、などなど、社会的な関係、序列が複雑怪奇に影響してきますから、それはもう、ドップリと日本社会に溶け込み、人間関係を醒めた目で見ることができるようにならなければ、間違いなく敬語を使うことなどできない相談なのです。

ウチのダンナさん、年齢からいえば、誰からも敬語で話されても不思議でない歳なのですが、あまり日本で尊敬されていないのでしょうか、彼に敬語を使う人はまずいません。彼に言わせれば、日本人でも敬語をきちんと使える人はほとんどいないから、そんなこと気にするな、となります。

私の日本語は、ウチのダンナさんの影響で、北海道弁の男言葉なので、よく笑われ、注意されます。実際、敬語を交えた丁寧な日本語を話す人に接すると、そんな人の人格、美しさが一段と増すように思えます。 

最近、気になる言い方で、『~~~をさせて頂きます』というのがあります。あまりに多く耳に入ってくるので、なにも私が~~させてあげているわけでなし、頼んだわけでもないし、本人が勝手にやっていることなのだから、奇妙にヘリクダル必要はない。逆に卑屈にさえ響くのですが……。たとえば、私のことが大学新聞に載ると、その記事を読ませて頂いた、とやるのです。

これもウチのダンナさんの言い分ですが、「あれは悪いサラリーマン敬語だ」ということになり、『~~~致しました』の方がすっきりするし、正しいということになります。そんな『~~~をさせて頂きます』式のサラリーマン敬語を乱発している本人が、普段から謙遜な人物ならまだ納得できるのですが…。

シツコイのが教職にある者の特徴ですから、どこから、『~~~させて頂きます』式の言いかたが出てきて広がったのか、これも物知りらしきダンナさんに追及してもらったところ、どうも話はとても古く、親鸞の浄土真宗に表現の源がある…ようなのです。

彼の根本思想は、“私たちは自分で生きているのではなく、(天に)生かされている”  絶対受け身が“させて頂く”という表現の源ではないか…とダンナさんは言うのです。神様、仏様と自分個人との関係から生まれた言い回しで、神様、仏様のおかげでこうして、イロイロなことが体験でき、見たり聞いたりできるのだから、必ずしも話し相手に尊敬の念を抱いていなくとも構わない、天の摂理に対しヘリクダッテいるのだから、『~~~をさせて頂きます』となる…らしいのです。

でも、一つの表現に千年も前のことをイチイチ引き合いに出されては、ますます日本語の敬語なんか使えなくなりそうです。臭気フンプンたる納豆、沢庵を食べられるようになっても、敬語を優雅に、自然に口から溢れ出てくるようになるまで、長い修練が必要なのでしょうね。

 

  

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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