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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第508回:大流行の人工関節埋込手術

更新日2017/04/13



お隣の韓国の美容整形は世界中に名を馳せ、中国や日本、タイなど近隣の国から、団体で押しかけるほどだといいます。何でも娘さんの大学の卒業祝いに、親が美容整形をプレゼントするのが流行っているそうですから、韓国で美人、美形を見たら整形だと思え…というくらい広がっているようなのです。

日本の成人式の時に一度しか着ないチャラチャラした訪問着より、韓国では、はるかに安く目はパッチリ、鼻筋スッキリの顔に生まれ変わることができるというのです。

アメリカで異常に多い手術で、日本ではほとんど見たこと、聞いたことがないのは、膝や股関節の人工関節の埋め込みです。日本式正座が膝に悪いことは明らかですが、今時、正座を日常的にしている人は非常に少ないでしょうか、日本人にO脚が多い理由にはならないでしょう。

何度か何年間か日本で暮らした経験から言えば、日本人は全般的に実によく歩きます。通勤通学するにも、まず駅まで歩くか自転車、駅の構内でも階段の上がり降り、乗り換えの際の歩きと階段の上り下り、そして駅から会社、学校までと、アメリカのデブではとても出歩くことができないほどの距離を歩き、階段を昇ったり降りたりしなければ、目的地にたどり着けないようにできています。

半世紀も前、ウチのダンナさんが初めてアメリカに来た時、車を降りずに何でも用を足すことができることにとても驚いていました。ドライブスルーと呼ぶやり方で、マクドナルドやバーガーキングなどのファーストフッドレストランが始めたことのようですが、それがアレヨという間に広がり、銀行、薬局、図書館、公共サービスなどなど、ありとあらゆる分野にドライブスルー方式が採用され始めています。

これでは、ただでさえ車を降りて歩くのは自宅の車庫(車庫のドアは自動です)と自宅の間にあるドアまでということになってしまいます。

使わなければダメになるのは、機械類だけでなく人間の身体も同じで、おまけにお相撲さん顔負けの超ヘビーな体重を支える膝や股関節が悲鳴を上げるのは当然です。そこで、アメリカで大流行の人工関節手術となるわけです。昨年、70万人が人工関節手術を受けました。これはアメリカの病理手術では記録的に急上昇している手術で、2030年には350万件になるだろうと見込まれています。

身近な人でも、私の母、叔父二人、叔母一人、従兄弟一人がチタニュウムの関節を埋め込み、叔父は両膝と股関節を二度入れ替えています。逆に、ウチのダンナさんの家族ではそんな手術を受け、人工的な関節を持っているロボット的な人はいませんし、彼の友達(いずれもかなりの高齢ですが)にも一人もいません。

アメリカのデブ文化が膝にきて、人工関節手術の大流行を生んだのは間違いありませんが、加えて、医療のあり方が人工関節手術の大盛況を生んでいます。

人工関節埋込手術はおよそ3万5,000ドルから4万5,000ドルの費用がかかります。生きるか死ぬかの手術ではないのに、整形外科医が必要だと保険会社に申請すれば、まず保険会社はOKを出します。保険会社は患者さんが歩けなくなった状態で様々な医療サービスが必要になるであろう事態に陥り、出費がかさむより、手術を許可して、歩けるようになってくれた方が支出が少なくて済むからです。

そこで、人工関節専門の外科医は1日5件からの手術をこなし、大いに儲け、人工関節を作る製造会社の株もうなぎ登りとなります。この人工関節手術大流行の裏には、アメリカ人の心理が大きく影響しているようにみえます。何事も簡単に結果を求め、安直さに傾くアメリカ人の性向があると思うのです。

膝が痛み、曲がらなくなったのは体重が重すぎ、しかも歩かない動かないからなのははっきりしているのですから、まず体重を減らし、よく足を使うのが当然なのです。それなのに、そんな手間暇かかる面倒なことはせずに、保険でカバーしてくれるのなら、人工関節にしてしまえ…となるのでしょう。

数年前、私の知り合いが車の事故に遭い、フロントグラスに顔を突っ込み、人相が悪くなったことがあります。元々ハンサムな顔立ちの人ではありませんでしたが、暗黒街の顔役くらいには見えるだろうと奇妙な自慢をしていました。最近になって、彼が顔を洗っていたら、その古傷からガラスのカケラが出てきたと言っていました。元々、自分の体の一部でないもの、金属やガラスなどが体内に入るとそれを外に押し出そうする働きがあることはよく知られています。

人口関接もおよそ5~7年ほどはうまく動いてくれるようですが(82~89%の成功率)、その後、埋め込んでいる骨の方が老化してくるし(と整形外科医は言い逃れをしているのですが)、体内に入った金属、プラスチックを外に押し出そうという自然の作用で、再度の手術が必要になってきます。

日本の私の義理のお姉さん、一時期、ほとんど歩けないくらい膝と股関節を病みましたが、一年以上かかりましたが、気長で根気の要るリハビリで、ほとんど完治までもっていきました。すぐに人工関節に飛びつくアメリカ人、人工関節を持つ私の親戚に、彼女の爪の垢でも煎じて飲ませたい…心境です。

 

  

第509回:修理からパーツ交換~職人受難の時代

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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