第750回:スキー転倒事故の顛末~医療編
今回のダンナさんのスキー事故での医療体制というでしょうか、処理の仕方、素早さは実に印象的でした。スキーパトロールは雪上車で駆け付け、いかにも手馴れた風にダンナさんの首を簡易ギプスのようなモノで固定し、下に降ろしてくれましたし、一旦地元の病院に収容され、そこでCTスキャンを撮り、これは大きな脳神経外科、脳外科のある病院へ移した方が良いと、移すべきだと判断したのでしょう、そこからヘリコプターへの移送も緊急医療のプロが付き添い、実に手際よくスムーズでした。ダンナさんの方は、せっかくのヘリコプターでのロッキー山脈ツアーだったのですが、全く何も覚えていないみたいですが…。
そして、ここのセントメリー病院のICU(緊急集中治療室)は20畳くらいの大きな部屋、それも個室で、色々な機械、検査の道具、モニターが多いとはいえ、大きなソファー、そしてリクライナー、広々としたシャワー、トイレと、超豪華なワンルームマンションなのです。それに一面は大きな窓で、グランドメッサの眺望が広がっているのです。それは3階でしたが、そこに2泊し、9階の脳外科に移されましたが、その病室も素晴らしい景色が広がる五つ星の高級ホテルのスイートのようで、私たち家の居間よりはるかに大きいものでした。
食事も普段粗食の私たちの口、目から見ると高級レストランのようで、見開き3ページのメニューから自由に選べるのです。その上、何をいくら注文してもイイというのです。メニューにはフランス語、イタリア語などが飛び交い、「オイ、コリャなんだ? もっと体調の良い時、腹を空かせて来たいもんだなぁ」とダンナさん嘆いていました。しかも、電話で注文すると20~30分でホカホカの料理を持って来てくれるのです。
私は許された面会時間の朝7時から夕方7時までズーッと付き添っていましたから、看護婦さんやお医者さんの回診、患者の扱い、食事のサービスなどなど、つぶさに観察できました。マアー、ダンナさんが無事だったこともあり、今回の事故の処理、山から降ろし、ヘリコプター、そして入院、検査すべて満足のいくものでした。100点満点近い点数をあげても良いかなと思っています。
…と思っていました。ところが、ところがなのです。次々と医療の明細書、請求書が郵便やメールで入ってきて、驚きました。アメリカの医療費が高いことは、何となく知識としては知っていましたが、今のところ、スキー場の町の病院とセントメリー病院の費用だけで12万1,000ドル(1,500万円相当)なのです。しかも、これにはヘリコプター、救急車など(アメリカではこれらのサービスは別会社、私営です)からの請求書はまだ来ていませんし、2週間の心臓監視のために貼り付けたパッチと、それを分析した心臓外科、1ヵ月後の検診料は含まれていないのです。
こんな大金、誰が払えるもんですか。
私たちが加入しているオバマ大領が促進してくれた貧乏人のための保険は、その基本方針に従ってプライベートの保険会社がこもごものプランを売り出すという形のモノに加入指定います。アメリカには日本、ヨーロッパの国では当たり前の国民保険がありません。すべて儲け主義の保険会社、病院が牛耳っているのです。それは理屈としては知っていましたが、今回身をもって思い知らされたのです。
明細書を見ると、ベッドに縛り付けられるように寝ているのが得意でないダンナさん、何度か看護婦さんに頼んで廊下を歩いたのですが、もちろんダンナさん十分一人で歩くことができます。看護婦さんは万が一のため、ただ彼に付き従って歩いてただけなのですが、彼がツマズキ、転び、裁判に訴えたりされないように、義務で横に付いているだけなのです。時間にして10分間以下でしょうか、そのチャージが1回125ドル(約1万5000円)なのです。ましてや5回も撮ったCTスキャン、MRI、あばら骨のレントゲンなどの料金は推して知るべしの天文学的数値なのです。
私たちが加入している保険はともかく、一旦被保険者が病院、救急車、ヘリコプターなど関連費用を支払い、それに対して保険会社の支払いが何割か払い戻すという嫌らしいシステムで、こんな大金を現金で持っている人は少ないでしょう。ここでもまたスキーの雪ヤギグループのメンバーが貴重な忠告をしてくれました。
基本はまず絶対に向こうの請求通りに支払うな、と言うのです。すべては交渉だと言うのです。医療サービス機関はダメ元で吹っかけてくるから、ゴネろと言うのです。ケンは彼の父親が亡くなった時の病院の請求を片付けるのに1年近くかかったと言います。キースは良い弁護士を紹介するから、自分で交渉などできない、続けられないと思ったら、専門の弁護士を使った方がかえって安上がりだと言うのです。大金持ちの人たちでも、というのか、それだからこそお金持ちになれたのか、お金に対してとても厳しいようなのです。
こんな酷い国を逃げ出して日本に住みたくなりました。でも、そのような破産宣言、これも面倒な手続きを踏み、裁判所が判断を下すのですが、をして外国に逃げると、二度とアメリカに戻ってこれなくなり、私の家族に会うこともできなくなります。おまけに、この家と土地も没収、競売にかけられてしまいます。アメリカで個人破産している人の凶元の圧倒的なトップは、医療費が払えないからだと知りました。
ダンナさんの方は、ヘリコプターに乗る前に、ヒルトンホテルの豪華スイート並みの病室に入る前に、最初に、それらの料金を知らせて貰いたかったな~、オレにゃ~、地下のタコ部屋でよかったのにな~(そんな部屋はありませんが)、それにオレの命にそれだけの価値があるかどうかも大いに疑問だな~とか言っています。
そう言えば、今回のスキー事故で体験したすべての医療機関で働く人たちの素早く適切な処置は素晴らしいものでした。でも、今気が付いたのですが、検査、検査の連続で入念でしたが、手術はもとより治療らしい治療を全くしていないことに気が付きました。何らかの薬すら与えられていません。すべては彼の自然治癒力が恐ろしいクモ膜下出血を抑え、消滅させ、彼流の“放っておけば治っちゃう、それがダメなら死ぬしかない”状況だったのでしょうか…。
さーてと、これから続々と届くであろう請求書と格闘する日が続くことになります。彼の方は、「オレ、自分の命がそんなに価値があるとは思わんけど、金で済むことなら…」と、また例によって例のゴトシの元のダンナさんに戻ってきたようです。
-…つづく
第751回:クレア一家の癌と大気汚染の関係
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