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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第562回:アメリカではあり得ない“掃除当番”

更新日2018/05/17




私が勤めているのは生徒数が1万人少々の中規模な大学です。アイヴィーリーグや大きな州立、私立の大学のように大木が森のように茂り、緑に覆われたキャンパスにはとても及びませんが、田舎町の中心に南北に8ブロック、東西に4ブロックを占め、大小合わせると20ほどのビルディングがあります。

私の研究室、といっても大きな机が二つ、椅子が4脚、本棚が二つで一杯になってしまうくらいの広さ(狭さ?)ですが、毎日、掃除のエミリー叔母さんがゴミ箱を空にし、バキューム掃除機をかけてくれ、建物自体がまだ2年しか経っていないこともあり、とても清潔です。

エミリー叔母さんは、と言っても、私と同じくらいの歳でしょうけど、私の事務所のあるエスカランテビルの掃除を幾人かで受け持っています。このビルに大小の教室が十幾つかあり、他に私の部屋のような事務室、職員室が二十幾つかあります。

広い階段がちょっとした劇場のようになっていて、その脇に生徒さんたちが寛げるソファーや椅子が配置してあったりで、戦後のド貧乏大学で過ごしたウチのダンナさんに言わせれば、ヒルトンホテル並みじゃないかとなります。

エミリー叔母さんは、話し方や仕草から判断するに、相当良い教育を受けているように見受けられます。もう16年、ここで働いていますが、後数年で引退なので、それまでガンバルつもりだと言っていました。

州の公務員としての社会保障、年金のベネフィットがあるだけが、役得だとも言っていました。彼女は以前、地元の高校の掃除も受け持っていました。しかし、あまりに高校生のマナーが悪く、食堂などはブタ小屋のように食い散らかし状態なのにうんざりし、大学の方がマシだろうと、この大学に移ったということです。

ところがなのです、エミリー叔母さんに言わせれば、教室の汚れ方が年々酷くなり、今では高校の食堂並みにコーラやコーヒーの飲み残しがひっくり返り、机や床を汚すのは当たり前、スナックの袋だけでなく、ポテトチップやポップコーンの屑が撒き散らされ、仕事量は10年前の倍になった…と言うのです。

ウチのダンナさんが、彼の同級生が集まった時に、「アイツは掃除当番をサボルから駄目なヤツだ…」とか、冗談めかして言っているのを耳にして、日本には小学生の時から高校まで、“掃除当番”なるものがあることを知りました。

自分の使うスペースを自分で掃除することは、それだけ汚さない意識が生まれるでしょうし、自分の始末を自分でするという教育の基本の更にまたオオモトです。“掃除当番”こそ、アメリカが日本の教育から学ばなければならいことだと思います。“掃除当番”がノーベル賞にいかに結びつくか…などとは言わないでください。教育の基本は、独立した社会人を育てることです。

私も幼稚園から今まで、一度も教室やトイレ、階段、廊下などを掃除したことはありません。自分の使うスペースなのに、自分で掃除するということは想像さえしなかったのです。少しくらい汚しても、次の日には綺麗に清掃されているのが当然のことだと思っていました。誰かが放課後に掃除していることすら思い及びませんでした。

“アメリカの学校で掃除を生徒にさせる”…なんて言い出したら、生徒さんだけでなく、親も先生たちも、こぞって反対するでしょうね。まず、生徒さんは“サボル”でしょうし、親はウチの子供がなんで教室の掃除をしなければならないの、その分お金を払うから、ウチの子にそんなことをさせないでくれ、掃除夫にするために学校にやっているんではないと言い出すことでしょう。先生たちも、生徒がきちんと掃除をしたかどうか確かめるという余計な仕事が増えるのを喜ばないでしょう。

大学の寮でも、ダンナさん、廊下、トイレは一年生の仕事だったと言っていますし、体育館まで、クラブ活動で使う学生が当番制で掃除をした(させられた…)と言っています。「あんなことしなくて済んでいたら、その分練習していたら、オレもバスケットでNBAにトレードされるくらいにはなっていた…」と寝言を言っています。それなら、どうして掃除のプロにならなかったの…と言いたいところですが…。

全くそんな可能性はないことを知りながら、当番で生徒に掃除をさせるのは、日本の優れた教育の元で、アメリカがすぐにも取り入れなければならないことだと確信しているのですが…。

-…つづく

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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