■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から


Grace Joy
(グレース・ジョイ)



中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。




第1回~第50回まで

第51回:スポーツ・イベントの宣伝効果
第52回:国家の品格 その1
第53回:国家の品格 その2
第54回:国家の品格 その3
第55回:国家の品格 その4
第56回:人はいかに死ぬのか
第57回:人はいかに死ぬのか~その2
第58回:ガンをつける
第59回:死んでいく言語


■更新予定日:毎週木曜日

第60回:アメリカの貧富の差

更新日2008/05/15


今、後進国とは呼べず、発展途上国と言わなければならないことになっているそうですが、第三世界の国々と呼んだりしたら、どこからか"お咎め"が来るのかしら。

ここでは、まとめて第三世界の国々と呼ばせてもらいますが、それらの国の特徴は、乱暴に言えば、貧富の差が大きく飢えている人がたくさんいるのに少数のスパーリッチがいる、政権が親から子に引き継がれることが往々にある、国の借金が巨額である、政治経済の贈収賄が多い、幼児死亡率が高く社会保障や健康保険の制度がないか、あってもうまく作動していない、などでしょうか。

もうお気づきのことでしょうけど、これらすべての特徴が私の国、アメリカ合衆国にピタリと当てはまるのです。そこで今回は、広がるばかりの、貧富の差について書くことにします。

アメリカ合衆国での貧富の差は、絶望的なまで大きいモノがあります。最低賃金法で一応最低守らなければならない賃金は、合衆国政府のお触れでは時給で5ドル85セントです。それを上回る数字で各州が独自の最低賃金を決めています。

ウエイトレス、ウエイターのようにチップの収入が見込める職業は、この範疇に入りませんので、彼らの基本給はもっともっと安く抑えてあります。一見これで週40時間働けばそこそこになり、そんなに悪くないと思うかもしれませんが、ここから非常に高い健康保険、通勤に必要な車のガソリン代などを差し引くと、最低賃金で暮らしていくのは不可能に近い状態なのです。それでも仕事にありつくことができる人はまだ幸運な方でしょう。

アメリカの社長さんが天文学的給料と付随する役得を手にしていることは、奇怪な現象として世界中に知れ渡っています。経済、企業関係の雑誌『フォーブス』(Forbes)を覗いてみて驚きました。会社の持ち主ではなく、外から雇われてきた社長さんたちの給料はまさに現実離れしていると言ってよいほど高額なのです。

会社の業績を上げるために優秀な人材を求め厚遇する…のは理屈として分かりますが、何千、何万人もの会社員の首を切った末、その会社の業績も株の価格もガタ落ち、ほとんど会社を潰したような社長さんたちが、超高給、退職金、終身年金を手にしているのです。

例をあげますと、ボストン・サイエンティフィック社(Boston Scientific)の社長、ジェームス・トビン(James Tobin)は年収8億6千万円。ケビン・シャーラー(Kevin Sharer;バイオテック社の社長)は13億円、マイケル・ペリー(Michael Perry)は7億の給料を貰って、ほとんど会社を潰すほど、経営に失敗している人たちです。

日本なら、記者会見で社長さん以下幹部一同がハゲ頭を下げ、謝罪し、自殺者の一人二人出てもおかしくない状況に会社を落とし込んだ人たちなのです。他に数え切れないほどの社長たちが同じような利益をむさぼっており、これはほんの一例です。

最高(最悪かしら)の例は、カントリーワイド社(Countrywide、不動産、ビルなどのレンタル業) のAngelo Mozilo社長は年収70億円を貰いながら、会社はを壊滅状態にしたうえ、ご褒美に会社の株を時価で数百億円手にしています。

電話会社スプリント(Sprint) の社長、ゲーリー・フォージー(Gary Forsee)はあまりに酷い失敗続きの経営の末クビになりましたが、彼は44億円の給料を最後まで貰った上、オマケに月900万円の終身年金を貰う約束で退陣したのです。

年々、外から呼ぶ会社の社長さんの給料は上がる一方で、1980年に社長さんたちは、会社員の平均給与の40倍でしたが、2007年にはなんと433倍の給料を貰っています。

どうしてこんな現象が生まれたのか、誰を社長にするか決定する機関に問題があることははっきりしています。簡単に言えば、各企業(州立大学でさえも)諮問委員会という業界に詳しい人、識者などからなる評議会があり、そこで次期の社長を誰にするか決定します。ところがその諮問委員の多くが、すでにどこかの社長を兼ねていたり、たくさんの諮問委員会に属していたりして、いわばウォール街クラブのような性格を持っているのだそうです。

ですから、「お前、アッチの会社の社長職に空きがあるから行ってみないか。そのかわり私をコッチ会社の社長職に推薦してくれ」と言うように仲間内でおいしい料理を分けあっている……とフォーブス誌の編集委員、ニール・ワインベルグ(Neil Weinberg)氏は書いています。

ワインベルグ氏は、"ウォール街の諮問委員会クラブは、丁度、どんな下手でも、試合でミスをしても、勝っても負けても、全員が賞品が貰える小学生のサッカー選手のようなものだ"とコメントしています。

大学の場合でも、同じシステムで学長を選びます。日本のように教授会で選ぶということはありません。諮問委員会が選んだ何人かの候補が大学に来て、自分の抱負を述べ、質疑応答がありますが、決定権は委員会にあります。私の勤めている大学は州立ですから、州政府と良いコネクッションを持っている人が政治がらみで選ばれ、大学内部からとか教育界から出てくる学長候補はまずいません。

お給料ですが、25年働いた定年間際の教授の4倍以上、年3千万円相当の給料を新任の学長はもらいます。今回は、加えて立派な家も付けてあげたようです。

こうして、お金持ちクラブの人はますますお金持ちになり、貧乏な人はいつまでたっても赤貧を洗う、第三世界の特徴が強くなって行くのです。

 

 

第61回:アメリカの母の日