のらり 大好評連載中   
 
■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第610回:チーフ・エグゼクティブ・オフィサーとは何か?

更新日2019/05/23



英語で書くとChief Executive Officer となり、逐語訳的に訳せば、執行行政長官となり、なんだか軍隊のエライサン、良くてお役人のトップ、大臣の次位の役職に聞こえます。これを頭文字だけ取って、本来ならC.E.O.とピリオドを打ってスペースを空けて書くところ、今ではCEOと書くのが当たり前になってきました。早く言えば、会社の社長さんのことです。逆に、今では本来の President of the Company=会社の社長さん、という呼び方は耳にしなくなりました。

アメリカのCEOが莫大な給料、ボーナス、ストック オプションをもらっていることは有名です。トップ350企業のCEOは、その会社で働いている労働者、工員、事務員などの平均300倍もの給料を貰っています。大雑把に均すと、年に18.9ミリオンドル(20億8,000万円相当)の給料を貰っています。まさに天文学的な給料です。

ビル・ゲイツやアマゾンのジェフ・ベゾスのように、自分で会社を創設した、社主兼CEO(ビル・ゲイツはCEOを引退しましたが…)の場合は、さらに想像を絶するような年収になります。

歴史上最高、空前の離婚慰謝料と言われているアマゾンのジェフが、25年間連れ添った奥さんのマッケンジーに支払う株式を含めた総額は35ビリオンドル(3兆8,500億円相当)だとThe Week誌にありました。そんな大金を払って離婚し、次の奥さんローレン・サンチェスさんと結婚したいと思うものでしょうかね~~。ウチのダンナさん、「俺なら、その金で世界中の美女を集めてハーレムをつくるけどな~」と、仙人らしからぬ、俗気の抜け切らないことを言っています。

アメリカの大会社のCEO、社長さんは、その会社の叩き上げという例はほとんどなく、ウォールストリートなどの財界、銀行、投資会社からやってきます。ですから、CEOが目標にするのは、いかにその会社の株価を上げるか、それによって自分をその会社に送ってくれた投資家、証券会社、銀行、株主に奉仕できるかだけです。

日本で優れた経営者というのは、いかに自分の会社の社員の生活を守り、首切りを少なくし、かつ毎年新入社員を迎え入れ、かつ僅かでも株価が上がってくれれば言うことなし…のように見受けられます。

ジェネラル・モーターズがやったように、1万4,000人の首をスパッと切り、工場を閉鎖し、会社の利益を守るような社長は、アメリカでは株主や投資家に優れた手腕、判断だったと評価されます。

これは、一つにアメリカでは、その会社の叩き上げがCEOになる可能性がなく、まるで宇宙からのエイリアンのように、CEOは経済界から降りてくるからでしょう。CEOにとっては、労働者の首を何人切ろうが、賃金を最低に抑えようが、環境を破壊しようが、言ってみれば知ったことでなく、利益のみを優先させることが至上命令なのです。

日本航空で叩き上げのエンジニアが社長になったようなことは、アメリカではまずあり得ません。工場労働者として雇われたなら、生涯、工場労働者で終わるのが普通です。社長になった赤坂祐二さんは15年間整備、その後、安全、メンテナンスで8年、その部門のボスとして働いてきています。たとえ彼が東大の航空工学を出てているにしても、国際的な経済の専門家ではありません。

彼の年収は公にされていませんが、そのスジによれば5、6千万円ほどですから、日本航空の社員平均の年収500万のたった?10倍です。パイロットの4、5倍ではないかしら。アメリカの300倍の格差は、日本ではあり得ないことのようです。

元日産のカルロス・ゴーンさんが背任やらたくさんの罪で起訴、逮捕、再逮捕されました。私的に使った、回したと言われている不正なお金、税金の申告漏れの金額だけから言えば、カワイイもんです。5年間でホンのオツマミの50億円ですから、アメリカの企業人の年収に比べ、何ほどのこともありません。ジェネラル・モーターズは、ゴーンさんにCEOの席をオファーしています。多少後ろ暗いことをやったにしろ、企業人、国際人としての能力は高いと見たのでしょうね…。

世界企業のトヨタの社員、工員の平均年収は400万円内外です。社長さん、豊田章男さんの年収は基本給が9,900万円、賞与等が2億8,000万円(有価証券報告書による)で合計3億7,900万円ですから、社員、工員のおよそ100倍近くになります。日本株式会社的な社会構造から言えば、大変な格差と言えそうですが、それでも、日本航空やトヨタの正規の社員はエリートで恵まれた環境にあり、悲惨な下請け会社の工員、社員がゴッソリいるんだぞと、ダンナさん、解説しています。

そう言えば、最近JALのスチュワーデスの半分くらいはタドタドしい日本語を使う(英語は日本人スチュワーデスよりズーッと上手ですが…)東南アジア系の外国人が多く目に付くようになりました。彼女たちも“現地採用職員”とか呼んでいる、正規社員の下部に属しているのでしょうね…。

奇妙なことは、トヨタの副社長、ルロワさんの年収は6億9,600万円で、社長さんの豊田さんのおよそ倍もあることです。これはアメリカから、財界に顔が効き、法律に明るく、販売のノウハウを持っている人をヘッドハントしてくるには、それなりのお金を払わなければ、来てくれない…と説明されています。その割りに、アメリカの自動車産業、フォード、GMなど大手は何度も破産し、あるいは破産しそうになり、政府に泣きついて助けてもらっていますから、アメリカ自動車業界のトップの人間が日本人の経営者より優れているとは思えません。と、国際経済なんぞ、目に一文字もない私が言っても始まらないのですが…。

でも、はっきり言えることは、高い給料で釣り、ヘッドハントしてきた経営者、エライサンはその会社で叩き上げられ、のしてきた人とは違い、その会社に対する一欠片の忠誠心、愛社精神も持っていないことです。あるのは自分の任期内に良い成績を上げることだけです。自分を高く買ってくれるなら、次の日にでも競争相手の会社に移るでしょう。

日本航空の赤坂さんがANAに移ったり、豊田さんが日産やマツダに行くのは想像もできませんが、アメリカでなら、アメリカ的感覚なら、極、当たり前のことです。首のスゲカエは茶飯事ですから…。

ドライに数字だけ追うことに良い面もあることは認めた上で、自分の職場に対して持つ誇りと忠誠心という数字に表れない側面も、企業を支えている大切なことだと思うのです。そして、工場で働いている職人さんでも、工場長とか製作部門の部長、強いては会社の経営に携わる可能性があるというのは、働く人にとっても、会社自体にとっても、非常に有益なことだと思うのです。

と言っておきながら、私が今勤めている大学に忠誠心があるかと問われたら、ムムッ、それは、相当怪しいものだと告白しなければなりません。どこか東部のエリート大学が4、5倍の給料で誘いをかけてきたら…、ググッと日和見的に傾くかもしれません…。

「オメ~、そんな可能性ゼロ以下だから、心配するこた~ないぞ。大きく全体のことを語る時は、自分のこた~抜きにするもんだ。8ミリ映画も作ったことのない人が、立派に映画評論家としてメシを食っているんだから…」とダンナさん、このコラムを読んで慰めてくれました。

-…つづく

 

 

第611回:ホワイトハウス・ボーイズの悲劇

このコラムの感想を書く

 


Grace Joy
(グレース・ジョイ)
著者にメールを送る

中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

■連載完了コラム■
■グレートプレーンズのそよ風■
~アメリカ中西部今昔物語
[全28回]


バックナンバー

第1回~第50回まで
第51回~第100回まで
第100回~第150回まで
第151回~第200回まで
第201回~第250回まで
第251回~第300回まで
第301回~第350回まで
第351回~第400回まで
第401回~第450回まで
第451回~第500回まで

第501回~第550回まで

第551回~第600回まで

第601回:車がなければ生きられない!
第602回:メキシコからの越境通学
第603回:難民の黒人が市長になったお話
第604回:警察に車を止められる確率の件
第605回:日本と世界の浮気事情を比べてみる
第606回:寄付金と裏口入学の現実
第607回:狩猟シーズンと全米高校射撃大会
第608回:アルビーノの引退生活
第609回:人間が作った地震の怪


■更新予定日:毎週木曜日