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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第374回:空き家だらけの町

更新日2014/08/07



6月の終わりから北海道の北広島市という札幌郊外の町に住んでいます。この町は札幌まで電車で18分の距離ですから、住人のほとんどが札幌で働いているような、いわば通勤、通学に便利なベッドタウンです。緑が多く、環境も良く、森に囲まれたような団地です。

そうなると、歩くことが生活の基本になっている私たちは、毎日のように町の中、周辺、少し足を延ばして畑や農場のある地域まで歩き回っています。そして気が付いたのですが、だれも住んでいない家、しかも立派な家が結構あることです。庭が手入れされていないので、一冬越し、一気に草花が生い茂る春になり、夏ともなると、無人の家の庭は鬱蒼たる森か藪になってしまいますから、すぐにそれと分かります。なにか、とてももったいないように思えます。

北広島市では体験移住と称して、若い人たちをこの町に呼び寄せようとあの手この手を打っています。でも、少子化の影響でしょうか、ここの住人の老齢化は避けられないようです。

参考までに、下記のサイトをご覧ください。
「おためし移住」してみませんか?
http://www.city.kitahiroshima.hokkaido.jp/hotnews/detail/00010454.html

日本全国で13.5%の家が、誰も住む人がいないまま放置されています。それも年々上昇し、軒数にすると819万6,400軒もの空き家があるといいますから、狭い日本で住宅難の中で、もったいない話です。

新築のアパート、マンションも供給過剰で平成25年に建てられたアパート、マンションは5年前に比べ15.3%も増え、37万戸ですが、実際の需要は30万軒程度しかなく、7万軒は建てたはいいけど、誰も入らない、住まない新築マンションになっている(みずほ総研調べ)といいます。

これは不動産、建設会社が土地を持っている人に、アパート、マンション経営は楽で儲かるなどと持ちかけ、ドンドン建てさせた結果でしょう。それに不動産として遺産を相続する場合、その土地、建物が住宅としてより賃借アパートにしておく方が有利なせいだとも言われています。

アメリカでは、不動産の価格、新築の家の軒数はリーマンショック以前の水準に戻り、失業率も毎月下がり、車の売り上げも前代未聞になり、まずまず経済は安定した上昇を示している…と言われています。統計や経済学者さんの見方ではそうなるのでしょうけど、どうも実情はチョット違うようです。

町の中心部がゲットー化しているのです。大きな町の中心部に限って言えば、空き家だらけ、今住んでいる人も一日も早くそこから脱出し、郊外のコジャレタ家に移りたいのが本音のようです。一度、空き家現象が始まると、坂を転げ落ちるように、ゴーストタウン化します。 

最悪ナンバーワンは、カンサス州のウイチタで、市の中心部の住宅が、なんと50%空き家です(2014年1月)。空き家率2番目は、オレゴン州のポートランドのメトロ(中心地)で37%が空き屋、それと並びアラバマ州のバーミンガムも37%、次の二つは私の両親が住むミズーリー州のカンサスシティーとセントルイスで、それぞれ36%、34%の空き家率です。町の3分の1が空き家の地区に、誰が住みたいでしょうか?

空き家が増えているのに、ホームレスも大変な勢いで増えています。 

郊外に瀟洒な家を建てるお金は、町の中心部にある古くて小さな家の何倍にもなりますから、数字から金額だけ見れば、アメリカ人が家に使うお金が増えていることになるのでしょう。でも、そんな家を建てることのできる人は中の上クラスです。いつも言われるように、お金持ちと貧乏な人の格差が広がり、お金持ちはますますお金持ちになり、貧乏な人はますます貧乏になる現象の一端が、アメリカの空き家事情にも現れているだけなのかもしれませんが…。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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