第476回:マリファナの政治と経済
今年の5月に私たちが住んでいるコロラド州を南に下り、アリゾナ州、ニューメキシコ州にあるインディアンの遺跡を回ってきました。何度か州境をジグザグに越えましたが、その時コロラド州側にあるとても小さな村、人口がおそらく2、3百人もいないような寒村の道路筋に必ずと言ってよいほど、鮮やかな緑の十字、または若草が萌えるような葉をデザインしたマリファナショップがあるのがイヤでも目に付きました。
その名も"自然のトレイディング・ポスト" "大自然の息吹" "エデンの庭"
"大地の医療"とか意匠を凝らしたものですが、旅行者はたいした嗅覚を働かせなくてもすぐに、「アッ、マリファナショップだ!」と分かります。
そんな小さな田舎町の住人を相手にしていてはショーバイになりませんから、マリファナ公認のコロラド州を去る前に旅行者に沢山買ってもらい、お持ち帰り頂こう…という商魂です(他の州では持っているだけで犯罪です)。州と州の境界には税関はありませんから、実際には野放し状態なのでわざわざコロラド州まで出向かなくても、コロラド州の電話帳の職業欄には"マリファナ小売店"の項がありますし、インターネットで簡単に店を見つけることができますから、そこへ連絡すればメールオーダー(インターネット・ショッピング)で簡単にどこの州へでも郵送してくれます。アメリカ全土にマリファナがばら撒かれる震源地がコロラド州だと、周囲の州から散々叩かれる原因になっています。
現在、アメリカでマリファナ公認の州はシアトルのあるワシントン州、アラスカ州、ホワイトハウスのある首都コロンビア特別領域、それにコロラド州の四つです。その中でコロラド州がダントツで売り上げが多いのは、他の州への通信販売の規制がないからです。
ワシントン州、シアトルで税理士をしている友人があきれ果てて言っていましたが、間口6間…とは言いませんでしたが、両手を広げて2枚ドアの入口の小さなマリファナ店の売上が3ミリヨンドル(3億円以上)あるそうです。ですから、マリファナ商売はたとえ非常に高い税金を払ってもオイシイ商売のようなのです。
このように、アメリカの州によって各々法律が異なる実情は日本人だけでなく外国人には呑み込み難いでしょう。早く言ってしまえば、外交と軍事以外の、住民の生活に密着した民法は州によってとても違います。
例えば、オレゴン州では消費税が全くありません。普通どの州でも買い物をすると、およそ6%から10%の消費税がかかりますが、オレゴン州の隣の州、ワシントン州、カルフォルニア州、アイダホ州、ネヴァダ州の人が高価な電子機器や電化製品をオレゴン州で買い、自宅に持ち帰ることは可能です。そのような高価な商品は、オレゴン州サイドで一応、商品を買い上げたお客さんの住所を記録することになっているので、オレゴン州バーゲンセールに周りの州の人たちが押しかける事態にはならないようです。
ですが、中古品、新品同様のキズものなどはエンドユーザー(買った人)の記録なしで現金で購入できます。コロラド州のマリファナ公認大反対の合唱を唱えているのはユタ州、ワイオミング州、アリゾナ州、オクラホマ州、カンサス州、ニューメキシコ州、ネブラスカ州、テキサス州で、いずれの州からも膨大なバケーション客をコロラドに送り込んでいます。
コロラド州政府自体がマリファナ休暇を促進しているわけではありませんが、大きなリゾートがとても紛らわしい宣伝を大々的にしているのは事実です。『ロッキー山脈の大自然に抱かれたマリファナ・ヴァカンス』というような広告を多く目にします。
大反対している州の根拠は、科学的、医療の見地から、マリファナ=麻薬中毒だから反対というのではありません。青少年への影響がある…ならコロラド州の青少年は全員ラリッていることになります。言ってみれば、コロラド州が他の州への影響を考えず、オイシイ汁を吸っている、しかも膨大な儲けを独占している…という、言ってみればヤッカミ根性が見えるのです。コロラド州では、そんな他の州からの反対運動を州への政治干渉だと、まるで聞く耳を持っていません。悔しかったらやってみな、というところでしょうか。
もうそろそろ新学期が始まります。恒例の職員一同が集まる集会、学長さんや地元の政治屋さんが挨拶し、その後で大きな立食パーティーがあります。先生たち、夏をどのように過ごしたかを盛んに話題にし、それから学部ごとにどこかの先生の私邸に流れ、さてと、もう一学期頑張るかと、ビール、ワイン、ウイスキーを飲みまくり、これもいつものことですが、マリファナの香ばしい煙が漂ってきます。
キャンパス内は全面的に禁煙なので、個人宅、先生たちの家で一服やろうというわけです。マリファナ解禁になってから、もう2年以上経ちますので、先生たち(生徒さんもどこかで吸っているでしょうけど)のマリファナを吸う姿、格好も板に付き、極々自然に一服味わうようになりました。
マリファナなど、アメリカが抱える数ある大きな問題の前ではチッポケなことのように思えます。好きな人は高い税金(25%の消費税)が含まれていることを承知で吸えばよいし、嫌いな人は吸わなければよい…という程度の問題のように思えるのです。
それに私はマリファナを17歳で卒業しましたから、大きな顔で、「あんなモノ、成人したら止めるのが自然の成長過程だ」とミエを切れるのですが…。
第477回:新時代の旅とスマートフォン
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