第190回:少女版美人コンテスト
コロラド州のボルダーで当時6歳だったジョンベネ・ラムジーちゃんが殺された事件は未だに解決していません。彼女が子供のビューティーコンテンストに出場した時の映像がテレビに流れ、ジョンべネちゃんがフランス人形のような衣装を着て、髪を綺麗にセットし、厚化粧をして、思わせぶり豊かに腰を振り振り歩いている様子を覚えている人も多いことでしょう。
その事件があった頃、丁度事件の起こったボルダー近くに住んでいたので、生々しくスキャンダラスに美少女殺害事件が毎日報道され、いささか食傷気味になったのを覚えています。
そんな少女を餌にしたコンテストをコミカルに皮肉った映画『リトル・ミス・サンシャイン』(監督:ジョナサン・デイトン)は、ミニバジェットで制作されたにもかかわらず大ヒットしました。小太りで、どう転んでもミス何とかには縁のなさそうな女の子が、お爺さんからの特訓を受け、お爺さんが通い詰め、よく知っているストリップ式の踊りを披露するという、痛快に笑える映画でした。
子供ですから、親に気に入られようと、親が望むことを一生懸命なんでもやるのでしょう。それに誰でも、仮装願望があるうえ、特別綺麗な服を着て皆の注目を集めるのがとりわけ好きな子供もいるでしょうけど、親がそれをさせているといっても間違いではないでしょう。
そんな児童虐待と言っても言いすぎでないような、少女、子供を対象にした美人コンテスト、ページェントがアメリカでは衰えるどころかマスマス盛んになっています。大雑把に数えただけで20ほどはあります。少女だけでなく少年のコンテストまで登場しました。
アメリカはもともとミス何とかが大好きな国民です。小さな村でも、収穫祭に合わせお芋の名産地ならミス・ポテトとか、キノコの産地ならミス・マッシュルームなどなど、数え切れないくらいのミスが誕生しています。
私たちの住んでいる小さな町にもミス何とかコンテストがありますし、隣の村の桃の名産地パラセイドにはミス・ピーチ、とうもろこしの名産地オレッサにはミス・コーンなどあり、お祭りを盛り上げています。いくら養豚で有名な村でもミス・ピッグというのはないでしょうけど…。
それに加えて、高校、大学とフットボールの試合のある日に選ばれるホームカミング・クイーン、卒業ダンスパーティーのときのミス・プロムのほか、年に4、5回校内でのミス・コンテストがあり、オープンカーで町や村をパレードします。ミスになった人は、その時の写真を額に入れ、一生の宝のように暖炉の上などに飾ったりします。それが目の前にいる果てしなく崩れきったおばあさんの若き日の写真だとは到底信じられないことがあります。
アメリカ人は派手なお遊びが好きですから、ミス何とかも、お祭りに色を添えるちょっとした座興くらいの軽いものです。しかし、子供の美人コンテストはプロのコーチが付き、プロのメイクアップ、プロの衣装デザイナーが付き、歩き方に始まり、立っている時のポーズのとり方、カメラや審査員にいかに魅力的な笑顔を向けるかなどなど、長いトレーニングを受けて出場するのだそうです。
もちろん、プロの子供専門美人コンテスト・トレーナーたちに大変なお金を払わなければなりません。そんな総合学校まであるくらいです。我が子を美人コンテストに出場させる親は、大変な出費を覚悟しなければなりません。日本の教育ママ、ステージママのように、アメリカでは美少女コンテストママがいるのです。
美人コンテストママは、自分の虚栄心のために自分の子供に犠牲を強いていることに気が付かないのかしら。美少女コンテストは、そんな見栄っ張りな親心を上手に突いたお金儲けなのです。そんな親たちは、精神病院で診療を受ける必要があると思うのですが…。
美少女コンテストの時の審査員の質問に対する子供たちの答えは、紋切り型、恐らくトレーナーが教えてくれた通りの棒読みで、頭は空っぽ、自分で考えることもできず、自分の言葉も持っていないのは明らかです。マー、それは大人のミス・ユニバースやミス ワールドの出場者も同じですが…。
PBS(アメリカのNHK的存在、ただし受信料など取りません)でスペリング・ビー(SPELLING BEE;英単語のつづりの知識を競う全米大会)が放映され、子供たちが、私でも迷うような英語のスペルをすらすらと答えるのを半ばあきれ、感心して見ました。 ほかに地理のビーもあります。12歳以下の子供たちの知識の多さ、記憶力の確かさは大変なものです。それ以上に、少年少女らの目の輝き、司会者とのウイットに富んだ受け答え、賢い子供はこんなにも違うものかと、美少女コンテストの出場者との差に唖然とさせられました。
美しさは衣装や厚化粧の上にあるのではなく、自分の中から自然に出てくる活き活きとした表情にあるのだと改めて感心させられました。
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