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先日たまたま立ち寄った本屋で古地図を売っていた。古地図といっても、当時の復刻版(オリジナルは日本や世界で作成されたもので、数十年~数百年前までいろいろあった)なので手頃な値段だったし、なにより、とてもきれいだった。いま買わないともう出会えないような気がして、これも何かの縁だと理由をつけて手に入れた。自分には珍しく衝動買いだった。 けれど、とりたてて地図が好きという訳ではない。一般的に女性がいわれているように、私も地図がうまく読めないひとりだ。しかし古地図となると読む必要もないので、とたんにアートっぽい感じになるのである。それは英字新聞がなんとなくかっこいいのに似ているかもしれない。 ペンで描いた柔らかな線画に、少しくすんだパステル調の色づかいは、そのまま部屋に飾っても絵になるほど美しい。いってしまえば、インテリアとして古地図に惹かれたのである。 買ってから気がついたのは、測量技術が発達していない頃の地図を見るのは、なかなかおもしろいということだ。外国人が作った世界地図のなかの日本は、遥か彼方の見知らぬ国だったらしいことがありありとしている。たぶん想像で描いたのだろう。なんとも不思議な形をしていたり、とんでもない場所にあったりする。こんなおとぎ話のような地図が実在していたというのが、新鮮で驚きだった。昔の人はこれを見て、どんな想いを巡らせたのかと思うと興味が尽きない。 今でこそ地図は北が上と決まっているが、それは方位磁石を使って測量するようになってから、という説もある。私はまだお目にかかったことはないが、昔の地図や南半球の地図は必ずしも北が上ではないらしい。 世界地図帳のことを「ATLAS(アトラス)」と呼ぶ。ATLASとは、ギリシャ神話にでてくる巨人で、天空をささえる怪力の持ち主といわれている。オランダの地理学者、メルカトルによって完成した世界地図帳の表紙に、このATLASが描かれていたことからそう呼ばれることになったという。そしてこの地図帳が多くの国で翻訳されて使われていたことから、一般的な名称となったそうである。 地図は苦手な私も旅先で買う地図があった。イラストで描かれた絵地図や鳥瞰図だ。お店やビル、公園などのランドマークが描かれていて、眺めているだけでも楽しい。そして、いつのまにか地図の中を歩いていたりする。こんな風に、実用的なのに持っていて楽しいものには魅力がある。いや、これは実用という枠から抜けて立派なアートなのだと思う。古地図も絵地図も私の中では同じなのだ。そして古いものが持つ魅力は、結局アナログというところだろうか。手描きだし、正確ではないが、足りない部分は想像力が埋めてくれる。そう、古いものは語ってくれるのだ。 なぜか惹かれて買ったものには新しい発見がある。興味が湧いたものを調べていく作業というのは、自分の心の引き出しが増えていくようでとても楽しい。こんな心の贅沢のためのささやかな買い物は、大人だけに許された無駄遣いなのかもしれない。 さて、この古地図に似合う額縁を探しに行こう。こんなひと手間もまた楽しい。
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