坂本由起子
(さかもと・ゆきこ)

マーケティングの仕事に携わったあと結婚退社。その後数年間の海外生活を経験。地球をゴミだらけにしないためにも、自分にとって価値のあるものを探し出したいと日々願う主婦。東京在住。

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第8回:一番うまくて、まずいもの

トマトをたくさんもらった。マヨネーズやドレッシングをかけてサラダもいいが、真っ赤に熟れた新鮮なトマトは塩でいただくのが一番おいしい。それも自然塩に限る。去年の夏、お土産でもらった「沖縄の珊瑚の塩」というのがおいしくて、それ以来「トマトにはお塩」がお約束になっている。

ところで、私たちが子どものころに知っていた塩といえば「食塩」だったと思う。専売公社(今のJT)が造った純度99%以上の精製された塩を私たちはずっと食べていた。理科の実験には最適な塩(たしかに教科書には「食塩」と書いてある)だったが、それは現在ミネラルと呼ばれている海からの恵みを受けているものとは異なる、いわゆる化学工業塩だった。 しかし4年ほど前に、塩の専売制は廃止され、塩事業法が施行されてからは、いろいろな塩が販売されるようになった。日本各地で採れる塩はもちろん、外国産の自然塩や深層海水塩、ハーブ入りなど、本当にたくさんあってどれを使うべきか迷ってしまうくらいだ。

けれど、まだ多くの人が精製塩を使用しているのだという。精製して純度を高めた塩は、一見おいしそうに見えるし、品質もよくなっているような錯覚がする。たとえば、玄米を白米にしたり、黒砂糖を白砂糖にしたりするのと同じような話だ。だが、実際のところは、もとのままのほうが栄養学的に優れていることはいうまでもない。 塩分の過摂取は健康の大敵といわれ、そういう意味では塩はなんとなく悪者にされてきた。けれど、本当に身体に悪いのは化学工業塩なのだ。自然塩ならむしろ健康によいのである。人間の体液や羊水は、海水の成分構成によく似ているのは知られている。

これから汗をかく季節がやってくる。汗とともに体の塩分も失われるが、体内の塩分が欠乏すると脱水症状が現れたり血圧の低下、立ちくらみなどの症状も表われてくる。そして塩分は、体液のpH(ペーハー)を弱アルカリ性に保つ働きをしているため、欠乏すると体液のpHが酸性側になり、倦怠感や精神不安定、眠気などの症状の原因になるといわれる。なるほど、夏の定番フルーツのスイカに塩を振るのも、甘く感じるからだけではなかったのかもしれない。

塩も味噌のように味を比べてから買いたいところだが、どうやら塩の試食をさせてくれるところはないようなので、今のところは自分の感だけで選んでいる。そのなかで、最近買った「クレイジー・ソルト」というハーブ入りの塩がなかなか「当たり」だった。岩塩にコショウやタマネギ、ニンニク、タイム、セロリ、オレガノ、マージョラムといったスパイスとハーブがミックスされているもので、ドレッシングやミートソースに入れるだけで本格的な味に変身する。いろいろな料理にほんの少しだけ、おいしくなるおまじないのように使っている。

「この世で一番うまいものは何か?」 これは、徳川家康が側に仕える阿茶の局にたずねたときの言葉である。局は「それは塩です。山海の珍味も塩の味付け次第。そして、この世で一番まずいものも塩です。どんなにうまいものでも塩味が過ぎると食べられなくなります。」と答えた。塩はさじ加減ひとつで、他のものの味を引き出すことができる。指導者も、家臣の心を巧みにとらえればその能力を引き出すことができる。局の言葉に深く感銘した家康は、これを教訓にしたそうである。 塩はうまいものとして上手につき合っていきたい。

 

→ 第9回:理想の形はユニバーサル


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