坂本由起子
(さかもと・ゆきこ)

マーケティングの仕事に携わったあと結婚退社。その後数年間の海外生活を経験。地球をゴミだらけにしないためにも、自分にとって価値のあるものを探し出したいと日々願う主婦。東京在住。

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第15回:神がいない月のお祭り

秋も深まる10月。10月といえば、お月見や運動会、そろそろ衣替えかなぁ…といったくらいで、大人になるとあんまり特別な感じがしないのだが、アメリカでは街中がオレンジとブラックの2色に染まり始めるころだ。夏が終わり最初の大きなイベント、ハロウィンに向けて、街はお祭りムードで活気づく。

最近は日本でも仮装パーティやパレードがあるが、クリスマスに比べたらその存在はまだまだ薄い。アメリカで暮らすことになったとき、みんなはこの日をどうやって過ごすのだろうかと、じつはとても楽しみにしていたのだった。

10月の声を聞くと、どこのスーパーマーケットでもカボチャが売り出される。店先にドーンと積んであり、自分で好きな大きさのカボチャを選んで買うのはこの季節の楽しみでもある。スーパーだけではなく、道路脇にも小さな公園ほどの大きさの「パンプキン畑」が作られ、週末ともなると子供連れの家族が遊びながらカボチャを買っていく光景があちこちでみられる。そのカボチャはさっそく家の前に飾られ、街中がオレンジ色に染まっていくのである。そしてハロウィンに欠かせないコスチュームの専門店もいつの間にかオープンする。今年の仮装は何にするのかは、子供も大人も大いに迷う。やはり流行に身を包みたいのは誰でも一緒で、仮装はその年のトレンドを見事に反映していた。私が住んでいた頃は、ちょうどポケモンが流行っていた頃で、ピカチュウだらけだった。

子供がいないわが家では、「Trick or Treat!」と言ってお菓子をもらいにいくことはできず残念だったが、代わりに楽しみにしていたことがひとつあった。サンフランシスコから車で40分ほど南下したところに、ハーフムーンベイという海沿いの小さな街がある。普段はひっそりとした小さなたたずまいの街なのだが、ハロウィンが近づくと、その雰囲気は一変する。畑も街もあたり一面がオレンジ一色になるのである。ここは全米でも有名なカボチャの産地であり、毎年行われるパンプキンフェスティバルには何万人という人が訪れる場所に変わるのだ。アートやクラフトの展示、パンプキンパイやホットドッグなどの売店がところせましと並び、久しぶりに人混みを味わうことになるが、それもまた、お祭り気分を盛り上げてくれる。そして、ここで行われるパンプキンコンテストのために全米から集められる巨大カボチャも見逃せない。とにかく、カボチャ、カボチャなのだ。

ところで、なんでカボチャなの? なんで仮装するの? ハロウィンって何だろう? とずっと疑問に思っていた。調べてみたら、もともとはケルト民族のお祭りだということを知った。

ケルト地方(現在のアイルランドやスコットランドなど)には、多くの伝説や神話があるのだが、10月31日は死者の霊が生家に戻る日でもあり、精霊が魔力を使う日と信じられていた。火を灯し、食べ物を供え、日本でいうところのお盆のような行事が行われていたらしい。仮装するのは、その夜にあちこちに徘徊する悪霊に気づかれないためで、ランタン(ちょうちん)に火を灯すのは帰ってくる先祖の霊を導くと同時に悪霊を近づけないためだといわれている。

カボチャを顔の形にくり抜いてつくるランタンを「ジャック・オ・ランタン」と呼ぶのは、その昔アイルランドにいたジャックという名の酔っ払いが、生前の行いが 悪かったために天国にも地獄にも行けず、悪魔が投げた燃える石炭を「かぶ」のなかに入れて、さまよったと伝えられていることからきている。かぶや大根がアメリカに渡ってカボチャに変わったらしい。

ケルト暦では11月1日が新年にあたる日で、前夜である10月31日には悪い霊や魔女を追い払うお祭が行われていた。それがキリスト教が入ってきてから11月1日がAll Hallows day (万聖節)として諸聖人を祭る日へと変わり、前夜祭もアメリカに移住したケルト地方の人々によって、現在のようなハロウィンのお祭りへと変わっていったそうだ。

そういえば、日本の旧暦では10月は全国の神が出雲に集まるため日本中から神様がいなくなるといわれ、「神のいない月」ということから神無月と名づけられているではないか。何となく神秘的な共通点を感じてしまうが、アメリカがそうだったように、日本でもやがて10月のお祭りとしてハロウィンが定着するのかもしれない。

 

→ 第16回:肌寒い部屋を春の日だまりに変える方法


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