■TukTuk Race~東南アジア気まま旅


藤河 信喜
(ふじかわ・のぶよし)



現住所:シカゴ(USA)
職業:分子生物学者/Ph.D、映像作家、旅人。
で、誰あんた?:医学部で働いたり、山岳民族と暮らしたりと、大志なく、ただ赴くままに生きている人。
Blog→「ユキノヒノシマウマ」





第1回:Chungking express (前編)
第2回:Chungking express (後編)
第3回:California Dreaming(前編)
第4回:California Dreaming(後編)
第5回:Cycling(1)
第6回:Cycling(2)
第7回:Cycling(3)
第8回:Cycling(4)
第9回:Greyhound (1)
第10回:Greyhound (2)
第11回:Greyhound (3)
第12回:Hong Kong (1)
第13回:Hong Kong (2)

 



■更新予定日:毎週木曜日

第14回:Hong Kong (3)

更新日2006/03/23


そんなカオルーンの街も、正午に近づいてくるころからゆっくりと活気付いてくる。それまでは何処に隠れていたのかも知れぬ、わけのわからぬ国籍の色とりどりの顔が、夜に向かって徐々にこの街をカオルーンらしいものにしていく。特にやることのない身としては、食べることが生活の中心になってくるのだが、その食べることに関しては、とりあえずこの街には高いもの安いもの含めて、他のどこにも引けをとらないほどの品が揃っている。

この街で特にお気に入りだったのは、ワンタンメンに青菜を茹でたものを添えて食べる昼食だったのだが、これがまた何処の店で食べても旨かった。一杯が街中で11香港ドル、郊外で8香港ドルといったところだろうか。またチャーハンだってそのワンタンメンに負けず劣らず、味もボリュームもたいした物だ。その辺りはさすがに食の都と呼ばれるだけのことはある。時には奮発して少し気取った飲茶の店にも入り、おいしいエビシューマイと値の張るお茶を飲んだりもしたのだが、旨いものには値段の差はあれど、味に優劣は付け難いほどそれぞれにどちらも旨かった。

こうやって街中の安食堂へ入って旨い飯を食ったり、ここ最近急激に増えている冷房の利いた西洋風のカフェで、香港の纏わり付くような熱気をさけながら午後を過ごしているうちに、あのど派手なネオンに明かりが灯りはじめ、街がいよいよ掻き入れ時を迎えようとする午後7時頃からは、通称男人街とよばれるテンプル・ストリートが、まさにチャイニーズパワー炸裂といった感じの露天と人ごみの喧騒へと姿を変える。


ここに並べられていないものはないんじゃないのかと思えるほどにありとあらゆる商品が並ぶ露天には、1ヶ月も着ていれば穴が開いたり伸び切ってしまったりするような安物の衣服をはじめ、堂々と偽者だけど安いよと叫びながら叩き売られる使い方さえよければ3ヶ月間動作保障並程度の偽高級ブランド時計。さらには小物類や雑貨、骨董品、偽造CD、どう見てもガラクタにしか見えないゴミ捨て場から拾ってきたような中古の工具、旅行カバンやバックパック、効き目も定かではない漢方薬などなど、どれもこれもがガラクタ好きの自分にはたまらない品々ばかり。

この地から本格的な東南アジアへの旅が始まる我々にとっては、ここで必要な品々を安く手に入れることは当初から計画していたことでもあった。そういうわけで滞在中にはいろいろと購入したのだが、そんな品の中のひとつに単3電池で動くオモチャみたいな小さなプラスチック製のテープレコーダーがあった。

これは電池付でわずか20香港ドル余りの安物だったが、困ったことに買って3日目にはテープの回転速度が狂ってきて、なんだか回転スピードの合っていないレコードのように、ひょろりひょろりとわずかばかりだがオリジナルの曲よりも緩いスピードで音楽を奏でるようになってしまった。忙しい香港にいる時にはどうも納得のいかない音であったが、時が経つにつれ馴れと愛着が沸き、時間の流れが遥かにゆるい国々に足を踏み入れだした頃には、これはこれでこの地にぴったりな再生機のような気になったものだ。

そして他にもここで手に入れてこの旅で大活躍した物に、小さな御香があった。これは安宿に泊まったことのある人ならわかると思うのだが、何日間もシャワーを浴びていないような無国籍の旅人達の、これまた何千人という人たちの汗とヨダレをたっぷりと吸い込んだ、いったいいつから洗っていないのかわからないようなシーツが敷いてある、窓すらなくて湿気が充満した小汚い小部屋に漂うあの独特のかび臭さを軽減してくれるのに大いに役立つことになったからだ。

…つづく

 

第15回:Hong Kong (4)