■TukTuk Race~東南アジア気まま旅


藤河 信喜
(ふじかわ・のぶよし)



現住所:シカゴ(USA)
職業:分子生物学者/Ph.D、映像作家、旅人。
で、誰あんた?:医学部で働いたり、山岳民族と暮らしたりと、大志なく、ただ赴くままに生きている人。
Blog→「ユキノヒノシマウマ」





第1回:Chungking express (前編)
第2回:Chungking express (後編)
第3回:California Dreaming(前編)
第4回:California Dreaming(後編)
第5回:Cycling(1)
第6回:Cycling(2)
第7回:Cycling(3)
第8回:Cycling(4)
第9回:Greyhound (1)
第10回:Greyhound (2)
第11回:Greyhound (3)
第12回:Hong Kong (1)
第13回:Hong Kong (2)
第14回:Hong Kong (3)

 



■更新予定日:毎週木曜日

第15回:Hong Kong (4)

更新日2006/03/30


香港の露天店主と売買のやり取りをして肩馴らしをしておけば、ここから中華圏へと入るバックパッカーにとっては格好の交渉術訓練にもなる。なにしろ世界に名だたる華僑たちの商魂たるや、日本人同士の感覚で取引をするととんでもない目に会うこと請け合い。

日本人は商売をする上において信用というものを非常に大事にするが、彼ら中華系の人々にとっての信用とは、すなわち金なのである。その場で現金を手にしてしまいさえすれば、よそ者に対して綺麗事の言葉だけの信用などという概念などにはこれっぽっちもとらわれることはないのだから。

もし余りに悪評が立つようであれば、あっさりと店をたたんで、次の日にはトラベルガイドにブラックリスト化されていない新しい店の名前でどこからみても同じ手合いの店を開き直すというだけのことなのだ。

この辺りの中華系の人々の変わり身の速さというものは、彼らと付き合えば付き合うほどに身にしみて理解さされることになる。

 

夜のカオルーンの目玉といえば、何といってもテンプル・ストリートの露天だが、それ以外にもこの街のが持つ個性的な摩天楼ならではのナイトショーも、それはそれで香港らしくて楽しい。

夜の8時から始まるこのショーは、香港島にあるビルに取り付けられたネオンの明かりが、大音響で鳴り響く音楽に合わせて点滅したり、レーザーを夜空に放ったりしながら、色取りを変えていくというもの。なんだかちょっと下品とも、チープなディズニーランド風ともいえるようなショーなのだが、これがこの何でもありで混沌とした香港という街にぴったりとはまり、この街の現実感をさらに遠くさせる。これを見る度にいったいこの街はなんていうところなんだろうと思ったものだ。

自分がやって来たシカゴも高層ビル群では決して香港に負けていないが、この街のケバケバしさというか、怖いもの知らずなエネルギーには完全に及ばないだろう。

香港というところは東京などは比べ物もならないくらいの国際都市なだけに、旅人は嫌でも街中に溢れる個人両替商を度々目にすることになる。この街の生い立ち自体が複雑な国際事情の産物であり、カオルーンなどはこの狭い東京ドーム幾つか分の土地に数十万人がひしめきあい、盛時にはたたみ一畳分ほどの広さに一家族というようなむちゃくちゃな超過密ぶりから、魔都市と呼ばれていたこともある。

そういった街の片隅で両替商をしながら、ほそぼそとわずか1セント2セントをこつこつと貯めるグループは、なぜかインド系の人々なのである。こういう人種的な商売の住み分けは面白いほどにはっきりしており、何も香港に関わらず、東南アジア各地で商店や貴金属を商売にしているグループは華僑、両替商や路上の立ち売りはインド系オーナーであることが多い。

このような個人両替商とこれまたわずか1セント2セントのディスカウント交渉を繰り広げて、手に入れた香港ドルで夜のカオルーンを楽しむことになる。もちろん冷静に考えれば、日本人にとってどうでもよいようなわずかな金額しか違いは生まれないのだが、現地の物価に自分が馴染んでいくにつれ、このわずか1セント2セントが、例えその交渉に10分、20分費やそうとも譲れないものになってくるのだ。

…つづく

 

第16回:Hong Kong (5)