■くらり、スペイン〜イベリア半島ふらりジカタビ、の巻

湯川 カナ
(ゆかわ・かな)


1973年、長崎生まれ。受験戦争→学生起業→Yahoo! JAPAN第一号サーファーと、お調子者系ベビーブーマー人生まっしぐら。のはずが、ITバブル長者のチャンスもフイにして、「太陽が呼んでいた」とウソぶきながらスペインへ移住。昼からワイン飲んでシエスタする、スロウな生活実践中。ほぼ日刊イトイ新聞の連載もよろしく! 著書『カナ式ラテン生活』。


番外編:もろモロッコ!(1)

番外編:もろモロッコ!(2)
番外編:もろモコッロ!(3)

 

■移住を選んだ12人のアミーガたち、の巻(連載完了分)

■イベリア半島ふらりジカタビ、の巻(連載完了分)

■更新予定日:毎週木曜日

番外編:もろモロッコ!(4)

更新日2004/03/11

12月28日

朝早く、近くのイスラム寺院から流れる大音量のお祈りで目が覚める。あぁ、アイム・イン・モロッコ。雨音を聞きながら、ホテルの中庭で3人揃って朝食。寒いので、ガスストーブを部屋から持ち出す。

あのね、モロッコの朝食は、かなりうまい!です。その日のメニューは、全粒パンみたいなざっくりして味わいのあるパンの香ばしいトースト、ふわふわパリパリチョコデニッシュ、イチゴとアプリコットとアップルのジャム、ハチミツ、バター、おそらく羊のヨーグルト、陶器のつぼにいっぱいのフレッシュオレンジジュース、それに薫り高いカフェ・オレをたっぷり。

あぁうまいと感激していると、隣でキャリーが「あぁ美味しい、ぜんぶ本物!」と、謎の感動をしている。聞くとアメリカでは、ファット・フリーの牛乳や、サッカリンなど人工甘味料ばかりだそうで、スターバックスに毎朝通っているキャリーのパパは「カフェ・モカを。コーヒーはカフェイン抜きで、ミルクはファット・フリーで」と頼んだところ、店員に「じゃああなたはどうしてこれを頼むのさ?」と手厳しくつっこまれたらしい。なるほどねぇ。


さて、この日のテーマはスーク探検。迷路のような小路の両側に、障子1枚か2枚分くらいの幅のお店がズラリ。3人で歩いていると、コータローがしきりに「ナカタ! ナカタ!」と声を掛けられている。どうやら最近は、日本人の男にはナカタ攻撃らしい。もっともコータローは、人工食品的肉体改造王国アメリカ生活でサッカー選手どころか蝶野正洋ばりのプロレスラー体型になっているのだが。ちなみに私は天然自然を尊ぶスペイン生活で、田舎のオバ的ノーテンキおデブに。これも海外生活の辛さのひとつ、か?

町では「タカクナイ、タカクナイ!」の掛け声が最多。「ヤスイ」の方が3文字で覚えやすそうなのだが、連呼されるのはあくまで否定形の「高くない」。そうか、安いとは限らないわけだな。さらには小路を曲がりしな、袖をつかまれてボソッと「オカチマチ・プライス」と囁かれた。上野でもアメ横でもなく、御徒町。「あいたー、そりゃわかりにくかばい!」と笑顔で応えて、スークぶらを続ける。

私の目的は、第2回に写真を載せたモロッコのシューズ「バブーシュ」。すごく可愛いし、ホテルの室内で履くのにぴったり。ハイ、今回の旅行前のおろそかな準備で忘れたものは、電卓にボールペンにメモ帳にスリッパ。電卓はともかく、あとはここマラケシュで揃えるつもりなのだ。


スークでの買い物のコツは、まず相場を知ること。さっそく何ヶ所かで値段を聞いてみると、200DH(1DH=10円と考えた)近辺。思っていたよりもぜんぜん高いので首を振ると、必ず「ハウマッチ・ドゥーユーペイ?」と訊かれる。すなわち価格は交渉で変動するのが、ここでは当然のルール。怪しい英語で、腹の中の探り合いが始まる。

とはいえ本当は私、値引きは大の苦手である。交渉にかかる時間や心労を考えると、数百円ならボラれていいや旅先だし、と、つい思う。しかぁし、人間の汗をぎゅっと濃縮したような混沌猥雑カオス御徒町なスークでは、買い物の「愉しみ」の中に、人間同士が向かい合って丁々発止とやりあう値引き交渉も不可避的に含まれる、らしい。郷に入りては、そりゃもうやるしかないっす。

やがて品揃えのよろしい店を見つけてこのパブーシュなんぼと問うと、なんと80DHという。思わずニヤリとしたのがバレたのか、いきなり「うちは明朗会計だから、ビタ一文負けられねぇよ」と断言される。正直その価格でも良いと思ったのだが、3人で額をつき合わせて「ともかく25%ダウン=60DHまでは交渉してみよう」と相談。こういうとき、現地の人がわからない日本語って、本当に素晴らしい。

まず、勇気を奮って「50DH」と言ってみる。あっさり拒否されるが、そのうち「75DH」と歩み寄ってくれる。「んじゃあ55DH」と調子に乗ると、「70DH、それからビタ一文負けられねぇ」とのこと。ん? ちょっと待てよ、それって最初に言ったセリフじゃあないか。ということは、と粘ったら、65DHまで落ちた。大満足。しかも、支払いの段階で手持ちの小銭が61DHしかないことがわかると、それで良いとのこと。結局、61DHで購入。

ほくほく気分で店を出たところで、キャリーがスーク・ショッピングの奥義を教えてくれる。「一回買ったら、それと同じものの値段を他で見たらダメ」。けだし、正論。その後、パブーシュ屋はすべて素通りした。


それにしても、交渉の際に電卓はともかく、メモもペンもないのは極めて不便。よく考えると、入国カードを書くところからペンは必要なのだ。さらにモノの値段があってないようなモロッコでは、書いたものを双方が確認するというのは推奨というか必須の手続き。たとえばタクシーなんか、あとから法外な値段をふっかけられるのを防ぐために、絶対メモ書きで確認するべきだ。

というわけで、メモとペンを探す。案内されたのは、キヨスクのような雑貨屋。店番は、12〜14歳くらいの男の子だ。「パペル」と私がスペイン語で言う横から、「パピア」とキャリーがフランス語で助け舟。男の子は頷き、奥から真ピンクのトイレットペーパーを持ってきた。ちがーう!(まぁふつう「紙」といえばトレペか) 

モロッコのとある雑貨屋の前、少年の前で必死にジェスチャー・クイズを繰り広げる三十路の私。努力が実り、今度はピンクのノートが出てきた。値段を聞くと、2DH。ボールペンも2DHとのこと。「両方買うから3DHにして」と、パブーシュ屋での成功に気を良くしてネゴってみるが、あっさり「ダメ」と首を振られる。まぁそりゃそうかか、と5DHを出すと、2DHのお釣りをくれた……ダメじゃん!

こうして結局また3割3分の大幅ディスカウントで手に入れることになったノートは、子ども向けらしく、裏表紙には九九に相当する表が書いてあった。12の段(12×12)まである。みんなこれを覚えるのだろうか? しかし、掛け算の前に、5−(2+2)の計算ができるようになった方が……。いや、あれはきっとサービスだったのだろう。メルシィ。


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左:2DHのノートの表紙。ジャガー印?
右:裏表紙。おそらくフランス語である。ちなみに
アラビア語(上)と漢字(左)の書き込みは、
帰りの飛行機で隣り合わせたモハメドと 私によるもの。
アラビア語は左から1、2、3……となるらしい。


この日の夕食は、ちょっと冒険。英語の看板はあるもののメニューすら置いていない地元客ばかりの店に入り、隣のカップルと同じものを身振り手振りで頼んで、トマトとタマネギとコリアンダーのあっさりモロッコサラダ、ソーセージと骨付き牛肉のジューシー炭火焼にありついた。それにパンと、オリーブ盛り合わせと、ソフトドリンク。会計時は、隣の若い客が「セベンティーン」と通訳してくれたのですわ17DHかと浮き足立ったが、70DH。2人前の値段だ。高いのか安いのかわからないが、客も店員もみんな温かく迎えてくれて、ほのぼのとうれしかった。これまたメルシィ。

ホテルへの帰り途に通りすがったフナ広場は、昨夜と変わらぬ喧騒に包まれていた。もうなんだかマラケッシュって、どこもかしこも混沌猥雑カオスで、御徒な町だなぁ! 素敵!!

…つづく


 
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