■くらり、スペイン〜イベリア半島ふらりジカタビ、の巻

湯川 カナ
(ゆかわ・かな)


1973年、長崎生まれ。受験戦争→学生起業→Yahoo! JAPAN第一号サーファーと、お調子者系ベビーブーマー人生まっしぐら。のはずが、ITバブル長者のチャンスもフイにして、「太陽が呼んでいた」とウソぶきながらスペインへ移住。昼からワイン飲んでシエスタする、スロウな生活実践中。ほぼ日刊イトイ新聞の連載もよろしく! 著書『カナ式ラテン生活』。


番外編:もろモロッコ!(1)

番外編:もろモロッコ!(2)
番外編:もろモロッコ!(3)
番外編:もろモロッコ!(4)

 

■移住を選んだ12人のアミーガたち、の巻(連載完了分)

■イベリア半島ふらりジカタビ、の巻(連載完了分)

■更新予定日:毎週木曜日

番外編:もろモロッコ!(5)

更新日2004/03/18

12月29日

昨日と同じ美味しい朝食後、食べ切れなかったチョコデニッシュをティッシュに包んでホテルをチェックアウト。支払いはモロッコの通貨DHかユーロでと言われたが、米ドルでもだいじょうぶだった。ホテルでも銀行と同じレートを用いるというシステムは、旅行者には本当に便利だ。

スークの奥にあるホテルまでは、タクシーは呼べない。私は大型リュックに手提げビニールバッグひとつ、コータローとキャリーは世界一周にも使った、小柄なうちのおかんなら3人ずつは入りそうな大型バックパックを背に、アリの引越しのように1列に並んでスークを抜ける。広場でタクシーを拾い、AVISレンタカーの営業所へ。

AVISは、キャリーがインターネットで予約してくれていた。英語が話せる唯一のスタッフの手が空くのを待って、手続きをする。1時間たって、ようやく案内されたのは路駐してあったプジョー206</A>。5ドア、1.4リッター、マニュアル、エアコンなし、音楽設備なし。トランクと後部座席の半分に荷物を詰め込んで、10時半、いざ出発。目指すはサハラ砂漠への道のスタート地点となる、ワルザザードだ。


緑色の線はアトラス山脈。4000m級の峰が連なる


マラケシュの町中、バイクと自転車とロバと歩行者と車とタクシーが縦横無尽に行き交う冗談のような道路を、国際なんとか級ライセンスを持つキャリーは慎重に運転する。やがて郊外の道路に出ると、微妙に光景が変わってきた。道路脇を、羊の群れと羊飼いが歩む。木陰で、たくさんの男の人が立ったり座ったりしている。子どもはこちらを見ると手を振ってくる。リアクションを返すと喜んでくれるようなので手を振り返すが、皇族か進駐軍にでもなったようで、どうも居心地が悪い。

ちなみに道路は、運転してない私が言うのもなんだが、非常に整備されてて走りやすい。しかも路傍には一里どころか1kmごとに石が置いてあり、主要な行き先ごとに距離が表示されているのだ。あとで砂漠のぺたーんとした変化の少ない道を行くとき、1kmずつ確実に減っていくこの表示にとても心を慰められたものだった。

アルミナム・グレー色したキュートなプジョー206は、ロング・アンド・ワインディング・登り坂を進む。次第に気温が下がり、空気が澄んできて、標高が上がってきていることがわかる。ん? なんか白いものが見えた、ような? 次の瞬間、3人は「うぉー!」と叫び声を上げた。雲が晴れたその向こう側、アトラス山脈の頂に輝く雪が!

わぁ。車を止めて写真を撮ろうとしたら、すぐにワラワラと子どもたちが寄ってきた。手に持った鉱石を「ミネラル、ミネラル」と押しつける子、ボールペンを見せながら「1DH、1DH」と気弱に言う子、手だけを出して「ボンボン、ボンボン」と絶叫する子。どうも落ち着かないから場所を変えようと再出発するものの、景色が良い場所には必ずミネラル売りの小屋があり、カーブでスピードを落とすとミネラルを掲げた子どもが叫びながら走り出てくる。こうなるともう、あっちもこっちも命懸けだ。

それにしても、景色が実にアフリカらしい雄大さで満ち満ちている。大地をびしーっとえぐり取ったような谷は、その谷底にあるかなしかに流れる細い細い川が、数千年だかもっと長い時間だかをかけてゆっくりと侵食していったのだということが、理屈じゃなくて、一望にしてわかる。山、谷、空、すべてがとてつもなく大きくて、山すそに土と同じ色をしてへばりつくように小さく固まる集落が、人間の営みが、やたら愛しく見える。

キャリーは運転しながら、美しい景色を指差して「ルック、ルック! へぇ、綺麗なぁ!」と連呼している。私もついついうつってしまって、「うわぁあの山、キレイなぁ!」と叫んでいた。形容詞と形容動詞の活用の違いなんて、モロッコの雄大な自然の前では、取るに足りないことなのさ。(……といってもこの癖、これを書いている現在でもまだ抜けずに困っているのだが)


昼時、通りすがった大きな町の道路沿いのレストランで、ゆっくり食事休憩をとる。オープン・エアどころか、足元の地面をニワトリや猫が走り回っているという徹底したナチュラル志向、あるいはド田舎。注文したのは、野菜のタジン(40DH)と、チキンソテー(60DH)。チキンは味が濃く、なかなか美味かった。こうやって放し飼いしている鶏の肉だからだろうか。

夕方5時半、ワルザザード到着。砂漠の中に突如現れた映画セットのような町だ。まず、ガイドブックの地図を頼りにワルザザードのクラブ・メッドを探してみる。それぞれ頑張って仕事してきた社会人同士、たまにゃ豪華に気張ってみようと思ったのだが、なんと閉鎖中とのこと。そこで『地球の歩き方』に載っていた3つ星ホテルへ。部屋を見ると、清潔な学生寮のようなかんじで、バスルームも広い。エアコン付き、温水シャワーあり、トリプル・ルームの空きありということで、即決。

夜7時、10年前にコータローの誕生日の夜を祝ったというふたりの思い出のレストランへ。1928年創業の、由緒ある多国籍料理レストランらしい。キャリーが「10年前の旅行のときは、ここではじめてモロッコ料理以外を食べましたから、感動したね!」と言い、コータローも「タジンは美味いが、さすがに1日1タジンで充分やもんなぁ」と頷く。見渡すと、久々の西洋料理を前に心底リラックスした表情でワインのグラスを傾ける外国人旅行者で満席だった。私はギリシャ料理を試したが、なるほどたしかに美味い。3人で前菜、メイン、デザートにコーヒー、ワインと水で523DH。


夕食後、向かいのスーパーマーケットに立ち寄る。先ほど飲んだモロッコ・ワインを3本(1本35DH)と地元のお菓子類、それに私はLUXの石鹸(3DH)。そう、旅先で下着類を洗濯しなければならないが、もっと砂漠まで行くつもりだし、石鹸のないホテルもあるかもしれないのだ。さすが、旅慣れたコータローたちはちゃんと持ってきていた。

支払いをしようとすると、レジのお兄ちゃんが、人差し指と中指を立てて、鼻の下に当てた。は? なんのことやらわからずに見ていると、「ペ!」と言う。は? なおも戸惑っていると、隣のお兄ちゃんが「ジャポネ?」とかなんか訊いてきた。頷くと今度はふたり揃って、2本の指を当てて「ペ!」とやり、壁に飾られた大きな写真を指差した。そこには加藤茶の写真と、「カトちゃんの店」という文字が……。ええーっ!!!

サハラ砂漠の入り口の町で私が出会ったのは、加藤茶だったよ……。


HOTEL DATA
 HOTEL PALMERAIE
 B.P.121 RUE AL MAGHREB AL ARABI, OUARZAZATE
 TRIPLE WITH BREAKFAST : 521DH

RESTAURANT DATA
 CHEZ DIMITRI
 22 AVE. MOHAMMED V, OURZAZATE

SHOP DATA
 SUPER MARCHE D'OUARZAZATE
 71 AVE. MOHAMMED V, OURZAZATE

−…つづく

 

 

番外編:もろモロッコ!(6)


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