第364回:スイッチバックと併走区間 - 富山地方鉄道本線1-
06:00に起床。30分後にチェックアウトして、富山地鉄の駅まで歩く。それにしても「富山駅前」とは名ばかりの新しいホテルだった。きっと北陸新幹線が開通したら富山駅が拡張されて、ここまで駅前になるのだろう。それなら「もうすぐ富山駅前」とでもしてくれたらいいのに……と不機嫌な私であった。しかしホテルの部屋の設備はよかった。テレビが大きな液晶型。色気を起こして有料チャンネルを見始めたら、桃色動画より浜崎あゆみライブのほうに魅入ってしまった。昨夜はレストランで和牛ステーキ食べ放題だったというけれど、団体の予約で満席だった……。ああそうか、この不機嫌は禁欲を重ねたせいだ。
これから乗る列車は宇奈月温泉行きの急行電車である。電鉄富山駅発07時07分。ホームにはまだ入っていなかった。緑と黄色の各駅停車が2本いて、1本は本線の上市どまり。もう1本は上滝線経由の岩峅寺行き。この2本が2分の間を置いて次々に出発した。次は7分後、本線・立山線経由の岩峅寺行きである。地方私鉄とはいえ、なかなかの頻度である。列車の運行頻度に地域の力を感じる。富山港線から富山ライトレールになって、沿線は活気づいただろうと思う。そういえば、富山は地方都市で唯一、民営鉄道の戦時合併が行われた土地だ。
ま、またお前か!
昨日は特急に乗り、元レッドアローに乗れた。今日は急行だ。「富山地鉄の白い電車に乗れる」と期待したけれど、やってきた電車はまた元レッドアローだった。うーむ。これはこれでうれしいけれど、「いろんな電車に乗りたいんだよな」とがっかりしてしまう。そうはいっても、急行に特急車両を使うとは、鉄道会社としては最上のおもてなしだと思う。ゆったりとリクライニングシートに座れば上機嫌である。窓も大きく透き通っていた。そういえば昨日は雨が降った。窓がきれいだということは、誰かが磨いているということだ。少しずつ気分が上向いてくる。
休日の温泉行き。しかし乗客は少なかった。いくらなんでも朝7時発では早過ぎたか。乗客は観光客っぽい親子、カップル二組。その他の僅かな乗客は地味な服だった。宇奈月温泉着は08時29分だから、温泉街の従業員かもしれない。そして男性の一人客が私の他に二人。カメラを持っているから、鉄道ファンだとわかる。若い方は明らかに挙動不審でうろうろしている。年配客は私の後ろにいて、挨拶ついでに少し会話をした。「黒部のイベントは今日ですよね」と言うので、そうだと伝えた。私と同じ目的だ。終着駅でイベントだというのに、この列車の乗客は少ない。だから不安になったようである。
日曜の通学風景?
車窓は薄日の射す富山市街を映している。休日のはずだが、越中荏原駅には上り列車を待つ女学生が数人。クラブ活動だろうか。この駅は今年3月に改築したので、ホームも駅舎も新しい。旧駅舎の姿もファンには人気だったようだけど、この駅は駅員が常駐している。福利厚生のためにも新築がいい……となると、昔ながらの駅舎は無人駅にあり、ということだろうか。しかし無人なら朽ちていくだろう。無人駅を再建するわけはないから…
寺田までは各駅に停まった。昨日も通った道である。寺田から先は初めてたどる道。ここから急行運転となって二つの駅を通過した。私は席を立って運転席を眺めに行きった。相ノ木駅の手前に北陸自動車道の下を通る。その道路脇に「新幹線早期実現」の看板があった。高速道路を使う人たちも新幹線を望んでいるだろうか。もしかしたら、「北陸道早期全通」の看板を再利用しているかもしれない。
広い車窓を楽しむ
次の停車駅の上市はスイッチバック式である。行き止まり式のホームに列車が入るさまを見物する。写真を撮ろうと思ったけれど、雨粒が落ちてきて遠景に焦点が合わない。停車後、ホームで外の空気を吸っていると、運転士が雨の中を歩いてきた。彼が位置につけば発車である。車内に戻って座席を回転させた。カップルのうち一組が、座席の回し方に困っているようだった。手伝ったけれど、余計なことをしたかもしれない。機械モノを何とかする、という場面は、彼氏が彼女の尊敬を得る場面でもある。
上市駅で逆向きに
単線のスイッチバックは複線の終端駅の配線に似ている
運転士も乗客も静かに逆転の儀式を済ませた。電鉄富山行きの電車が到着すると、入れ替わりにこちらが発車する。いちばん左の線路から、もっとも右の線路へとポイントを渡る。鉄道はほんとにうまくできてるなぁ、と思う。線路はぐいっと右折して北へ向かう。真っ直ぐな線路で、電車はものすごいスピードで走った。西武鉄道本線時代を懐かしむかのようである。ひとつめの新宮川駅を通過。次の中加積駅に停まって、西加積駅と西滑川駅を通過した。
直線区間を驀進する
正面に白地に青帯の電車が走っている。北陸本線だ。ここからしばらく、富山地方鉄道と北陸本線が並走する。いままで北陸本線の列車に乗っていて、富山地鉄の線路を眺め、地鉄電車が来ないかなと思っていた。魚津駅あたりで電車を見つければ、いつ乗れるだろうと思っていた。その線路と電車にやっと乗れた。積年の思いを果たした気分である。
北陸本線と並ぶ
旧国鉄本線と並行する私鉄がある場合、旧国鉄本線は長距離輸送を担うため駅間が長く、私鉄側は地域輸送が主なため駅数が多い。それはこの区間でも例外ではなかった。中滑川駅は地鉄だけの駅。次の滑川は北陸本線と乗り換えが可能だったけれど、その次の浜加積は地鉄のみだった。この間、ずっと運転台の後ろで線路を見守っている。北陸本線の列車が来ないかな、と思う。
北陸本線は在来線特急王国である。上越新幹線と接続する『はくたか』や金沢と新潟を結ぶ『加越』がある。いや特急とは贅沢かもしれない。各駅停車でもいいから来て欲しい……と思っていたら、大当たりがやってきた。寝台特急『トワイライトエクスプレス』の大阪行きだった。昨日の昼間、私が富山駅に到着しようとする頃に、この列車は札幌を発車した。この時間の通過は定刻だろうか。
トワイライトエクスプレスと邂逅
今ごろ向こう側では、目覚めた人たちが車窓を見て、元西武鉄道レッドアローとのすれ違いにビックリしているかもしれない。いや、関西在住の人が多いだろうから、普通電車の元京阪電車のほうが懐かしいかもしれない。元京阪とはいえ、色がまったく違うから、気づく人は少ないだろうか。トワイライトエクスプレスは、去年、札幌行きに乗った。今度は上りの大阪行きに乗ってみたい。そして向こうからこの電車を眺めたい。
-…つづく
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