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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第666回:長い寄り道の終わり - 叡山電鉄叡山本線 八瀬比叡山口駅~出町柳 -

更新日2018/07/26


ケーブル八瀬駅を出て駅舎の写真を撮り、辺りを見渡す。右手に橋がある。橋を見つけると渡りたくなる性分だけど、先を急がなくてはいけない。左手に「叡山電車八瀬比叡山口駅」を指し示す矢印の看板があった。緩やかな下り坂。車1台分の幅があり、中央に浅い段をしつらえる。急坂に見られるタイプで、ここは緩い坂だから、すべてスロープで良いと思うけれども、凝った作りだ。さすが京都。さすが観光地。なんでも京都に結びつけて感心してしまう。

01
鴨川の支流、高野川のせせらぎを聞く

人の流れに合わせて坂道を降りていく。せせらぎが聞こえて、林と溜池のそばを通る。良い散歩道だ。小さな木製の橋があり、駅を示す矢印がある。今度は渡る。せせらぎの理由は川底に作られた段差。白い波が立っている。川面はまわりの木々を映した緑色。ちょっと立ち止まり、川面を眺めた。あとから来たグループ客をやり過ごす。静かで、せせらぎの音だけを聞く。

叡山電鉄の八瀬比叡山口駅は木造駅舎で、大正か昭和初期かという印象だ。薄緑色の屋根が美しい。三角屋根の下に丸い電球があり、駅名は「駅瀨八」と右読みになっていた。叡山電鉄本線は1925(大正14)年の開業だ。当時の駅名が八瀨。この駅は開業時以来の建築だから、90年以上の歴史である。2025年で100年。その時にまた来てみようか。

02
大正末期に建てられた駅舎

叡山電鉄は京都の小さな電鉄会社だ。叡山本線の起点は出町柳駅。終点はここ、八瀬比叡山口駅。途中の宝ケ池駅から支線を分岐して鞍馬駅に至る。鞍馬天狗の鞍馬。鞍馬山にはケーブルカーもある。行きたいけれど、立ち寄る時間がない。次回のお楽しみだ。延暦寺で予定のバスに乗れても無理だとわかっていた。

駅舎に入る。きっぷ販売機が2台あり、その隣に乗車証明書発行機がある。無人駅で、朝夕はきっぷ販売機もシャッターを下ろすのだろう。きっぷを買うなんて久しぶりだ。出町柳まで260円。木製のラッチを通り抜ける。プラットホームは大勢の子どもたちがいて賑やかだ。みんなオレンジ色の帽子を被っている。遠足だ。東京の子どもたちが高尾山に行くように、京都の子どもたちは比叡山に行くのだろう。

03
叡山電鉄700系電車。1987年の製造。29歳

プラットホームにかかるドーム型の屋根を見上げる。機能一点張りではなく、ちょっと洒落たデザインにする。天井の高さに往時の豊かさを感じる。電車が来るまで時間があったから、私は携帯電話で同行スタッフに一報を入れる。ホテルは神宮丸太町のそばにある。乗り換え案内アプリを見ると、やはり16時に間に合わない。この寄り道は少々度が過ぎたようだ。

04
反対側から見ると白い顔だった

赤い電車がやってきた。1両。かわいいけれど、たしか叡山電鉄には「きらら」という、窓の大きな電車もあったはず。残念。ハズレか。調べてみたら、きららは鞍馬線を走るそうだ。ならば納得。鞍馬線に乗るときのお楽しみにしよう。

この電車に遠足の子どもたちは乗ってこなかった。よしよし。安心して運転台の後ろに立てる。私は電車に乗ると大きなコドモになってしまうから、ライバルが多すぎてどうしようかと思った。かぶりつき席で前方を眺める。電車は1両。複線電化の線路を走る。石山坂本線も2両編成で複線電化だった。贅沢な設備だと思う。柵のない、線路だけに見える簡素な鉄橋を渡り、森の横を通り過ぎる。

05
ローカル線らしい風景は短かった

ずっと下り坂で、電車の動きも軽やかな気がする。ゆるい右カーブにさしかかり、辺りは住宅街になった。観光電鉄というより生活路線だ。そのあたりは江ノ電に通じる。逆向きに乗れば住宅街を通り抜け、最後の1区間で観光地に乗り入れるという線路だ。

右から複線が寄り添って宝ケ池駅に着いた。あれが鞍馬線だ。きららの姿はない。乗降口の上の路線図を見ると、本線よりも鞍馬線の距離のほうが長い。窓の大きい電車が走るからには、きっと景色も良いのだろう。次は100周年を待たず、紅葉の時期に来よう。

06
修学院駅には車庫がある

13分。わずかな乗車時間で出町柳に着く。八瀬比叡山口駅のようなドーム屋根はないけれど立派である。櫛形のプラットホームに3本の線路があって、私が乗った電車は右側、1番線に入った。真ん中の2番線に二軒茶屋行きが停まっている。二軒茶屋は鞍馬線の駅だ。

07
一乗寺駅。付近は住宅街だ

08
出町柳駅が近づく。両渡り線と行き止まりプラットホーム
いかにも電鉄という雰囲気

プラットホームに和服の女性が数人。なにかイベントがあるのか、これが京都の日常か。芸妓さんだろうか。ここは祇園に近いところではある。観光客向けに着物をレンタルしてくれる店もあると聞くけれど、着物で比叡山へは行かないだろう。表情を伺うと、観光客のように浮かれてはいない。お稽古の帰りかもしれない。

09
和装の女性を見かける。京都らしい風景かもしれない

京阪電鉄の出町柳駅は地下である。いったん道路を渡って駅舎の写真を撮って、引き返して地下へ行く。ひとつ隣の神宮丸太町で下車。ずっと地下だった。乗った気がしない。出町柳から集合場所のホテルまで、タクシーで直行すれば良かったかもしれない。30分の遅刻をお詫び。遊んできたから言い訳できない。そして、これからが仕事である。

10
ひと駅だけ京阪電車に乗った

第666回の行程地図

2016年10月21日の新規乗車線区
JR: 0.0Km
私鉄: 40.5Km

累計乗車線区(達成率)
JR(JNR): 21,193.7Km (93.05%)
私鉄: 6,313.0km (90.97%

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。月刊文藝春秋「乗り鉄うまい旅」連載。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。

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『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法: 時刻表からは読めない多種多彩な運行ドラマ!』


列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法
杉山淳一 著


『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。』 ~日本全国列車旅、達人のとっておき33選~』

ぼくは乗り鉄、おでかけ日和
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