第496回:終着駅も鉄道公園 - 三岐鉄道三岐線 2 -
丹生川は貨物鉄道博物館の最寄り駅。そして三岐鉄道三岐線の中間駅だ。路線完乗のために終着駅の西藤原行きの電車に乗る。日中は1時間に1本か2本しか走らない。これから夕方にかけて、運行回数はやや増える。次の電車は15時43分発。駅舎を眺め、ホームに上がると、側線に2軸のタンク車と無蓋車が停まっている。古い枕木で車止めされている。これも保存車両のようだ。鉄道貨物が大口から小口まで、幅広く活躍した時代があった。2軸の貨車はかわいい。
丹生川駅。ホームは短いが交換設備が長い。ここは貨物路線だ
丹生川駅構内。2軸タンク車を初めて見たような気がする
踏切が鳴り、遠くの方から警笛が聞こえた。線路の向こうがキラリと光って、そこから黄色の電車が顔を出し、だんだん大きくなってきた。湘南電車風の鼻筋の通った面構え。運転台の窓下にオレンジの帯と銀色の飾りがある。801系という電車だ。西武鉄道の701系を譲受した車両である。オレンジ色以外は西武鉄道の雰囲気を残している。ドアの銀色も西武鉄道時代のままだ。私は西武鉄道沿線とは縁遠かったけれど、この電車と色は懐かしい。
元西武鉄道の電車で終点へ
走り始めると、801系電車は大きく、動き方や音に重厚感がある。これでも軽快な電車の部類だと思うけれど、さっき乗った北勢線の車両に少し慣れてしまったようだ。貨物鉄道博物館の横を通る。車窓右側、博物館と手前の踏切に親子連れがいた。お父さんが乳児を抱え、足元の男の子が電車に手を振っている。私はカメラを構えつつ、左手を振った。貨物鉄道博物館も軽便博物館も、地元の人々にとって公園のような存在かもしれない。
電車は鉄橋を渡った。貨物鉄道博物館から見えた鉄橋だ。員弁川の支流、青川である。いなべ市の全域にわたって、員弁川とその支流が血管のように巡っている。鉄橋を渡り終えた先が伊勢治田駅。「いせはった」と読む。広い構内にタンク貨車が並んでいる。貨車の所有者は太平洋セメントとあった。その次の東藤原駅も大規模だ。
東藤原駅に機関車と貨車が集結
さっき貨物鉄道博物館を通り過ぎた電気機関車がここにいた。小型ながらデッキ付きの茶色。レトロな雰囲気である。これらは元東武鉄道だという。葛生から成田空港建設用の砂利を運んだ機関車たちが、今度は三重でセメントを運び出している。現場を渡り歩く仕事師たちだ。かっこいい。貨物列車を牽くところを見たいけれど、今日の仕事は終わってしまったようだ。
電車が東藤原駅を出発した。線路はまだ収束しない。複線のように側線が寄り添う。そして太平洋セメントの工場敷地に進入する。銀色の巨大なタンクが並び、斜めのベルトコンベアがいくつも交差する。この工場から伸びたコンベアは西へ1km以上も延びていて、藤原岳の中腹に通じている。そこには巨大な露天の採掘場が広がっている。ネットの地図と空撮画像ではそれが見える。電車からは見えない。
貨車へセメントを充填する設備?
電車はコンベアの下を通り抜けていく。車窓左手に高架線路があって、黒いタンク貨車が並んでいる。その先の建屋でセメントを積み込んでいるらしい。車窓から工場見学ができた。田園地帯の沿線の中で、ここだけが人工物に囲まれた世界。おもしろい眺めであった。工場を離れると車窓左は山裾、右側は員弁川の方向で、畑が広がった。
コンベアの下を通り抜ける
高度が上がっている。住宅地のそばに西野尻という駅があって、その次が終点の西藤原駅であった。この先は三方を山岳に塞がれ、線路もここで終わり。しかし、本当はこの先に進み、鈴鹿山脈と養老山地の間をすり抜け、関ヶ原方面に延伸する計画だった。三重県と岐阜県を結ぶ路線だから三岐鉄道であり、三岐線である。もう岐阜まで行かないから、三鉄道、三線が正しい。いやそれは素っ気なさすぎる。いなべ線が適当だろうか。
日が落ちかけて、山のそばの西藤原駅周辺は日陰となっていた。鈴鹿山脈から風が降りてくるようで、ちょっと寒い。ホームには蒸気機関車、ディーゼル機関車、電気機関車が1台ずつ置かれている。電気機関車は"いぶき502"とあった。見覚えのある形で、どこかで聞いた名前だと思ったら、私は大井川鐵道で"いぶき501"を見ている。これらはもともと大阪窯業セメントの伊吹工場で稼働した。その後大井川鐵道に譲渡され、さらに三岐鉄道に移動した。中部国際空港に使う土砂を輸送するためだったという。役目が終わって501は大井川鐵道に戻り、502は三岐鉄道でそのまま活躍し退役となった。人に歴史あり。機関車にも歴史あり。
西藤原駅。いぶき502が迎えてくれた
駅前広場に踏切警報機がある。何かと思えば乗用ミニ列車用の線路が敷設されていた。広場を一周する線路である。看板には西藤原鉄道公園とあり、ウィステリア鉄道の運行は毎週日曜日の10:00から15:00まで。なるほど。もっと早く来れば走行場面を見られたようだ。分岐した線路をたどっていくと、いぶき502形の横にターンテーブルがあり、その先に機関庫らしい建物もある。なかなか本格的な施設である。
駅前にミニ鉄道パークがあった
さっきホーム側から見た機関車たちを、今度は反対側から眺めた。こちらからだと車輪など足回りがよく見える。そして、各機関車の説明書きもあった。蒸気機関車は三岐鉄道が特注したE101形で、三岐鉄道での役目を終えた後、いったん大阪窯業セメントへ移籍。現役を引退して工場に留置されていたところ、三岐鉄道70周年記念事業として里帰りした。ディーゼル機関車は三岐通運所属で、名古屋市内でセメント輸送に活躍した。社名からして三岐鉄道の関連会社だろうか。
子供の頃、こんな蒸気機関車のブリキの玩具をもらった気がする
軽便博物館、貨物鉄道博物館、そしてウィステリア鉄道。規模は小さいし、開館日も少ないとはいえ、鉄道に親しむ施設が整備されている。三岐鉄道はただのローカル線ではなかった。路線全体が鉄道テーマパークである。この面白さ、もっと注目されてもいいと思う。そんな感想を抱きつつ、西藤原駅に戻った。
ミニ鉄道は本格的な施設だ
駅舎を撮影しようとファインダーを覗き、今ごろこの駅舎のデザインに気づいた。待合室側が蒸気機関車で、事務室側が客車である。2両編成の連結部分が出入口であった。やっぱりテーマパークなんだ。三岐鉄道やるじゃないか。なんだか嬉しくて、ひとりでにやけてしまった。
西藤原駅。機関車と客車のカタチ
-…つづく
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