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■西部開拓時代の伝承物語~黄金伝説を追いかけて

 

第7回:ヘスス・マルティネスの財宝 その2

更新日2024/06/06

 

メキシコ人のヘスス・マルティネス隊も稀に見る大部隊だったが、インディアンたちも大部隊を繰り出し、執拗だった。これだけ大規模の戦闘が繰り広げられているのに、ほんの数マイル離れたフォート・ダッジは何の行動も起こさなかったのは奇妙な話だ。

インディアンが集結しただけでも神経を尖らせていたフォート・ダッジが6日間も襲撃を繰り返された攻撃を知らなかったはずはない。だが、フォート・ダッジはこの襲撃を無視した。インディアンがメキシコ人を襲ったところで、我々の知ったこちゃないととっていたのだろうか、と私にはいつも北米人に点数が辛い傾向がある。 
 
ところが、ダッジシティー近くにあったフォート・マンが1948年にインディアンの攻撃の前に全滅していたのを知った。そして、US陸軍が1850年にフォート・マンの跡に設けた本格的なフォート・アトキンスも破棄しなければならず、この時期、インディアン戦争はインディアンの方が優勢に駒を進めていたようなのだ。

US陸軍が安定した砦を設け、サンタフェ・トレイルを保護し始めたの1859年になってからのことで、マルティネスがインディアン連合軍の波状攻撃の前に全滅した1853年の夏は、騎兵隊はダッジシティー界隈にいなかったのだ。 
 
と、ここまでは歴史的事実だが、ここから先は確認しようのない伝説の分野に入る。

ヘスス・マルティネス隊は全滅したが、ただ一人生き残った男がいた。それがヘスス・マルティネス自身だったというのだ。

インディアンたちは一般に金銀に拘泥しない。彼らにとって銃火器や馬の方がよほど価値あった。インディアンらが去った後、ヘススは身を隠していた溝から這い出て、大量のメキシコ銀貨を隠してある馬車を探った。

インディアンたちは積み荷を持ち去った後、幌馬車を焼き払っていたが、彼は二重底の荷台の下に銀貨を詰め込んだ袋、21袋をそのまま見つけたのだった。彼はそれを深く掘った穴に隠し、持ち運べるだけの銀貨を持って、メキシコへ帰り着いたのだった。

ヘスス・マルティネスはいつか自分で取り戻す算段だったのだろうか、自分が隠した財宝について語らなかった、公表しなかった。だが病を得て、死の床についてから、ダッジシティー、カンサスに埋め隠した財宝について、息子に打ち明けたのだ。

息子が本格的に親父さんが穴を掘って埋めたという財宝探しに乗り出したのは1870年に入ってからだった。
 
実際に襲撃に遭った場所は現在のダッジシティーの西約4マイルの地点で、その場所ははっきりしている。若きマルティネスの息子は懸命にもダッジシティーで地元の地の利がある男を雇い、その界隈に野営しながら、本格的な財宝探しに打ち込んでいった。
 
だが、21の袋にギッシリ詰まった銀貨をマルティネスの息子は掘り当てることはできなかった。彼は破産し、飲んだくれで救いようのない男としてメキシコに帰った。そして、酒場でことあるごとに埋もれた財宝の話を繰り返し語った。それでなくてもダッジシティーで雇った男が他に吹聴しないという保証はない。それどころか尾鰭を付けて言い触らしたことだろう。こんな秘密は保てるものではない。マルチネスが雇った男の口に鍵はかけられない。マルティネスの銀貨の噂は肥大し広がった。
 
ヘスス・マルティネスの息子と称する男が1870年代にダッジシティーにやってきてメキシコ銀貨を探索したことまでは事実だが、彼が本当の息子だったのかは知るすべはない。あの時代、町から町へ渡り歩くるたびに名前を変え、中には著名人の名を借用し、その人になりすますことが横行していたのだ。

第一、ヘスス・マルティネス一人だけが生き延び、故郷のメキシコに帰り着いたのか、今となっては実証できないし、それが本当なら、なぜもっと早くダッジシティーに自分で戻り、財宝を掘り起こさなかったのだろうかという疑問が残る。  
 
ヘスス・マルティネスの財宝はいまだ地下に埋まっているのか、すでに他の誰かが掘り当てて持ち去ったのかも分からない。未だに時折、ヘスス・マルティネスの財宝はまだ地中に埋まっていると信じる男たちがダッジシティーの郊外をうろついている。彼らだけが掴んだ情報を元に……。

7-02

7-01
ダッジシティーは西部開拓史の前線であり、ワイルドウエスト(荒くれ西部、無法の西部)の
象徴だったが、今は町の中央に勇猛なカウボーイたちがテキサスから追って移動させた
ロングホーンの塑像がシンボルとして建っている。町を築いたのはロングホーン牛だった。
今は大きな規模で屠殺場と肉パッケージの工場が町を支えている。

-…つづく
 


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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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