第458回:アメリカを支える移民たち
私が働いている大学の先生たちも高齢化が進み、古株の先生が続々と引退していっています。私も一日でも早く仕事を辞めたい…心境なのですが、その後の生活ができるほど年金が貰えないので、しょうがなく、あと何年…と、まるでリオ・オリンピックまで、次は東京オリンピックまではのように、ガンバッテいます。
多くのアメリカの職場には定年がないので、ヨシ、年金だけで生活できそうだ…と、どこかで踏ん切りを付けて退職することになります。私の働いている大学の最長不倒年齢は、82歳のペニーさんでした。彼女はエネルギッシュに第一線で教壇に立ち、17歳、18歳の自分の孫より若い学生を教えていました。私はぺニー先生の記録を破るようなことはしたくありません。
アメリカの年金は、プライベートの年金会社が取り仕切っています。ピカピカの大きなビルディングを構えた保険会社の中に年金部門があり、各会社がいかにも美味しそうで優雅な老後が約束されているようなバラエティに富んだ年金コースを用意して、そのプランを売り出しているのです。政府はそんなプランに税制面で控除する程度です。
ですから、アメリカの年金は自分が積み立てた分を少しずつ引き出すだけなのです。国がやっているのは、か細いながら、フランクリン・ルーズベルト大統領が始めた、貧乏な人たちのための社会保障(Social
Security)ですが、これも破産するのは真近と言われています。
日本やヨーロッパの国々のように、健康保険や年金に国が積極的に関与するのが当然だと思うのですが、お金持ちに優しく、貧乏人に厳しいアメリカでは、まだ"チャンスは与えたのだから、後は自分のことは自分でヤレ"という弱肉強食思考が基本的にアメリカ人全般にあるのです。
日本の私のお姑さんは、まもなく100歳になりますが、元の小学校を改造したすばらしいグループホームで、そこの費用とか医療費の心配せずに暮らしています。彼女が仕事を辞めてから受け取った年金、医療費の控除は、彼女が払った分の何倍にもなるでしょう。
ダンナさんに言わせれば、"モトを取ったなんてもんじゃない"くらい恩恵を受けているでしょう。国がお年寄りのメンドウを看ているのです。これがアメリカなら…定年後10年、15年で積み立てた年金がゼロになった時点で、路頭に迷い、貧民救済所、ホームレス・シェルターに直行しているところです。
そんな長生きをしている、許している日本を支えているのは、ダンナさんの甥っ子たちのように壮年の働き盛りの人たちがいるからでしょう。彼らは本当によく働きます。有給休暇もまとめて取ることもせず、まるで働き蜂かアリのように働き詰めの生活を送っているように見受けられます。日本の年金が特に多いわけではありませんが、つつましく暮らして行くにはどうにか十分な金額ですし、なんと言っても医療の心配をしなくても良いというのが絶対的に大きなことです。
私たちが100%引退に踏み切れないのは、引退後も莫大な健康保険料を毎月支払わなければならないからです。この健康保険会社も利益を追求しているプライベートの会社しかありません。
私の3人の甥っ子たちはまだとても国を支えているといえるほど独立した生活をしていません。もういい年なのですが、二人はアルバイト的腰掛仕事に就たりしていますし、もう一人はなんと日本の文部省から(JETプログラム)とても良い給料をもらい、日本の小中学校で英語のアシスタントをしています。
シアトルに住む妹のダンナさんは、マイクロソフトで働いていましたが(過去形なのは先月亡くなったからです)、彼が払っていた税金は私の総収入より多いのです。生前、彼は冗談で、この会社ではアメリカ人はマイノリティーだ、自分はアジア系、東ヨーロッパ系の若者の間で小さくなっている…と言っていましたが、彼もスウェーデンからの移民二世です。
先週、彼の同僚でExcelを開発した中国人(彼が子供の時に両親とアメリカに移住しました)、ビル・ゲイツをして"私が出会った中で最も頭脳明晰な男"と言わしめた人ですが、その彼の家に行く機会がありました。いやはや、驚きました。普通の家の概念ではないのです。ゴテゴテの豪華絢爛ではなく、スッキリとあくまでプロのデザイナーの手が加えられた広大な邸宅なのです。それでいて、彼自身はジーパンにティーシャツ、スニーカースタイルのまるで中華レストランの下働きから帰ってきたようなスタイルなのです。
奥さんはベトナムのボートピープルで、8歳の時にタイ、インドネシアなどの収容所を転々とした後、アメリカに受け入れられました。二人ともハーバード大学の修士、博士号を取っています。彼らは、アメリカは良い国だ、もしあのまま中国、ベトナムに残っていたら、こんなに良い機会に恵まれなかった…確かに運も良かったけど…と、勝ち組の謙遜を見せているのです。
立ち入った収入や払っている税金のことを話したわけではありませんが、軽い口調で、「税金が収入を上回ることはないから…」とオウヨウなものです。もう一人、コロラド州のボールダーでハイテックの会社を始めた友達は、彼の会社で働いている人の90%は韓国、中国、マレーシア、そして東ヨーロッパからの一世だと言っていました。彼らのように外国から移住し、アメリカ人になった人たちが懸命に働き、大枚の税金を払ってくれるおかげで、アメリカは政府が莫大な無駄使いをしても、どうにか倒れないで立っていれるのでしょう。
これが私の甥っ子たちのようなアメリカ版フリーターのような若者や、行くところがないから軍隊に入るような若者ばかりだったら、アメリカは遠の昔に破産していたことは間違いありません。
アメリカはハングリースピリッツを持った、働き者の移民一世、二世がアメリカのかなりの部分を支えているのです。
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