のらり 大好評連載中   
 
■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第410回:どうしてアメリカが世界の嫌われ者になったのか?

更新日2015/04/23



昔、プエルトリコのマリーナでヨットに棲んでいた時、アメリカ人のお爺さんに会いました。なんだか書き出しが、昔々あるところに…風になってしまいましたが、そのアメリカ人の"メルお爺さん"は、今にも沈みそうな木のヨットに棲んでいました。

そのヨットも船底と海底がフジツボ、珊瑚、海草でつながっているようなボロ船で、乗っているメルも同じように恐ろしく汚れきった短パン、シャツ姿でポンツーンを歩き、彼の風下100メートルまで臭うと言われているような人でした。ところが、このメルお爺さん、ナカナカのインテリでユニークな見識を持っており、ウチのダンナさんとはかなり親交を結んでいるようでした。

ワールドトレードセンターが9.11のテロで崩れ、たくさんの人が亡くなった時、周囲の誰しもが何週間もその話題だけに終始しました。その時、メルお爺さん、アルカイダ、モスレムのテロリストにアメリカに来てもらい、またはアメリカ人がそこへ行き、どうして彼らがアメリカを嫌うのか、それも大量にアメリカ人を殺さなければならないほど嫌うのか、一体アメリカが彼らに何をしたのがいけなかったのか、訊いてみてはどうだろうか…と、実際問題としてはそんなことは不可能なのですが、とてもウガッタことを言ったのです。

スペインで暮らしていた時も、ヤンキー(彼らはジャンキーと呼んでいましたが…)はずいぶん嫌われ者でした。一体、私が何をしたの? と叫びたくなることもありました。

アメリカのために一番酷い目に遭った日本、原子爆弾を2個も落とされ、東京大空襲でも軍関係の施設ではない民家を燃やされ、戦闘員、軍人でないゴク普通の市民を大量に虐殺された日本人は、その後、アメリカに対するテロ事件などほとんど起こさず、終いにはアメリカ占領軍司令官のマッカーサー神社を建てようという運動が起こるまで、アメリカに恭順し、成長したの比べ、アラブ諸国だけでなく、ヨーロッパ、南米の国の人々から毛嫌いされているのは何か理由があるはずです。

嫌われる理由の一つは、アメリカ人の独善的態度でしょう。アメリカン・デモクラシーを最高のものとして、その範疇に入らない国々にアメリカン・デモクラシーの押し売りをしているからだとの想像はつきます。そして、スペインのコンキスタドールが常に宣教師を連れて歩き、征服、略奪と一体になったキリスト教の布教を進めたように、アメリカン・デモクラシーには、いつも巨大なアメリカン資本が付いて回り、その国が持っていた伝統を簡単に崩し、アメリカ的消費文化の波に巻き込んでしまうからでしょう。

もっとも、常に最強の者は嫌われます。ソビエトが全盛だった頃、誰もソビエト共産主義政権があんなに容易く、もろく崩れるとは想像もしていなかった時、ソビエトが絶対権を振り回していた時、東ヨーロッパの国々の人たちのソビエト嫌いは相当なものでした。それが今、ソビエトが悪夢の霧のように消え、アメリカだけが最強の国として残りましたから、嫌われる対象はアメリカに集中してしまったのでしょう。もっとも豊かで、お金持ち、全世界が憧れる消費物資に囲まれ、優雅(一見そう見えるだけですが…)な生活ができる国がアメリカなのです。

食べるのに困るほど貧しい人が、パンを盗んでも同情を買うだけですが、自分よりはるかにお金持ちの人が(不当な?)利益を貪っているのは許せないものです。

アメリカは、莫大な援助をアラブ諸国だけなくイスラエルにも、ほぼ全世界に対して行っています。ウチの仙人はいつも穿ったものの見方をします。そこで、この大問題、『なぜ、アメリカ人は世界の嫌われ者になっているのか』と訊いてみました。

「そりゃ、オメー、アメリカが金持ち過ぎることにヤキモチを焼いているからだよ。何億ドルもの援助をしているからだよ。彼らの安全をアメリカ流に守ってやるからだよ。人間はそんなお情けをしてくれた金持ちを絶対に許さないものだ。それに嫌われるは、アメリカ人が効率の良い働き者で、彼らが怠け者だからだよ。自分より優れた人間のやることは理解できても、許せないものさ。それに、世の中どう転んでも、住民の10%くらいは"負のエネルギー"を持っていて、過激に走るけど、そのターゲットに一番されやすいのが、大金をばら撒き、アメリカン・デモクラシーを輸出しようとしているお人好しのアメリカという図式になるんじゃないかな。」 とノタマッテおります。

大戦後、日本がアメリカに示した"敗者の潔さ"には、様々な歴史的背景があることでしょう。アフガニスタンやイラクの戦後処理?に当たっている司令官たちは、マッカーサーが直面した事態とは全く別の次元の問題、宇宙人を相手にしてるような違和感と絶望感を持っているのでしょう。 

それにしても、戦後の日本とそれからの日米関係は、一種の"奇跡"と言ってよいと思います。

 

 

第411回:授業料のインフレと学生ローンの実態

このコラムの感想を書く

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Grace Joy
(グレース・ジョイ)
著者にメールを送る

中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

■連載完了コラム■
■グレートプレーンズのそよ風■
~アメリカ中西部今昔物語
[全28回]


バックナンバー

第1回~第50回まで
第51回~第100回まで
第100回~第150回まで
第151回~第200回まで
第201回~第250回まで
第251回~第300回まで
第301回~第350回まで
第351回~第400回まで

第401回:日本のお茶のことなど
第402回:アメリカと外国の医療費の違い
第403回:『ハラキリ』と言論の自由
第404回:アメリカ人、2億総鬱病
第405回:遠きキューバ、近きキューバ
第406回:中国からの移民? or 侵略?
第407回:国有地って誰の土地?
第408回:合法化が進む同性結婚
第409回:増加する女学生と男性優位社会

■更新予定日:毎週木曜日