第269回:リス撲滅作戦
地球全体が暖かくなったせいでしょうか、エル・ニーニョ、ラ・ニーニャが暴れているせいでしょうか、この山の天気が異常に乱れています。先週まで気象庁始まって以来の高温が3日も続いたと思ったら、今度はハリケーン並みの暴風が吹きまくり、その後また猛吹雪になったり、めまぐるしく変ります。
大陸性の気候の上、標高が2,100メートルくらいありますし、激しく変る山の天気には私たちは充分慣れていると思っていましたが、今年は輪をかけて、激しさを増しています。
一度咲いたチューリップも雪を被り、それを凍った土と雪で食糧難にあえぐリスがきれいに食べてしまいました。リスがチューリップの葉だけでなく、花も食べるのを初めて知りました。
一時的にとても暖かくなりましたから、一旦山に向かった動物たちが、ぶり返した寒さで私たちの小屋のある高地に降りてきたのでしょうか、なにやら野生動物園のような景色なってきたのです。
いつもの年なら、とっくに山に帰っているはずの、エルク(アメリカトナカイ)が大きな角をいかにも権威ある様子で徘徊していますし、鹿の群れも子ジカのバンビを交えて、窓の下まできて、家の中をのぞりたりしています。狐やコヨーテの姿も見かけます。ウサギも一挙に増えて白いシッポを見せて飛び跳ねています。野生の七面鳥も騒々しく鳴きながら駆け回っています。小鳥も今が一番多く、カササギ、ロビン、スズメ、ブルーバードなど、さえずりあっています。
どういうわけか、鷹、鷲を見かけなくなりました。そのせいでしょう、リスとウサギが異常発生し、目に余るようになってきました。ウサギの被害に合わないのは、長ネギ、タマネギだけで、後は何でもきれいに食べてしまいますし、リスの方は、積み重ねた薪が丁度良いジャングルジムになっているのか、そこを安全な住み家として、子を増やしているようなのです。それだけならまだよいのですが、この界隈のリスはグラウンドスコールと呼ばれる、土に穴を掘り、トンネル洞窟に住む種類ですから、家の土台や井戸を壊すことがしばしばあり、山の住人の嫌われ者なのです。
そういえば、私のおじいさんは何匹もリスを撃ち、食べていました。きっと、私も子供の頃、食べたと思うのですが、どんな味だったか覚えていません。毛をむしられた小さなリスは、何匹くらいで、お腹が一杯になるのかしら。
ウチでも、リスが小屋の土台の下に穴を掘り出しましたので、ウチの仙人たるダンナさん、リス撲滅作戦を展開し始めました。
近所の牧場の人たちから知恵を借りたり、インターネットで"いかにリスを撃退するか"を検索したりして、リス捕り装置を作りました。これは大きなバケツに水を1/4くらい入れ、バケツの上に微妙なバランスをとった板を架け、バケツの真ん中に突き出た板の先にピーナッツ、アーモンドなどリスの餌を置きます。
リスがその餌につられて板の上を歩き、餌に近づくと、その板がコトンと下がり、リスはバケツの水の中に落ちる……という仕掛けです。このバケツ、ポチャン方式の仕掛けを四つ作り、リスたちのホームグランドに置きました。
私はリスが溺れ苦しみながら死ぬのが嫌で、どうせ殺すなら一気にコロッと殺すようにと盛んに言ったのですが、ダンナさん、この自信満々の自作にすっかり惚れ込んで、私の言うことを聴いてくれません。
当然といえば当然ですが、彼の仕掛けは餌ばかり取られて、一匹のリスもバケツに落ちませんでした。それなら最後の手段とばかりに、どこからか散弾銃を借りてきてリス殲滅、皆殺し作戦に出たのです。これは彼が自認している"仙人"のイメージから遠くかけ離れた行為なのですが…。
彼はドアを細く開けた物置の中に陣取り、散弾銃を膝に置き、どこへ行くにも片時も手放したことがない本を手に、本を読みながらリスが出てきたら、ズドンと一発やるつもりで閉じ篭ったのです。
家の中から見ていると、リスが薪の上を走り回り、時々ピタリと静止、後ろ足で立ち上がると、物置の隙間から銃口がスッと上がります。と同時に5、6匹楽しく遊んでいたリスもサッと姿を消したのです。
それを2時間も繰り返していたでしょうか、ダンナさん「仙人が動物を殺そうとしたのが間違いだった」と完全敗北宣言をして、一発も銃を撃たずに物置から出てきました。リスも命がかかっていますから、猟銃に敏感になるのはアタリマエです。
私も、家の土台の周囲にセメントブロックを並べ、リスの侵入をいくらかでも阻止し、チューリップの方はリスの餌として育てていると思うことにしました。
と言うわけで、リスたちは"キーッ""キーッ"と鳴きながら家の周りを駆け回っています。
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