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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第251回:Twitterと一億総モノ書き時代

更新日2012/03/15



モノ書き、出版は時代の波に何度も洗われています。一番大きなところでは、中国人が見つけたといわれる"紙"の生産でしょう。これは今のTwitter以上の革命的な変化で、コミュニケーションをもたらしたことでしょう。口から口へではなく、紙に書かれたもので何百キロ離れた人と意識を共同で持つことができるのですから、当時、これは大変なことだったと思います。

そして、それまで手で写筆していた書物を大量に印刷できるようにしたグーテンベルグの活版印刷の発明が、なんと言っても、とてもコミュニケーションに大きな変革をもたらしたでしょうね。

パソコンでインターネットを使ってコミュニケーションをするようになる前は、古式豊かな手書きの手紙が全盛でした。とりわけ、郵便制度が整い、それまで一部の大金持ちだけが使うことができた飛脚のような文書配達システムではなく、誰でもが使える公共郵便制度は手紙文化を作りました。ヨーロッパでは18世紀の終わり頃です。

手紙形式の小説でゲーテの『若きヴェルテルの悩み』は爆発的に売れ、若い人たちの間で盛んに手紙のやり取りが行われ、ラブレター全盛期を作り出し、ヴェルテルが着ていたような黄色いチョッキが流行ったと言われていますから、衝撃的な大ベストセラーだったのでしょう。

手紙と言えば、有名なゴッホの手紙を読んであきれるのは、よくあんなにたくさんの手紙、それもほとんどお金の無心ばかりの手紙を書いたということです。

手紙時代はまだまだ続き、カフカの恋人のような、愛人のようなフェリーツェにカフカは500通以上書きまくっています。フェリーツェの方もマメに返事を書いていたようですが、こちらの方はほとんど消滅しています。

手紙文化がいくら栄えたと言っても、その当時、ヨーロッパでは文盲が多かったし、手紙を書くという行為自体、ある程度教養のある富裕層に限られていたと言ってよいでしょう。ところが、今のインターネットを使ってのBlog、Facebook、Twitterは、文字通り誰でも書け、誰もが作家になれるのです。

日本では、第二次世界大戦の時から「一億玉砕」とか"一億"という数字がとても好きなようですね。もっとも、その当時、日本の人口は一億なんかなかったはずですが。

その後、「一億総白痴」の時代になり、「一億総中流」の時代を経て、今、実際の人口が一億以上になっても、霞ヶ関ビル何杯分とか東京ドームの何個分とか言い表すのと同じように、"一億"と言い慣わされています。

今の時代を一言で表現すれば「一億総モノ書き」の時代と言ってよいでしょう。これは何も日本に限ったことではなく、アメリカでも、ヨーロッパでも、アラブの国々でも同じような現象が起こっています。仕掛け人は、もちろんTwitterです。

Twitterがなければ、チュニジアに端を発したアラブの国々の政変も起こらなかったでしょうし、ニューヨークはウォールストリーに始まった座り込み運動も全世界に広がらなかったでしょう。オバマ大領も選挙に勝ったのは、若い人たちが大いにTwitterを使いまくったからだと言われています。

Twitterの伝わり方の速さと広がりは、感染力が強いナントカ風邪どころではありません。

私の従姉妹がガンになり、自分のFacebookにBlogをリンクさせ、写真入りで、闘病日記のように毎日、ときには日に何回も書いています。2年前、彼女がガンだと分かった時、親戚やごく親しい友達に自分の病状を知らせるために書き始めたのですが、それがあれよあれよという間に広がり、同じようなガンに罹った人からも、その身内の人からもと、今では万単位の交流というのか交信をしています。

ひと昔前なら考えられないことですが、自分の内面を見つめるように書いた日記をBlogに載せ、全く知らない人の前にさらけ出すことはとても恥ずかしいことでしたが、今では当たり前の現象になってきました。

逆に、ホントウのプロ?のモノ書きには受難の時代とも言えます。なにぶんにも、紙に印刷し、それを買ってもらうことで生計を立てていたのですから、紙も印刷もなしに、言葉、物語、ニュース、何でも伝わってしまうというのは出版業界もオチオチしていられない事態です。

と言いながら、私自身も手書きならこんなに漢字の入った文章を書くことができないのに、キーボードを打つだけで漢字が現れ、どうにか日本語を書くことができ、キビシイ編集者の越谷さんが大添削をしたとしても、ともかく日本語のWebマガジンに掲載されるのですから、これも驚きです。 

そうなると、私も時代の波の中に生きていることになりますし、「一億プラス日本語使いの外国人何人か、総モノ書き」時代と言うべきなんでしょうか?

 

 

第252回:最後の言葉と辞世の句

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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