第124回:現代版オロチ出没
更新日2009/08/27
アメリカに入国する時、他の国へ入国する時よりうるさく申告させられるのは動植物、食品の持ち込みです。税関の申告書の中に、大げさなくらい「私は植物、動物を待ち込んでいません」と言う項目にX印をつけ、サインしなければなりません。
他の国から持ち込んだ外来種が、生態系を一挙に壊してしまうことはよく知られています。日本の川や湖でも、アメリカから持ち込んだ食の荒いバスが繁殖して、既存の種を脅かしていると聞いています。
アメリカの川では"アジアの鯉"と名づけられた、大型の鯉が大繁殖し、小さなモーターボートで川を走ると、エンジンの音に敏感に反応する鯉が一斉に何百、何千と飛び上がる影像を見たことがあります。
近年、ロッキー山脈を中心とした高い山で、大きな針葉樹が次々を枯れています。それは悲惨な情景です。この松食い虫は"ジャパニーズ・ビートル"と呼ばれ、1912年にアイリスの球根に付いてきて以来、1916年、ニュージャージー州でバラ、葡萄、ホップなどに被害を及ぼしていましたが、それが西へ西へと広がり、松の大木を枯らし、山を茶色に変えてしまう脅威になりました。この恐ろしい、ちっぽけなカブトムシの学名はPopillia
Japonicaと言います。温暖化とともに卵が越冬し易い、つまり繁殖に適した環境になり、大爆発したという学者もいます。
ビートル、カブトムシと言っても米粒ほどの大きさなのですが、この小モノが松の大木を次々と殺して行ったのです。アメリカの自然保護局もお手上げで、枯れた木をドンドン切り倒していくか、山にある何億本とある大木の一本一本に駆除剤を吹きかけるしか対策がないのが現状です。
私たちが住んでいる山を下りた谷川にワニが出ました。全長1.5メートルと言いますから、巨大な、とは言えませんが、かじられたら痛いことは確かです。熊やマウンテンライオンには慣れている自然保護官でも、ワニの生捕りには手を焼いていて、滑稽なくらいでした。いくら適応力の高いワニでも、ここの冬の寒さでは凍死確実です。誰かペットとして飼っていて、もてあまし谷川に放したのでしょう。
コロラドの谷川はワニの生息に全く向いていないので、一冬で死んでしまうでしょうけど、もしその動物に快適な場所なら、ドンドン増えて手に負えなくなるでしょう。
そんな事態が、フロリダ州中央を覆う湖水地帯エバーグレードで起っています。
この広大な湿地帯は水鳥、渡り鳥の聖域で、ここに生きるすべての生物は法律で保護されています。観光客用に仕立てられた、大きなプロペラを背後につけたボートに乗り、ワニや水鳥を見るツアーに参加することができます。
そこに大蛇が大繁殖し始めたのです。東南アジア原産のパイソンで、長さ6~7メートルにもなる蛇です。パイソンにとって、暖かく湿潤なエバーグレードは理想郷だったのでしょう。餌になる水鳥の卵は豊富だし、釣りも禁止されているので魚も多く、無用心な水鳥も沢山います。
天敵もいないので、不用意にワニと出会わない限り(3メートルのワニが大蛇パイソンに絞め殺されているのを発見したそうですが)、増えよ満ちよ地に満ちよとばかり繁殖し、1992年のハリケーン・アンドリュー以前には一匹もいなかったパイソンが、今ではエバーグレードの生態系を完全に壊しかねない勢いです。
そのハリケーンの時、ペットとして飼っていたパイソンが逃げだしたか、エバーグレードにあった爬虫類研究所が壊滅し、そこで飼っていたパイソンが野生化したと言われています。推定するのは困難だそうですが、大きく成長した大蛇が20万匹はいると見られています。
性格はとてもおとなしく、恥ずかしがりだと言います。それでも攻撃的な短気なパイソンもいるのでしょう、近隣のペットを呑み込んだり、はてまた2歳の赤ちゃんを絞め殺したりして暴れるパイソンも出てきました。
毒を持っていないことだけは救いですが、一匹の大蛇を取り押さえるのに、筋肉マンのレンジャーが4人がかりでした。法律を緩め、パイソンに限って獲っても良いことにするそうですが、水中に身を隠している大蛇を探し出すことは不可能に近く、パークレンジャー自身、「パイソン絶滅作戦はミッション・インポッシブルだ!」とあきらめ顔です。
大蛇オロチを征伐して伝説に名前を残した人がいますが、これが20万匹となるととても征伐できないのではないかしら。
パイソンを絶滅するために、誰かがより大きなアナコンダなどを持ち込まないように願うばかりです。
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