のらり 大好評連載中   
 
■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第329回:アメフットは、戦争ごっこかスポーツか?

更新日2013/09/19



待ちに待ったアメリカンフットボールのシーズンが開幕になりました。待ちに待ったといっても、私のことではなく、大半の、主に男性のことです。アメリカンフットボールは、選手に支払われるお金の額、テレビの視聴率、観客動員数、どれをとってもアメリカスポーツのトップです。

「どのスポーツが一番好き?」という質問では、プロフットボール(アメフト)が34%で最高、次にぐんと下がって16%は大リーグ野球、そして第3位がまたまたフットボールで、これは大学のリーグ戦が11%です。ですから、プロと大学を合わせると45%の人が熱狂的なアメフトファンなのです。

ところが、開幕の1週間前に、冷や水を浴びせるようなニュースが流れました。アメフトはとても乱暴なスポーツで、怪我が耐えません。プロの選手で様々な後遺症、障害を抱える4,500人の現役や元選手がNFL(全米フットボール協会)を相手に2011年から起していた裁判に、フットボール協会側が、裁判の判決を待たずに、裁判所の外で妥結案を提示し、もちろんお金ですが、双方が合意したというのです。

その妥結した賠償金額というのが、765ミリオンドル(765億円相当)だったのです。こんな大金をスポント支払えるほどフットボール協会にお金があることにまず驚き、今まで後遺症、障害を持つ元プロがそんなにたくさんいたことにも唖然とさせられ、それを知りながらプレーを継続させていたチームや協会の態度にあきれ果てました。

この裁判は、元選手たちがフィラデルフィアの高等裁判所に訴えていたものですが、裁判が長引き、フットボールシーズンにかかり、悪い影響を及ぼすことを懸念した協会が、いわば、"お前達、これだけやるからシーズン中は黙っていろ"と提示したもので、いわば口止め料です。

脳の障害は程度に応じて3から5ミリオンドル(3~5億円相当)支払われ、10ミリオンドルは(10億円)は調査費用、医学検査に75ミリオンドル(75億円)と一見、選手会、元選手にとって良い妥結額に聞こえます。

しかし、NFLの収入は(個々のチームではありません)9,500億円もあるのですから、考えようによっては、口止め料の765億円くらい小さなものです。9,500億円といえば オリンピックを2、3回続けて開催できそうな金額です。日本のプロ野球コミショナーが聞けばヨダレを流すのではないでしょうか。

アメフトでは何もかもがアメリカ的に巨額で、例えば全米チャンピオンを決めるスーパーボールの試合のテレビのコマーシャルは30秒で3億8,000万円相当ですし、入場料の平均が3,700ドル(37万円相当ですよ!!)にもなります。

アメフトはプロだけでなく、大学でもビッグビジネスです。一応、建前として、大学の選手に直接報酬を払うことはできませんが、スポーツ奨学金、授業料免除、生活費などなどの名目で選手一人当たりに大学が使うお金は、私の給料を軽く上回ります。

そして、大学のアメフトの監督、コーチの給料(アメリカの大学、高校では専門の監督、コーチを雇います。この人たちは先生として授業を受け持つこともなく、職員として事務所で働くこともありません)は偉い教授の何倍もにもなります。

というのは、スポーツで大学の名前が上がると、学生さんがたくさん集まるし、私のところの様な田舎の大学ですら、スポーツイベントの入場料だけで、莫大な金額になります。

テキサス大学がフットボールで挙げる収益は78億円相当で、大学全体の予算が104億円相当です。ミシガン大学では予算85.2億円の61.6億円をフットボールの儲け? から賄っています。これでは、大学の存在自体が、フットボールに首根っこを押さえられているようなものです。

ウチの仙人は、「アメフトは現代アメリカの剣闘士だ。ローマでは奴隷を戦わせたが、今では剣闘士=選手に高給を与えて、観ている人の代わりに選手という名で戦わせている。あってないようなルールの元で、互いに納得して暴力を振るい合っているのだから…放っとけばいい」と言っています。

付け加えて、観る方についても、「アレだけの血の気の多い大観衆をスタジアムに閉じ込め、ウップンを晴らしてやらないと、あいつら、町中で何をおっぱじめるか知れたもんじゃないし、戦争に出かけて行っても、そこの住民に対して何をしでかすか分らないぞ」などと言い、あの暴力的スポーツはとてもそんなことが自分でできないヤワな男どもの代理戦争ごっこだと、定義付けています。

確かにアメフトと戦争は、暴力的で莫大なお金が絡むところは似ているかもしれませんね…。

 

 

第330回:異常気象に救われた話

このコラムの感想を書く

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Grace Joy
(グレース・ジョイ)
著者にメールを送る

中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

■連載完了コラム■
■グレートプレーンズのそよ風■
~アメリカ中西部今昔物語
[全28回]


バックナンバー

第1回~第50回まで
第51回~第100回まで
第100回~第150回まで
第151回~第200回まで
第201回~第250回まで
第251回~第300回まで

第301回:市民権を得た?"刺青ファッション"
第302回:安倍首相の訪米とデニス・ロッドマンの北朝鮮訪問
第303回:新ローマ法王の誕生に思ったこと…
第304回:インターネットの授業と通信教育
第305回:アメリカへの出張は拒否する!
第306回:ゲイの権利と同性との結婚
第307回:体重で払う航空券はデブへの差別か?
第308回:アジア系だけに狭き門の大学システム
第309回:日本人はエコノミー(絵好み)アニマル?!
第310回:動物たちが徘徊する季節
第311回:テロの文化とアメリカ
第312回:世界に最も影響を及ぼした100人
第313回:ご遍路さん、現れる!
第314回:ゲイ(芸)は人を助ける?
第315回:ショッピングモールと駅前商店街
第316回:天才教育と銃規制
第317回:世界遺産登録の怪
第318回:森と牧場の季節
第319回:握手とお辞儀とハグと…
第320回:年々、静かな卒業式になってきたのは…?
第321回:山との接し方いろいろ
第322回:この夏を涼しく過ごす方法
第323回:アメリカ的成功物語
第324回:アメリカの輸出ナンバーワン品目は?
第325回:国境という見えない壁
第326回:数字と記憶力の話
第327回:リトルリーグ世界選手権
第328回:歴史に残る名演説と演説の効果

■更新予定日:毎週木曜日