第668回:レールとススキが光る道 - 芸備線 備後落合~三次 -
玉造温泉駅11時06分発の下り列車に乗り宍道駅に戻る。タラコ色のキハ47形2両編成だ。宍道駅で降りたホームの向かい側に木次線のタラコ色。キハ120形2両編成が停まっていた。2分後の発車で、とても都合がいい。玉造温泉駅で散歩して正解である。
タラコ色からタラコ色へ乗り換え
なんども乗った木次線で、気分だけは故郷である。景色も新しく感じなくなった。しかし今回は踏切を注視する。踏切道改良促進法が改正されて、国土交通大臣が危険な踏切や渋滞の多い踏切を指定し、2020年までに改良するか改善計画を作らなくてはいけない。その法案の審議で質問をする議員さんに呼ばれ所見を述べた。危険な踏切を安全にする方向で考えてほしいと話したけれど、どうやら危険な踏切を廃止する方針になっている。
線路を渡らなければ外出できない家
木次線には勝手踏切が多い。正規の踏切ではなく、住民が勝手に踏み板を敷いている。その一つひとつに小さな看板が立てられている。写真を撮って液晶画面で拡大したら、JR西日本の名義で立ち入り禁止の注意書きだった。禁止と言われても、線路の向こうに畑を持つ家もあるようだし、先祖代々の土地に線路を通してやったという地主もいるだろう。JR西日本としては、「ご注意申し上げましたよ」という態度で妥協したようだ。
勝手踏切に立ち入り禁止の看板が並ぶ
出雲横田で列車を分割した。後ろは折り返し宍道行きになる。たった一両で峠越えだ。八川駅舎に夢ファクトリーという看板がある。島根県の取り組みで、中高年者の知識や経験などを生かした生産、加工、サービス活動を応援するという。悪くない話だけど、看板だけでは何をしているかわからない。乗客たちはそんな景色に関心がないようで、ロングシートにもかかわらず駅弁を食べている。私も腹が減ってきた。弁当は持っていない。
出雲坂根に着いた。1両だけの気動車がスイッチバックで上っていく。乗客たちは箸を休めて景色を見ている。火を噴くオロチをイメージした「オロチループ」を眺めた。今回も全景を撮ろうとカメラを構えたけれど、やっぱり収まらない。景色が雄大すぎる。
出雲坂根駅にあったスイッチバックのジオラマがわかりやすい
備後落合着14時34分。国鉄型2面3線の駅で、プラットホーム2つ、線路は3本。木次線は駅舎がある1番のりばを使い、芸備線は島式プラットホームの2番と3番のりばを使う。どちらにも列車が停まっていて、つまりいま、備後落合駅はもっとも賑やかな時間である。私が乗る列車は2番のりばの三次行き。発車は4分後。こちらもタイミングが良い。今年の春、大雨で乗れなかった線路にやっと乗れる。
備後落合駅、すべてのプラットホームが埋まる時間はこの時だけかも
芸備線は伯備線の備中神代駅と山陽本線の広島駅を結ぶ路線だ。中国山地の谷間を東西に走る。地図上では姫新線と合わせて伯備線をはさみ、姫路から広島までを弧を描くようなルートである。このルートを乗り通してみたいと常々思っていたけれども、結局はバラバラに、あみだくじの横棒のように乗ってきた。山陽と山陰を結ぶ陰陽連絡線があって、その陰陽連絡線同士を結ぶルートだ。つまり中国山地の山の中の町を結んでいるわけで、沿線人口も少なく、長大なローカル線となっている。だからこそ自然が残る景色が良い。負け惜しみのようだが。
木次線を別れると山岳路線になる
備後落合駅を発車し、木次線の線路が右へ別れていく。こちらは上り坂で、さっそく山岳路線の様相だ。ディーゼルカーは足下を確かめながら歩くようにゆっくり走る。制限速度の標識が見える。旅客列車は時速25km、貨物列車は時速15km。トンネルの入り口ではどちらも時速15km。原付バイクか自転車なみ。三江線と同じくらい遅い。まるでゆっくり走る競技か、速く走ると壊れるのかと心配になる。そして山の中の景色はゆっくり流れていく。速度制限が緩和されても時速30kmと時速20kmだ。遊園地の遊覧列車のようだ。
備後庄原駅で列車交換
隣の駅は比婆山。低速で16分も走った。並行する道路は国道183号線で、クルマなら数分だろう。駅のあるところは小さな盆地で、そこだけは列車の速度が少し上がる。しかし山道でまた遅くなる。国道を見ると住宅が点在している。駅があるからではなく、道があるから住めるという感じだ。そんな景色が続いている。国道183号線は広島と米子を結ぶルートで、確かに直線的に結ばれている。海まわりは遠回りになるから、その意味では陰陽連絡ルートだ。鉄道も木次線を介せば直行ルートになるけれども、スイッチバックが難所である。もうクルマには敵わない。
ススキの穂が風に揺れている
備後庄原駅は大きな盆地にあり、有人駅である。学生が10人ほど乗ってきた。ここで備後落合行きとすれ違う。なにしろ速度が遅いから、備後落合から三次までの約50kmを1時間半もかけている。1台の折り返し運行では不便極まる。ここから先は東西に広がる盆地だ。起伏も少なく、列車の速度が上がる。やればできるじゃないかと喝采したくなる。線路のまわりはススキの原っぱだ。ススキの穂が逆光を浴びて光り、揺れる。ススキ街道だ。ススキの穂がさよならを言うように触れている。そんな合唱曲を高校時代に歌ったと、ふと思い出した。
馬洗川を渡ると塩町駅。福塩線と合流する。
三次駅着。広島、江津、福山、備後落合へ続く分岐点だ
-…つづく
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