■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から


Grace Joy
(グレース・ジョイ)



中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。




第1回~第50回まで

第51回:スポーツ・イベントの宣伝効果
第52回:国家の品格 その1
第53回:国家の品格 その2
第54回:国家の品格 その3
第55回:国家の品格 その4
第56回:人はいかに死ぬのか
第57回:人はいかに死ぬのか~その2
第58回:ガンをつける
第59回:死んでいく言語
第60回:アメリカの貧富の差
第61回:アメリカの母の日
第62回:アメリカの卒業式
第63回:ミャンマーと日本は同類項?
第64回:ミャンマーと民主主義の輸入
第65回:日本赤毛布旅行
第66回:日本赤毛布旅行 その2
第67回:日本赤毛布旅行 その3
第68回:スポーツ・ファッション
第69回:スペリング・ビー(Spelling Bee)
第70回:宗教大国アメリカ
第71回:独立記念日と打ち上げ花火
第72回:ティーンエイジャーのベビーブーム
第73回:アメリカで一番有名な日本人


■更新予定日:毎週木曜日

第74回:ブッシュ大統領とチェイニィー副大統領が逮捕される日

更新日2008/08/21


ブッシュ大統領とチェイニィー副大統領に逮捕状が出たのをご存知でしょうか?

ご周知のようにアメリカは州が集まった合州国で、州ごとの権限が強く、軍事、外交以外は地方自治体がすべて決めるような風潮があります。消費税も州のさらに下の"郡"ごとで違いますし、全く消費税のない州もあるかと思えば、8パーセント以上消費税を課している群もたくさんあります。

連邦政権が発した法令も50州の隅々までは行き届かず、テンデバラバラに解釈して、一体何のために議会で大変なお金と時間をかけて法案を練り、可決したりしているのか、分からないことが始終あります。

ブッシュ大統領とチェイニィー副大統領の逮捕を可決したのは、ヴァーモント州のブラトルボロー(Brattleboro, Vermont)という人口12,005人(2000年の国勢調査)の町です。コネチカット川が作る柔らかな谷間にある美しいこの町に20年以上経つ古い原子力発電所があり、町の人はいつチェルノブイリの二の舞になるのか、そこまでいかなくても放射能漏れの事故が起こるのかと、不安を持って暮らしている背景があったのかもしれません。中央政府のやることは、私たちの町を犠牲にしていていると感じていたのでしょう。

ブラトルボロー町議会はイラク戦争の追行に関し、ブッシュ大統領とチェイニィー副大統領が憲法(アメリカ合衆国憲法)を違反を犯している、よって逮捕すべしという決定を5人の町会議員が票決し、大接戦の3対2で可決したのです。

ブラトルボローの町の条例では、町議会がシェリフに逮捕命令を出すことができます。ですから、万が一ブッシュ大統領かチェイニィー副大統領がこの町に足を踏み入れると、この田舎町のシェリフが彼らの手を後ろに回し手錠をかけ、「ヘイ、メン、お前には黙秘権がある。自分に不利な供述はする必要はないが……」と逮捕者の権利を読み上げ、町のシェリフ詰め所の横にある鉄格子のある留置所に入れる可能性があるのです。

通常、犯罪者の逮捕を州レベル、そして他の州へも発展させ、FBIを通じての全米指名手配まで持っていくことも法的には可能ですが、ヴァーモント州議会はブラトルボローの決定を審議したものの、否決し、連邦政府も田舎の町から来た大統領と副大統領の逮捕要請を拒否しました。

こんなトピックス的なニュースは、ただ雑誌の片隅に小さく載り、笑い話として読み飛ばされるだけなのかもしれませんが、もし同じような決定をする町が増え、中規模の市もそんな決議をし始めたら、社会運動を議会政治を通じて行うという、民主主義の原型が変革を起こすために機能していることの証明になるのではないかしら。

ですが、ブラトルボローの町に続く決議をした町は今のところありません。

 

 

第75回:日本語はどこへ行ってしまうの?