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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第672回:大きいことは良いことなのか?

更新日2020/08/27


アメリカ人は何でも大きいことが良いと信じているように思われます。すべてに質より量の文化なのです。一般のレベルで言えば、よく流行っているいつも満員のレストランは、まず何よりも物凄いボリュームのお料理をデンとサービスします。そういった意味も含め、アメリカ的と言うのでしょうか、多少粗雑でも雄大、大きいのが身丈に合っているようなウチのダンナさんでさえ、人気のイタリアンレストランで洗面器ほどの皿にパスタが出てきた時には、「オイ、これ馬に食わせるんじゃないんだぞ~」と呆れていました。

最近、日本的な野菜、果物がアメリカのスーパーにも出回るようになりました。品種が違うのか、育て方、収穫時期によるものなのか分かりませんが、ナス、キュウリでも、小ぶりの引き締まったモノで、徐々にアメリカでも違いが分かる人が出てきたようなのです。アメリカのナス、キュウリは日本でなら売り物にならないボケナス、お化けキュウリのタグイです。

嬉しいことに、カボチャも出回りだしました。英語でカボチャを何と言うか知っている人は相当アメリカ生活が長い人でしょう。英語でカボチャは“カ”にアクセント、ストレンスを置き、「“カ”ボチャ」と呼びます。ポンプキン、スクワッシュとは異種同類なのでしょうけど、そのサイズに絶大な違いがあり、味、風味に至っては、全く別モノです。毎年、田舎町で行われるポンプキン・コンテストはただひたすら大きさのみ、巨大なお化けポンプキンを作ることで争われ、美味しさの方は忘れられ、問題にされません。

地球全体で自然破壊が進み、野生の動物の棲む世界が狭められてきています。逆に、他の国から持ち込まれた動物、魚がそこの自然環境にピッタリと合っていたのでしょうか、元の種より格段と大型に、しかも大量発生と呼びたくなるほどの増殖をみせることがあります。典型的なのがアメリカの河川、湖で爆発的としか言いようのない大発生をしている“鯉”、ここでは“エージアン・カープ(アジアの鯉)”と呼んでいる外来種です。誰が何時持ち込んだのか分かっていませんが、すでにミシガン湖まで攻めてきています。 

大蛇、パイソン、アナコンダの方は、フロリダを襲ったハリケーン・アンドリューの時、フロリダ半島の真ん中を占める湖沼地帯、エヴァーグレイズにあった爬虫類研究所が吹き飛ばされ、逃げた蛇などが野生化したものです。とても棲み易い環境だったのでしょう、前からそこに棲息していた怖いものなしのワニを追い詰め、住宅地にまで侵入し、ペットの犬、猫を食べる? (あれは飲み込むと言うのかしら)までになってきました。このように外来種が本来の生息地にいた時より、伸び伸びと大きくなり、繁殖するのは珍しいことではありません。

第655回(「野生との戦い~アメリカのイノシシなど」)で、アメリカのイノシシ禍に触れましたが、ブタは野生化すると1週間で体毛が伸び、牙が鋭く大きく長くなり、スーパーマンならぬスーパーピッグになるのだそうです。サイズも余程棲みやすく食べ物が豊富なのでしょう、ジョージア州でクリス・グリフィン(Chris Griffin)さんが射止めたイノシシは、体長4メートル、体重500キロ、まるでバケモノのようで、写真や動画、これまたアメリカ的にトレーラートラックにスーパーピッグを吊るし、クリス・グリフィンさんも同乗し、田舎町をパレードしている様子を観ることができます。

大きいことが大好きなアメリカ人にとってすら、ショッキングなほどの巨大さで、もののけ姫の白いイノシシが可愛く思えるほどです。そのスーパーピッグ、ホッグは“ホッグジラ”(Hogzilla*;ブタのホッグにゴジラを詰めて命名した)と呼ばれ、白い十字架を立てたお墓まであります。

このお化け“ホッグジラ”が葬られてから6ヵ月後、一体、野生化したブタ、イノシシがなぜそんなに巨大になるのか、何かの突然変異が起こったのではないか、地球温暖化で新たに恐竜時代が始まったのではないかと、生物学者が調査に乗り出し、“ホッグジラ”のお墓を掘り起こし、DNA鑑定をしました。ところが、”ホッグジラ“さん、そこいらにいる野生化したブタ変じてイノシシになったものとDNAは全く同じで、環境が作り上げた怪物だったのです。

アメリカ大陸に最初に連れてこられたブタは、スペインのコンキスタドール、エルナン・デル・ ソトの1540年の航海だと言われていますが、それらはおとなしい白ブタで、せいぜい50~60キロ止まりの、怠け者、ペットにさえなるオトナシイ性格だったようです。もちろん、そうでなければ船で運んで来られませんが、それが“ホッグジラ”にまで育つのですから、これは自然界の力、イタズラ?の大きさを目の当たりに見せつけられたようなものです。

案外、巨大な“ホッグジラ”、深い森や湖沼地帯でさらに大きくなり、数も増え、虎視眈々と地上制覇を図っているのかもしれませんね…。 

-…つづく

 

*Hogzilla:
https://en.wikipedia.org/wiki/Hogzilla 
https://video.nationalgeographic.com/video/00000144-0a27-d3cb-a96c-7b2f0a0f0000

 

 

第673回:バギー族と今年の夏山散歩報告

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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