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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第673回:バギー族と今年の夏山散歩報告

更新日2020/09/03


7月から週に5日はキャンプ、山歩き、2日は家に帰って洗濯、次のキャンプの仕込みで過ごしてきました。引退してからは盛大に時間があるので、月曜から金曜まではキャンプ、週末は可哀想に土日だけしか休めない人たちのために、空けてあげています。というより、週末、ハイキングコースやキャンプ地で人に逢わないように、人混みを避けるためです。と言っても、一旦、車の入れない山道に入るとまず人影を見ません。1日7、8時間歩いて1組か2組といったところです。
 
逆に、たとえ悪路でも、どうにか車が入ることができるような昔の金山銀山の黄金狂時代の危なっかしい道とも呼べないようなところでも、四輪駆動のバギー(こちらではATV=All Terrine Vehicleと呼ばれています)、モトクロスのモーターサイクルが攻めてきます。ハイキング、山歩きをする人たちは、これらの騒音と排気ガスを撒き散らすだけでなく、山道を崩し、壊してしまうバギー、ATV族を毛嫌いしています。

私たちも大中古のトヨタの四駆で登山口かその近くまで行きますが、バギー族はさらにその先まで侵入してくるのです。普通の車ではとても近づけないギリギリのところまで、バギー族は入ってくるのです。彼らにしてみれば、動力で登れるところ、何を好き好んで重いリュックを背負ってテコテコ歩くのだ…とでも思っているかも知れませんね。

彼らバギー族は、まず90%がデブ、良く言ってオーバーウエイトなのです。山道を200メートルと歩くことができない、歩こうともしない人たちで、男女、老若と問わず、それは呆れるくらいはっきりと体形に現れています。もう一つの特徴は、彼らはツルミたがるのです。一人で、1台のバギーで探索している光景はまず見掛けません。3、4台、多い時には7、8台連ねてやってくるのです。この現象は、“赤信号、皆で渡れば怖くない”に通じる心理があるのではないかしら。

乾いた平原から涼しい高山へ逃げてくるのは分かりますが、バギー族にテキサスナンバーが圧倒的に多いのです。オレゴン州、シアトルのあるワシントン州で夏になるとカルフォルニアナンバーの車が押し寄せてくる現象が、コロラドの高地ではテキサスナンバーとなっているのでしょう。 

コロラドにある国立公園、州立公園内に入るには入園料を払わなければなりません。車道に田舎の国境のような小屋があり、車1台につき20ドル内外の料金取られます。ウチのダンナさんは65歳になると同時に永世老人パスを取り、どこの国立公園も無料で、彼が運転している車に同乗している限り、何人でもタダになります。園内でのキャンプ場も半額になります。でも、ここ数年、キャンプし山登り、歩きをするのは国立公園内ではなく、広大な国有林(BLM=Bureau of Land Management)管轄の山々、山林や砂漠地帯ばかりに行くようになり、そこでは、ハイキングコースや山道から30メートル離れてさえいれば、どこにテントを張ってもかまいません。一応、同じところに2週間以上キャンプするのは禁止されていますが、川沿いで平らなところ、よらば大樹の陰…のような絶好の場所は、家族総出のテント村を造ったように、一夏過ごすことも多いのです。

私たちが特別人嫌いというわけではないと信じたいのですが、山に来てキャンプをする時くらい、全く人気のない、間違っても隣に子連れの喧しいグループがテントを張らないところ、人里離れたところにテントを設置します。ほとんどの場合、周囲3キロ以内に人間がいないところを選びます。それだけ、熊が訪問してくる可能性があるところ…とも言えますが、今まで、十数年キャンプをしてきましたが、熊のご訪問を受け、慌ててテントを畳み、車に避難したのは二度だけです(他にハイキングの途中で、ご対面したことは何度かありますが…)。

雪解け水の小川で、汗まみれの体を拭き、感覚がなくなるほど冷たい流れに足を付けると、疲れが飛んでいってしまいます。最近、歳とともにヤワな山行になってきて、ワインを持ち込み、小川シャワーの後、一杯飲むのが楽しみになってきました。これで近くに温泉でもあれば…言うことなしなんですが…。

夕飯のメニューは、この頃ワンパターンなってきて、ジップロックのビニール袋に入れてきたキャベツ中心のサラダ、それにダンナさん流の“キャンプちゃんこ”、肉、野菜、豆類のごった煮を、一回分ずつのパックにしたものを冷凍し、キャンピング・ガスバーナーで溶かした栄養価とカロリーは高いだけがとりえの夕食です。これも、多少辛口だったり、カレー風味だったり、トマトソース味だったりですが、基本になる中身は同じです。

丁度、4、5日で、ガチガチに冷凍にしてきた主食が、グニャりと自然に解凍されてきますから、私たちのキャンプも4、5日で一旦帰宅になります。もっと日持ちがする、軽い自家製フリーズドドライの食品を作ればいいのですが、まだそこまではやっていません。

元山男らしかったダンナさん、盛んに半世紀以上前、かれこれ60年以上前のことをこの頃、しきりにつぶやくようになりました。飯盒でご飯を炊き、それにサンマの蒲焼、カツオのフレーク、クジラの大和煮をぶっ掛けて食べ、デザートにミツマメの缶詰があれば最高だったとか、言っています。そんな食品や缶詰、今でも売っているのかしら?

この夏、最高のハイキングを何度かコナシましたが、山頂には一度も立っていません。ガガたる瓦礫の岩山の裾、馬の背までは何度か行きましたが、そこから上は登山道などなく、下から見上げ、自分でルートを決めなければなりません。「オイ、あそこのリッジをコルまで登って、それからトラバースして、東の稜線に辿り着けば、後はスイスイだぞ…」と目の前に倒れてくるような岩山を観て、本人でさえ不可能だと思っているゴタクを並べています。

数年前、マウント・スニッフル(Mount Sniffles;4,313m)に登った時、(足首を挫く前、ダンナさんは異なるルートで3回登っています)私はいつもコルで待っているのですが、そこで、元本格的なアルピニストに出会いました。筋肉萎縮症で相当酷く足を引きずっている老人でした。私が目の前に聳える岩山に、あの岩に取り付くガッツも筋肉もない、それにもう歳だしね…と言ったところ、そのアルピニスト、「こうして目の前で山々を眺めることができるだけでも幸せなことだ。山はなにも登るだけのものではない」と言ったのです。その人の言葉、深く心に残りました。

くだんの彼氏、相当なお歳のようにお見受けしましたが、ヨーロッパの名峰、南米はアコンカグア、そしてエベレストだけでなく、マチュピチュなどなどにも登った経験を持っているのです。そんな本当の山男にして、山は登るだけのものではないと言うのです。ガムシャラに登る傾向のあるウチのダンナさんに彼の爪の垢でも煎じて飲ませたいくらいです。

ダンナさん、今年の冬、スキーで膝を痛めてから、グッと謙虚になり、もはや18歳ではないと、やっと自覚し、山里徘徊で満足しているようなので、今シーズンの山日記、ログブックに登頂記録が書かれることがないでしょう。

こうして多少なりとも足腰を鍛え、無事に冬場のスキー開幕を迎えることができたら、それで良いと思っています。

-…つづく

 

 

第674回:トラック輸送とコンテナ盗難事件

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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