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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第377回:夏のノースリーブ・ファッションの敵

更新日2014/08/28



お金持ち、貧乏な人、有名な人、無名の人、映画スターから市場で働いているオネーサンまで、誰彼分け隔てなく歳になれば必ず付くのが贅肉です。

とりわけ、夏になり、袖のない、腕を肩までムキダシにするノースリーブでは、袖のある服を着ていた時には隠れていた上腕筋の下の方がゆらゆら、ダブダブ揺らいでいるのが目立ってしまいます。それまで、やせ型でとてもカッコいい、スタイルのいい人だと思い込んでいた人のイメージを一挙に覆すような現実にお目にかかることも珍しくありません。上腕筋の下の肉が揺れているなら、きっと彼女のありとあらゆる部分もタルミ、揺れている……と連想が働いてしまいます。

日本人は言葉の遊び、自分自身をチャカして表現することに天才的なものがあります。初めて、"振袖"という表現を聞いたとき、「ウーム、ウマイ!」と感心してしまいました。これほど、腕のたるんだ肉と皮がヒラヒラと揺れる状態をピッタリと言い表す表現は他にないでしょう。 

腕だけでなく、体全体の贅肉のことを"はみ出した肉"を縮めて、"はみ肉"と言っているようですが、これなど、"振袖"のイメージの素晴らしさ、的確さにはとても及びません。

ところが、アニメ映画『崖の上のポニョ』をもじり、"肘の上のポニョ"とか、"お尻の下のポニョ"とか、"わき腹のポニョ"という言い方を聞き、またまた、「ウーム、うまいこと言うな~」と感心させられました。言いだしっぺは内館牧子さんではないか…と、ウチの仙人が言っております。

それにしても"ポニョ、ポニョ"という言葉は可愛らしくも、プクプクした余計な肉の感じが伝わってきます。これぞまさに天才的な表現です。

語感には世界中共通項でくくってしまえる響きがあります。"プクプク"と"ブクブク"では、受けるイメージが余程違ってきます。パ、ピ、プ、ペ、ポなど、半濁音は小さくて、可愛いものを表現していることが多いのです。それに反し、濁音、ガ、ダ、ド、ザ、ギ、などは大きくて、強いイメージでしょうか。

英語には"振袖"的な面白い表現はありません。贅肉のことを"スーパーフロー(superfluous)"と言いますが、これはそのままの"余った、こぼれた"肉の意味で面白味がまるでありません。

"アーム・ワブル(arm wobble)"というのも、腕の下で揺れ動くというだけで、どうにも英語の貧困さが目に付き、新しい言葉を面白おかしくドンドン創っていく造語能力が欠けているように思えます。"アーム・ジグル(arm juggle)"も同じように、ダブダブした揺れ動く腕の贅肉というだけの表現です。

比較的良くできた造語に"ビンゴ・アームス(bingo arms)"というのがあります。アメリカのお年寄りは暇つぶしによくビンゴゲームを楽しみます。その時、ビンゴを当てた人は、大声で「ビンゴー!」と叫び、そのカードを手にして腕を上げます。その腕にユラユラ、タプタプの振袖が付いている……というので"ビンゴ・アームス"という造語が生まれましたが、これとて、若い世代の人には、一体何のことか分らないでしょうね。

しかし、英語には日本語ではあまり見られない『韻』を踏む表現がみられます。
"Rump Lumps": rump はお尻、lumpは塊り、コブ、ひいては不格好なという意味です。 日本人の苦手なRとLがあるので、発音の練習になる言葉でもあります。

"Jabba Flabbas": 響きは面白いのですが、Jabbaの方、何かのキャラクターのようですが、今一つ誰にでもすぐに分かるイメージではありません。Flabは脂、脂肪の意味です。同時に締まりのない、ダラケタという意味もあります。

"Arm Charm": アーム・チャーム、文字通りなら"腕の魅力"…となるはずですが、ここでは捻って、"振袖"のことを意味します。

"Double Chubble": Chubby は丸々と太ったという意味ですから、ダブル、2重に丸々ということになります。

こう羅列してみても、英語では、日本語の"フリソデ" "ポニョ、ポニョ"のように的確なイメージを与えるうえ、響きの面白い表現とはとても比較になりません。軍配は日本語にサッと上げなくてはなりません。

私も、手を振ってさようならをするとき、手を挙げて黒板に何か書くとき、コンサートで拍手するときなど、私の"振袖"が周囲に余計な風を巻き起こさないよう、ツツマシク腕を動かすよう心がけなければなりません。

 

 

第378回:飢えているアメリカ?

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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