■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から


Grace Joy
(グレース・ジョイ)



中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。




第1回~第50回まで

第51回:スポーツ・イベントの宣伝効果
第52回:国家の品格 その1
第53回:国家の品格 その2
第54回:国家の品格 その3
第55回:国家の品格 その4
第56回:人はいかに死ぬのか
第57回:人はいかに死ぬのか~その2
第58回:ガンをつける
第59回:死んでいく言語
第60回:アメリカの貧富の差
第61回:アメリカの母の日
第62回:アメリカの卒業式
第63回:ミャンマーと日本は同類項?
第64回:ミャンマーと民主主義の輸入
第65回:日本赤毛布旅行
第66回:日本赤毛布旅行 その2
第67回:日本赤毛布旅行 その3
第68回:スポーツ・ファッション
第69回:スペリング・ビー(Spelling Bee)
第70回:宗教大国アメリカ
第71回:独立記念日と打ち上げ花火
第72回:ティーンエイジャーのベビーブーム
第73回:アメリカで一番有名な日本人
第77回:ロパクってなんのこと?


■更新予定日:毎週木曜日

第78回:派手な政治ショーと選挙

更新日2008/09/18


アメリカでは民主党、共和党の副大統領候補も決まり、これから選挙までの50日間、テレビも新聞も選挙戦でかなり騒々しいことになります。アメリカの政治は4年に一度ストップするとよく言われますが、これから完全にストップする期間になるわけです。

今は昔と、今昔物語みたいな書き出しになりますが、ほんとにもう半世紀近く昔になるのに自分でも驚いています。初めての日本、大阪郊外の吹田市に住んでいたとき、連日「オネガイシマース」とトラックに積んだラウドスピーカーから最大のボリュームで流される叫び声がなんのためのものか分りませんでした。

ちり紙交換や竹竿屋さんはもっと遠慮がちに、静かな声で流していましたが、この「オネガイシマース」は絶叫型に近く、大震災でも起きたのかと思ったほどです。自分の名前と「オネガイシマース」だけを繰り返しているのが選挙のためだと知り、さらにびっくり仰天でした。

候補者の政策や人格を知っている有権者なら、当然、彼、彼女の名前を知っているはずですし、その候補者のことを全く知らない人なら、名前だけを知ったところで、その人に投票する理由にならないし、どちらにしても「オネガイシマース」は効果の全くない、聞く方にも、叫ぶ方にとっても、エネルギーの無駄遣いだと思えたのです。

でも、マーケットリサーチによれば、ともかく名前、商品名をお客さんの耳に何度も叩き込み、脳の片隅に植えつけると、いざ買い物に出かけたとき、並んだ商品の中から、名前を知っているモノを選ぶ傾向があるのだそうです。一種の洗脳ですね。日本の選挙戦はきっと、自分を商品として売り込む作戦なのかもしれませんね。

どんなことでもショーにしてしまうことに異常な情熱を傾けるアメリカ人は、選挙も最大級のショーにしました。

まず、民主党の大統領候補指名ですが、デンバーで民主党党大会が開かれ、もうすでに2ヵ月も前に決まっている、オバマ候補を正式に指名する"儀式"を最大級のショーとして演出したのです。

盲目の黒人歌手スティービー・ワンダーが歌い、人気一番の女性カントリー・シンガー、シャロル・クローが色を添え、芸能人が顔を並べ、政治家でも名前の通った有名な人、テッド・ケネディー、ヒラリー・クリントンなどが応援演説をし、オバマが登場する頃には超満員のアメリカンフットボール・スタジアムは熱しきっていました。

テレビも4大チャネルすべてが、コマーシャル抜きで放映しました。この夜、オバマの演説を見た人は3,900万人で、オリンピックの開会式よりズーッと視聴率が高かったそうです。

オバマは、話しの内容、間の置きかた、声の調子トーンの変え方、どれをとっても天才的な話し手で、昔、丁度その同じ日にマーティン・ルーサー・キングがワシントンで有名な「I have a dream……」の演説をしたことを引き合いに出して演説を締め、新聞のコラムでは、歴史的な名演説とまで評価されたショーを終えたのでした。

終焉は紙吹雪が舞い、何千というテープが飛び交い、何千何万の風船が放たれ、もちろん花火が打ち上げられ(北京オリンピックの開会式の花火には負けますが、盛大なものでした)、これからスーパーボールの試合が始まってもおかしくない超派手な演出でした。

その次の週には、共和党の大会がセントポールで開かれ、副大統領候補に中央政界では無名に近いアラスカ州の知事で44歳の女性、サラ・ペイラントが公に指名され、演説をしました。彼女の演説も見事なもので、テレビを通じて3,720万人がニューフエイスを見たそうです。ペイラント効果で、今まで民主党に20パーセント近く差をつけられていた共和党が一気に盛り返し、現在の支持率はお互いに49パーセントと互角です。

と、こうしてみると、一見アメリカ人はとても政治に関心が深いと、誤解されそうです。大掛かりなショーが好きなだけでなければよいのですが…。

日本の首相は、選挙で選ばれた議員の最大党の党首がなるというのは理屈としては知っているのですが、どうにもピンときません。第一、次から次へと党首を変えるような政党を支持する人がいるのも不思議ですし、党首を選ぶ過程もはっきり分りません。うちのダンナさんは、コト日本に関して点数が厳しすぎる傾向がありますが、彼の説によれば、「首相や大臣に誰がなるかなんかは、みな料亭で飲み食いしながら決めているんだぞ」ということになりますが、ホントでしょうか。

アメリカの政治運動からショー的要素がなくなれば、もっと政策がよく見えるようになり、実務的な政治ができるようになるでしょうし、逆に日本の政治はもっと人々にアピールする公の討議、政策を具体的に分りやすく説明する機会を増やし、テレビでどんどん放映してはどうでしょうか。多少のショー的要素があっても、それだけの視聴者を引きつけるなら、政治に関心を寄せる人が増えるなら、良いではありませんか。

またまたうちのダンナサンによれば、「そんなもの、誰が見る?」ということになりますが。私としても、日本の次期首相候補者の演説合戦がオリンピックの開会式の視聴率を上回ることを想像してはいませんが…。

政治音痴の私まで、このところの大統領選挙熱にあおられ、自分らしくない日米選挙談義を書いてしまいました。

 

 

第79回:「蟠桃賞」をご存知ですか?