坂本由起子
(さかもと・ゆきこ)

マーケティングの仕事に携わったあと結婚退社。その後数年間の海外生活を経験。地球をゴミだらけにしないためにも、自分にとって価値のあるものを探し出したいと日々願う主婦。東京在住。

■更新日:2002年03月27日(完)

バックナンバー

最終回:犬との生活

ずっと夢見ていた犬のいる生活。いつか……と思っているだけでは何も始まらないことはわかっていた。そして1年ほど前、私たちは行動に移した。犬が飼えるマンションに引っ越しをしたのだ。

犬と暮らす環境は手に入れた。あとは私の誕生日かクリスマスに、夫が段ボール箱を抱えて帰宅し、その箱を開けると赤いリボンを付けた子犬が入っている……というのを待つだけだった。しかし季節は春。3月も半ばにさしかかっていた。クリスマスはまだ遠い。しかも、私の誕生日は9月。半年も待てない現実がそこにあった。今すぐ探しに行こう。二人の週末は子犬探しの日々となった。

ビーグル犬が欲しい。私たちの意見は一致していた。まずは都内にあるメジャーなペットショップを見に行くことにした。ショーウィンドウの中ではミニチュアダックスフントやゴールデンレトリバーの子犬たちが遊んでいる。よく見ると、その奥にあるケージの隙間からピンクの肉球をギューッと出して眠っているビーグルを発見。しかし肝心の顔がよく見えない。しばらく待っていたが一向に起きる気配がない。今日はとりあえず見に来ただけだから、まぁいいか。と、お店を後にする。

2軒目、3軒目ともにビーグル犬はいなかった。気が付けば二人とも1軒目でみたビーグルの話題ばかりに口にしている。犬を飼っている人たちが言っていた言葉を思い出す。「とりあえず見に行くのはやめた方がいい。見てしまったら絶対欲しくなってしまうから。」たくさん見てから選ぶというのは、動物には当てはまらないことを知った。

次の週末。まるで私たちを待っていてくれていたかのように、ビーグルはそこにいた。そして初めて抱かせてもらう。片手にすっぽりと収まってしまうほど小さな体から、心臓の音が伝わる。ものすごく早い。手のひらを通して命の重さと、命を買うことの責任のようなものを感じずにはいられなかった。お店の人と話しをするうちに、いつのまにか私たちが飼い主としてふさわしいのかを見られているようだった。確かに子犬はかわいい。けれど、かわいいという気持ちだけでは買う人は、最後まで面倒が見れないことをわかっていて、お店の人は心配しているのだ。

犬を飼う環境と心の準備はできていることを伝え、晴れてその子犬は私たちの家族となった。名前は「オーパス(Opus)」に決めていた。その不思議な名前は、「オーパスワン(Opus One)」というカリフォルニアワインの名前から頂戴した。

オーパスが来てからの1年は、ともに成長の日々だった。怒りたくないけれど叱らねければならないときもある。かわいい寝顔をみながら自分が感情的に怒鳴ったことの反省をする日も多く、まるで育児ノイローゼのようだった。そんな日々もあっと言う間に過ぎ、今となっては笑い話だ。言葉の意味をだんだん理解するようになり、昨日までできなかったことが突然できるようになる。私にも変化が訪れた。ほぼ毎日散歩をするようになり、近所に知り合いが増えた。歩く距離も日に日に長くなっていった。そして、季節のうつろいを肌で感じるようになった。毎日が同じようで同じ日はないのだ。

犬は人間の7倍のスピードで成長をするというのはどうやら本当らしい。この1年はオーパスにとっての7年だったのが、彼の成長ぶりを見ればよく分かる。私もこんなに充実した1年は久しぶりだった。

やんちゃで甘えん坊でマイペース。こんなオーパスとの生活はまだまだ始まったばかりだ。もはやお金では買えない、かけがえのないものを手に入れたという喜びはとても大きい。

さて、今回の話を最後に「幸福の買い物」は終わりとなります。今までどうもありがとうございました。そして今月の「のらり」のトップページには我が家のオーパス(生後6カ月のころ)を出させていただきました。

 

→ 第1回:長く、いつまでも。トースターの話

→ TOPページ


[ 拳銃稼業 ] [ 感性工学的テキスト商品学 ] [ ダンス・ウィズ・キッズ ] [ 清香茶房 ]
[ 幸福の買い物 ] [ 生き物進化中 ] [ 貿易風の吹く島から ] [ シリコンバレー ] 
[ Have a Nice Trip! ] [ ワイン遊び ] [ よりみち ] [ TOP ]


ご意見・ご感想は postmail@norari.net まで。
NORARI (c)2002